血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

文字の大きさ
64 / 91
仲間

全てを見る

しおりを挟む
――マチルダ視点/敵アジト内部

「……うん、分かった。ありがとう」

差し出されたコップを受け取るふりをして、唇をわずかに濡らす。
甘い香り。後味に、ほんのりとした苦味。

(……睡眠薬。量からして、即効性の弱いやつ。子ども相手用の、かな)

反応はしない。
殺し屋の訓練で、こういう薬物は散々体内に入れてきた。
多少の眠気成分じゃ効かない。けれど“効いたフリ”をするのは得意だ。

私は大きく目をこすって、あくび混じりに床へ転がった。

「……むにゃ……ねむい……」

男は笑っていた。
そのニヤついた顔を、私は伏せた目の下で静かに睨みながら観察する。

(建物の間取り、廊下は一本道。人数は……表にいたのが7人、ここの下層で動いてるのが4人……奥の小部屋にいたのが5人……合計16)

(被害者の人数は……8。ほとんどが女の子。意識があるのは2人だけ)

私はゆっくり、眠ったフリをしながら呼吸を整えた。

――数秒後、身体が抱きかかえられる。

「よし、いい子だねぇ。さ、こっちにおいで」

(……このまま、あの部屋に入るのね)

男の腕の中で揺られながら、私の視線はゆっくりと周囲をなぞる。

天井の梁。鉄製の扉。壁に打ち付けられた固定具。
注射器や薬のボトルの数。保存されている薬液の色――そして、鍵の置き場所。

(……完璧)

たどり着いた部屋には、薬の副作用に苦しむ“被害者”たちがいた。
服は乱れ、肌は赤く、息遣いは荒い。
ほとんどが正気を保っておらず、こちらに目を向ける余裕もなかった。

私は目をうっすら開けながら、息を呑んだふりをする。

「ここ……どこ……?」

震える声は、思ったよりも自然に出た。

「大丈夫、すぐに楽になるよ。おじさんがいっぱい注射してあげるからねぇ」

(……そう。これが、あの“薬”の本当の使い方)

私は無言で頷いて、素直に腕を差し出した。
暴れたりはしない。怯えるフリをしながら、じっと男の顔を見つめる。

「いい子だ」

注射針が皮膚を貫く感覚。
けれど、私は眉一つ動かさない。

(“効かない”ことが、武器になる)

私は知っている。
本当にヤバくなったら、手の後ろで拘束された関節を外して逃げられる。
ナイフがなくても、殺す方法は幾つもある。

だから今は、演技を続ける。
すべての情報を集めるために。

(レヴィア……今、どこにいる?)

(来るなら、もうすぐ。――来ないなら、私がやるしかない)

静かに目を閉じた。
“目覚める”ときまで、あと少し。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...