血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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仲間

奪われた欲

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レヴィア視点

俺とマチルダは、賑やかに言い合うイリナとラナードの少し後ろを並んで歩いていた。地下街のざらついた石畳に、ガキどもの足音と喧騒が響いている。

マチルダは俺の隣で、いつも通り無口で、穏やかで、静かに歩いていた。

「……お前の物欲の無さは相変わらずだな」
ふと思い出して、口を開いた。

「初めてお前と買い出しに来た時は、本当にガキらしくねぇなって思った」

「よく分かんないもん」
即答だった。

「……そうだな」
(分かるわけがねぇか。そんな環境じゃなかったからな)

殺し屋だったってことを、俺は知ってる。
ガキらしさも、甘え方も、欲を表すことすらも──教わるどころか、最初から許されてなかった。

(奪われた、か)

マチルダがチラリと俺を見て、いたずらっぽく微笑んだ。

「じゃあ、わがままいっぱい言ってレヴィアのこと困らせちゃおうかな」

「腐るほど言え」
即答した。

お前がガキらしくできるなら、俺は全部受け止める。
それくらい、何でもしてやる。

「んー……じゃあ、頭撫でて?」

「……それはわがままじゃねぇ」
思わず吹き出しそうになった。

「え、違うの?どういうのがわがままなの?」
首を傾げて、キョトンとしている。

(……このズレ方がマチルダらしいっちゃらしい)

「わがままってのはな、たとえば“パン食べたい”とか、“帰りたくない”とか、“抱っこして”とか、そういう……“無理筋でも通そうとすること”だ」

「へぇ~……それ、困る?」

「場合によるな」

「じゃあ、“おんぶして帰りたい”って言ったら?」

「重い」

「え~、わがまま叶えてくれるって言ったのに」

「……全部叶えるとは言ってねぇ」
「ふふっ」

マチルダはクスクス笑って、俺の袖をそっと握った。

──こいつがガキらしく笑ってるだけで、俺は救われる。
わがままなんて、いくらでも言ってくれ。
その分、過去にできなかったことを、今から取り戻せばいい。

「レヴィア、さっきの“パン食べたい”ってやつ」
「ん?」
「……帰ったら食べてもいい?」
「……まだあったな」
「やった♪」

──それが今のところ、マチルダの“最大級のわがまま”だった。

(先は……長ぇな)

だけどその“長さ”すら、嬉しく思える自分がいた。





人通りの少ない裏道で、ガキどもが少し前を歩いてる。

俺はふと足を止め、マチルダの前に腰を下ろした。

「ん?」
怪訝そうに首を傾げるマチルダ。

「……おんぶして帰りたいって言っただろ」

「え、でも……重いって言ったじゃん」

「腐るほど言えって言ったのは俺だ。それに、お前の言う“わがまま”は貴重だからな。叶えてやらねぇと、俺がここにいる意味がねぇ」

「???」
理解が追いついてねぇ顔。

(……まぁ、分かんなくてもいい)

「とにかく乗れ。でなきゃやめるぞ」
「えっ、やだ!」

マチルダは弾かれたように俺の背中に飛び乗ってきた。

ギュッ、と小さな腕が首の下に回る。

……軽いな。
これで元殺し屋ってんだから、やっぱりこいつは化け物だ。

後ろからは顔は見えねぇけど、きっと今、心底嬉しそうな顔してやがる。
くすぐったいくらいに楽しげに、足をブラブラ揺らしてる。

「……楽しいか」
「うんっ」

それだけの一言で、全部報われた気がした。

──が。

「うわあああああ!!」
突如前方で爆発音みてぇな叫び。

「またやってるぅぅぅ!!」
イリナだった。

「兄貴ずるい!!なんでマチルダだけ!!次は私のことおんぶしてくれよぉぉぉ!!」

「……」
無視して歩き続ける。

「ラナード、お前背負ってくれよ!私軽いから!」

「やだよ。俺はレヴィアじゃねぇし。てか、お前重いし」

「はぁ!?重くねぇし!!」
「じゃあ自分でレヴィアに頼めよ」

「兄貴~!私もわがまま言っていいって聞いたもん!!」

「……お前のはただの騒音だ」
「なんでぇぇぇぇ!!」

横からマチルダの小声。

「レヴィア、イリナってうるさいね」
「今さらかよ」

マチルダの笑い声が、背中から小さく響いた。

──このくらいの“わがまま”なら、いくらでも聞いてやる。
こいつが俺にだけ素を見せてくれる限り、な。
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