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それから清盛と藤本の言い合いが終わったところでおいとまし、悠は木全家でいつものようにご飯を作っていた。
今日のメニューはギョーザに春雨とワカメのスープ、炒飯と野菜炒めで中華風だ。
「…………キヨ、くっついてたら作れないんだけど」
火力と時間が勝負の中華で、悠は清盛に邪魔をされていた。
背中からじんわり伝わる熱が嬉しくて、悠もはっきり拒めないでいる。
「悠を食べていい?」
「何バカなことを言ってるんだ」
間髪入れず突っ込むと、首筋に噛みつかれた。
ビクリと震えた身体をギュッと抱きしめられ、この一動作で熱くなった身体の熱を吐き出すように、ため息をつく。
「こら……」
「だって悠、身体熱いよ?」
そう言って止めようとしない清盛の頭を叩く。
「だから、ご飯作れないだろ? 分かった……受験終わるまで待って」
「悠……」
これ以上は妥協しないぞ、と清盛の腕をそっと外す。
火を使うから、と言うと、清盛は大人しく離れた。
悠からは表情は見えないが、無言で立ち尽くしている清盛は、どんな顔をしているのだろう、と振り返ると、彼は口元を押さえて耳まで真っ赤に染めていた。
「受験……あと一週間……」
もはや清盛にはそのことしか頭にないのだろう、色ボケにも程がある。
何も悠たちが受験するのは、一校だけではないのだ。
悠にしてみれば合格するまでだと言いたかったのだが、ここでちゃんと釘を刺しておく。
「バカ、二人で合格するまでだ。それの前に、俺たちにはやるべきことがたくさんあるだろ?」
「よっしゃ! だったら一発合格できるように、勉強もしないとな! 早くメシ食ってやろうぜ」
単純に頭を切り替えた清盛は、やっぱりご飯を作れと急かす。
この自分勝手さに呆れたが、こちらもやっぱり許してしまう悠は、さらに自分にも呆れた。
その三週間後、試験中清盛が風邪を引いて、高熱を出しながら試験に挑まなければならないというハプニングが起きたものの、藤本も含め三人で同じ大学に合格することができた。
密かに家を出ることを考えていた清盛は、絵美との話し合いの結果、今住んでいる一戸建てを売り、絵美は会社の近く、清盛は大学の近くのマンションに部屋を借りた。
それが実現できたのは、清盛が悠とルームシェアをすると言い出したからだ。
一人暮らしは絶対に無理と言っていた絵美も、「悠ちゃんがいるなら安心ね」と笑顔で賛成している。
ここに住む時間も残りわずかとなった清盛の家で、二人はいつものようにご飯を食べ終わったところだ。
「まったく、絵美さんも俺のこと何だと思ってるんだ……」
片づけをしながら愚痴ると、清盛が自ら手伝ってくれる。
皿を運んで流しに置くたび、悠の後ろから抱きつくようにしてくるから恥ずかしい。
「いっそのこと、悠ちゃんがお嫁さんになってくれれば、楽なのになーって言ってたぜ? 緑さんに相談したら、“のし”付けてあげるわって言われた、とか言ってた」
緑とは悠の母親のことで、お互いの親をさん付けで呼ぶほど、長い付き合いで仲がいい。
悠が女嫌いなのを知っている家族だから、そんな冗談も出たのだろう。
しかし本人たちにしてみれば、冗談じゃ済まないからやっかいなのだ。
「まぁそれに……うちの親は多分気付いてるっぽいし」
「えっ?」
さらりと言ってのけた清盛の爆弾発言に、悠は固まった。
ちょうど最後の皿を流しに運び終えた清盛は、そのまま悠を抱きしめる。
「俺が家を出たいって話したときに、悠も一緒ならって条件付だっただろ? あれ、母さんの案。俺の我儘をあれだけ聞いてくれる、あんないい子はいないから大事にしなさいって……将来は、食べる分だけでも稼いで助けてあげなさいって」
まるで付き合っていることを知っているような、将来を見据えるアドバイスはドキッとしたが、どこかホッとし、嬉しく思う。
「……そっか」
悠はそう呟くと、顔を覗いてきた清盛に軽くキスされた。
「なぁ、早く片付けちまおうぜ」
やけに自分から手伝ってくれると思っていたら、そういうことらしい。
頭や耳にもキスをされ、くすぐったさに身を捩る。
「受験終わったのに全然させてくれねーんだもん。今日は良いよな?」
受験だ引越しだ、と何かと忙しくてそれどころではなかった悠は、今日こそ逃げる理由が何もないことに気付く。
一度言ったことを覆すのも、悠の性格的にできなかった。
「…………わかった」
緊張して声が掠れてしまったけど、やっとそれだけを返すと、清盛は嬉しそうにぎゅうぎゅう抱きしめてきた。
唯一触れても平気な体温は、悠の中で、別の意味で平気じゃなくなっている。
それは、蕩けるような甘い痺れを知ってしまったからであり、それを身体が求めようとしているのが分かってしまったから、いたたまれなかった。
「ん。……じゃ、風呂、入ってこいよ」
洗い終えた食器は俺が片付けておくから、と珍しい言葉を残し、清盛は悠を風呂場へ追いやった。
その意図を悠は感じてしまい、嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。
多分清盛は、悠が本当にしたいのか、考える時間をくれたのだ。
「はぁ……」
正直言って怖い。
どんなことをするのか想像もつかないし、快楽に飲み込まれる自分を見せることになるのか、逆に、受け付けなくなってしまうのか、自分でも分からないからだ。
結局、風呂上りまでにその答えを出せず、交代で清盛が風呂から出てくるまで、悶々と考えていた。
今日のメニューはギョーザに春雨とワカメのスープ、炒飯と野菜炒めで中華風だ。
「…………キヨ、くっついてたら作れないんだけど」
火力と時間が勝負の中華で、悠は清盛に邪魔をされていた。
背中からじんわり伝わる熱が嬉しくて、悠もはっきり拒めないでいる。
「悠を食べていい?」
「何バカなことを言ってるんだ」
間髪入れず突っ込むと、首筋に噛みつかれた。
ビクリと震えた身体をギュッと抱きしめられ、この一動作で熱くなった身体の熱を吐き出すように、ため息をつく。
「こら……」
「だって悠、身体熱いよ?」
そう言って止めようとしない清盛の頭を叩く。
「だから、ご飯作れないだろ? 分かった……受験終わるまで待って」
「悠……」
これ以上は妥協しないぞ、と清盛の腕をそっと外す。
火を使うから、と言うと、清盛は大人しく離れた。
悠からは表情は見えないが、無言で立ち尽くしている清盛は、どんな顔をしているのだろう、と振り返ると、彼は口元を押さえて耳まで真っ赤に染めていた。
「受験……あと一週間……」
もはや清盛にはそのことしか頭にないのだろう、色ボケにも程がある。
何も悠たちが受験するのは、一校だけではないのだ。
悠にしてみれば合格するまでだと言いたかったのだが、ここでちゃんと釘を刺しておく。
「バカ、二人で合格するまでだ。それの前に、俺たちにはやるべきことがたくさんあるだろ?」
「よっしゃ! だったら一発合格できるように、勉強もしないとな! 早くメシ食ってやろうぜ」
単純に頭を切り替えた清盛は、やっぱりご飯を作れと急かす。
この自分勝手さに呆れたが、こちらもやっぱり許してしまう悠は、さらに自分にも呆れた。
その三週間後、試験中清盛が風邪を引いて、高熱を出しながら試験に挑まなければならないというハプニングが起きたものの、藤本も含め三人で同じ大学に合格することができた。
密かに家を出ることを考えていた清盛は、絵美との話し合いの結果、今住んでいる一戸建てを売り、絵美は会社の近く、清盛は大学の近くのマンションに部屋を借りた。
それが実現できたのは、清盛が悠とルームシェアをすると言い出したからだ。
一人暮らしは絶対に無理と言っていた絵美も、「悠ちゃんがいるなら安心ね」と笑顔で賛成している。
ここに住む時間も残りわずかとなった清盛の家で、二人はいつものようにご飯を食べ終わったところだ。
「まったく、絵美さんも俺のこと何だと思ってるんだ……」
片づけをしながら愚痴ると、清盛が自ら手伝ってくれる。
皿を運んで流しに置くたび、悠の後ろから抱きつくようにしてくるから恥ずかしい。
「いっそのこと、悠ちゃんがお嫁さんになってくれれば、楽なのになーって言ってたぜ? 緑さんに相談したら、“のし”付けてあげるわって言われた、とか言ってた」
緑とは悠の母親のことで、お互いの親をさん付けで呼ぶほど、長い付き合いで仲がいい。
悠が女嫌いなのを知っている家族だから、そんな冗談も出たのだろう。
しかし本人たちにしてみれば、冗談じゃ済まないからやっかいなのだ。
「まぁそれに……うちの親は多分気付いてるっぽいし」
「えっ?」
さらりと言ってのけた清盛の爆弾発言に、悠は固まった。
ちょうど最後の皿を流しに運び終えた清盛は、そのまま悠を抱きしめる。
「俺が家を出たいって話したときに、悠も一緒ならって条件付だっただろ? あれ、母さんの案。俺の我儘をあれだけ聞いてくれる、あんないい子はいないから大事にしなさいって……将来は、食べる分だけでも稼いで助けてあげなさいって」
まるで付き合っていることを知っているような、将来を見据えるアドバイスはドキッとしたが、どこかホッとし、嬉しく思う。
「……そっか」
悠はそう呟くと、顔を覗いてきた清盛に軽くキスされた。
「なぁ、早く片付けちまおうぜ」
やけに自分から手伝ってくれると思っていたら、そういうことらしい。
頭や耳にもキスをされ、くすぐったさに身を捩る。
「受験終わったのに全然させてくれねーんだもん。今日は良いよな?」
受験だ引越しだ、と何かと忙しくてそれどころではなかった悠は、今日こそ逃げる理由が何もないことに気付く。
一度言ったことを覆すのも、悠の性格的にできなかった。
「…………わかった」
緊張して声が掠れてしまったけど、やっとそれだけを返すと、清盛は嬉しそうにぎゅうぎゅう抱きしめてきた。
唯一触れても平気な体温は、悠の中で、別の意味で平気じゃなくなっている。
それは、蕩けるような甘い痺れを知ってしまったからであり、それを身体が求めようとしているのが分かってしまったから、いたたまれなかった。
「ん。……じゃ、風呂、入ってこいよ」
洗い終えた食器は俺が片付けておくから、と珍しい言葉を残し、清盛は悠を風呂場へ追いやった。
その意図を悠は感じてしまい、嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。
多分清盛は、悠が本当にしたいのか、考える時間をくれたのだ。
「はぁ……」
正直言って怖い。
どんなことをするのか想像もつかないし、快楽に飲み込まれる自分を見せることになるのか、逆に、受け付けなくなってしまうのか、自分でも分からないからだ。
結局、風呂上りまでにその答えを出せず、交代で清盛が風呂から出てくるまで、悶々と考えていた。
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