血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

文字の大きさ
50 / 91
仲間

上の話

しおりを挟む
――レヴィア視点・就寝前の夜

布団を敷いたのは、いつも通りだった。
狭い部屋の一角、寝返りを打てばすぐ背中がぶつかるくらいの距離。
それでも、レヴィアは一緒に眠ることを許している――唯一の存在がマチルダだった。

隣で小さな体が毛布にもぐり込む音がする。
マチルダは、いつも先に目を閉じて静かになる。今日も、そうだと思っていた。

けれど、今夜は違った。

「……レヴィアは、地上に行きたい?」

ふいに、天井を見上げたままの小さな声。

レヴィアは目を閉じたまま答えなかった。
が、問いかけの意図はすぐに分かった。

(ラナードのことか)

「……さぁな」

「そっか」

マチルダも深くは聞かない。ただ、そのまま続けるように話し始めた。

「私ね、殺し屋の時、地上に何度も行ったことあるけど……正直、そんなにいいところだって思わなかった」

声に感情はなかった。回想でもなければ、懐かしさでもない。ただ事実を並べるように。

「空が広くて、星も見えるし……太陽はあったかいけど、冷たい人が多かった」

「……ああ」

「地下の方が、まだマシだった。誰も信用できないのは同じだったけど、飢えてるぶん、本音が見える」

「……そうかもな」

マチルダは顔をレヴィアの方へ向けて、毛布に頬を埋めたまま言った。

「でも、ラナードは言ってた。地上に行って、地下の人間を助けたいって。……それって、どう思う?」

レヴィアはしばらく黙っていた。
けれど、いつもより少し長く息を吐いて、答える。

「……理想だけで言うなら、綺麗だ。正しいことだと思う」

「でも?」

「でも、それを実現するには、手を汚さなきゃならねぇ」

「……」

「地上の人間は、地下の人間なんか見下してる。正面から叩いても、押しのけても、潰されるだけだ。……だから、汚く立ち回る必要がある。俺は、そう思ってる」

マチルダの視線が、わずかに揺れた。

「……じゃあ、レヴィアは地上に行きたい?」

「……分かんねぇ」

淡々と、でも少しだけ苦味の混じった声。

「昔は、憧れてた時期もあった。だけど今は……」

レヴィアは目を開けずに、呟いた。

「今は、ここに“守るもん”がある。それだけで十分かもしれねぇ」

少しの間、静寂が流れる。

マチルダが毛布の中で、小さく動いた。

「……私も、それでいいって思う」

その声は、どこかほっとしたようでもあった。

レヴィアは目を開けて、隣のマチルダを横目に見た。
彼女はすでに目を閉じている。呼吸は静かで、眠っているようにも見える。

(……お前は、どれだけ人に裏切られても、少しだけ、信じることをやめてねぇんだな)

レヴィアはほんのわずかに布団を引き寄せ、マチルダの肩が冷えないように包む。

「……地上になんか行かなくても、お前が笑えるならそれでいい」

誰にも聞こえないほど小さな声で、そう呟いてから、目を閉じた。

暗闇の中、ふたりだけの寝息が重なっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...