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仲間
悪戯
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――地下・朝の裏通り
地下の通りには、まだ朝の薄暗さが残っていた。
水たまりの名残を踏まないように歩くレヴィアの隣で、ラナードが話しかけ続ける。
軽口だらけの会話だったが、互いの距離がほんのわずかに縮まり始めている気配があった。
そんなときだった。
――「わッ!」
背後から飛び出す声。
「うわあ!?!?!?」
ラナードが飛び跳ねるように後退し、仰け反る。
レヴィアも、ピクリと肩がわずかに揺れた。
すぐ背後に立っていたのは、笑いを堪えるように口を押さえたマチルダだった。
「ッ……んふ、レヴィアが……ビビってる……」
声を震わせながら笑いをこらえている。
「てめぇ……普通に話しかけろ。足音くらい鳴らせ」
「無理~、癖だもん」
マチルダは悪びれもせず、首を傾げて小さく笑った。
ラナードはというと、未だに胸を押さえながら青ざめている。
「ビビった~……マジで心臓止まるかと思った……。お前ほんとに、ただの子どもじゃねぇな……」
(何なんだ、この気配のなさ……完全に“気配の殺し方”を心得てる。地下で有名な連中でも、ここまでのは見たことない)
だが、ラナードはあえてそれ以上の言葉を飲み込んだ。
(……踏み込んだら、レヴィアが嫌がるだろうな)
その程度の空気は、さすがに読める。
「お前、どこ行ってたんだよ」
レヴィアがマチルダに向かって尋ねる。
「んー……内緒~」
レヴィアは眉をひそめたが、それ以上は聞かなかった。
「地下で“内緒”なんざ、あんまり良い意味じゃねぇけどな」
「大丈夫。レヴィアが怒るようなことはしてないよ?」
「逆に怪しいな……」
「……失礼だなあ~」
ラナードはそのやり取りを横で聞きながら、ぽつりとつぶやく。
「なんか、兄妹みてぇだな」
マチルダがふっと振り返る。
「えー、レヴィアは私よりだいぶ年上だけど、兄って感じしないなぁ」
「じゃあ何?」
「……レヴィアは、レヴィア」
シンプルな答えだった。けれど、その言い方には、何か揺るぎのない信頼が滲んでいた。
ラナードがちらりとレヴィアを見れば、彼は特に反応を見せない。ただ、少しだけ表情の力が抜けているようにも見えた。
「マチルダはさ、いつからレヴィアと?」
「……四年くらい前かな」
「へえ……」
(四年? ってことは、この空気感は……時間をかけて築いたやつだな)
「最初は、殺そうとしてたけどね」
「えっ」
「言うな」
「ふふ。レヴィアイが『言うな』って言う時は、大体図星だよね~」
ラナードはわけが分からず苦笑いするしかなかった。
「いや、マジで怖ぇよ……俺、まだ何にもしてねぇのに、喉に刃当てられたの一生忘れねぇからな……」
「でも殺してないでしょ?」
「いや、殺されてねぇだけだよ」
マチルダはふふっと微笑んで、レヴィアの隣に並んだ。
「レヴィア。お昼、何食べる?」
「……聞く前に作る準備でもしろ」
「えー、面倒くさーい。ラナードが作ってくれるってー」
「えっ」
「……あ?」
レヴィアとマチルダに同時に見られて、ラナードが硬直する。
「は、ははっ……作るっつってもなぁ、地下の食材じゃ限度があるし……」
「じゃあ、レヴィアが作ってくれるって~」
「てめぇ……」
そんなやり取りを交わしながら、三人の距離は、ゆっくりと少しずつ、けれど確かに近づいていた。
地下の通りには、まだ朝の薄暗さが残っていた。
水たまりの名残を踏まないように歩くレヴィアの隣で、ラナードが話しかけ続ける。
軽口だらけの会話だったが、互いの距離がほんのわずかに縮まり始めている気配があった。
そんなときだった。
――「わッ!」
背後から飛び出す声。
「うわあ!?!?!?」
ラナードが飛び跳ねるように後退し、仰け反る。
レヴィアも、ピクリと肩がわずかに揺れた。
すぐ背後に立っていたのは、笑いを堪えるように口を押さえたマチルダだった。
「ッ……んふ、レヴィアが……ビビってる……」
声を震わせながら笑いをこらえている。
「てめぇ……普通に話しかけろ。足音くらい鳴らせ」
「無理~、癖だもん」
マチルダは悪びれもせず、首を傾げて小さく笑った。
ラナードはというと、未だに胸を押さえながら青ざめている。
「ビビった~……マジで心臓止まるかと思った……。お前ほんとに、ただの子どもじゃねぇな……」
(何なんだ、この気配のなさ……完全に“気配の殺し方”を心得てる。地下で有名な連中でも、ここまでのは見たことない)
だが、ラナードはあえてそれ以上の言葉を飲み込んだ。
(……踏み込んだら、レヴィアが嫌がるだろうな)
その程度の空気は、さすがに読める。
「お前、どこ行ってたんだよ」
レヴィアがマチルダに向かって尋ねる。
「んー……内緒~」
レヴィアは眉をひそめたが、それ以上は聞かなかった。
「地下で“内緒”なんざ、あんまり良い意味じゃねぇけどな」
「大丈夫。レヴィアが怒るようなことはしてないよ?」
「逆に怪しいな……」
「……失礼だなあ~」
ラナードはそのやり取りを横で聞きながら、ぽつりとつぶやく。
「なんか、兄妹みてぇだな」
マチルダがふっと振り返る。
「えー、レヴィアは私よりだいぶ年上だけど、兄って感じしないなぁ」
「じゃあ何?」
「……レヴィアは、レヴィア」
シンプルな答えだった。けれど、その言い方には、何か揺るぎのない信頼が滲んでいた。
ラナードがちらりとレヴィアを見れば、彼は特に反応を見せない。ただ、少しだけ表情の力が抜けているようにも見えた。
「マチルダはさ、いつからレヴィアと?」
「……四年くらい前かな」
「へえ……」
(四年? ってことは、この空気感は……時間をかけて築いたやつだな)
「最初は、殺そうとしてたけどね」
「えっ」
「言うな」
「ふふ。レヴィアイが『言うな』って言う時は、大体図星だよね~」
ラナードはわけが分からず苦笑いするしかなかった。
「いや、マジで怖ぇよ……俺、まだ何にもしてねぇのに、喉に刃当てられたの一生忘れねぇからな……」
「でも殺してないでしょ?」
「いや、殺されてねぇだけだよ」
マチルダはふふっと微笑んで、レヴィアの隣に並んだ。
「レヴィア。お昼、何食べる?」
「……聞く前に作る準備でもしろ」
「えー、面倒くさーい。ラナードが作ってくれるってー」
「えっ」
「……あ?」
レヴィアとマチルダに同時に見られて、ラナードが硬直する。
「は、ははっ……作るっつってもなぁ、地下の食材じゃ限度があるし……」
「じゃあ、レヴィアが作ってくれるって~」
「てめぇ……」
そんなやり取りを交わしながら、三人の距離は、ゆっくりと少しずつ、けれど確かに近づいていた。
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