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第34話
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鳶色の髪を揺らせて進み出たのは年端もいかない令嬢であり、少しだけ眉など顰めて、緩りと綺麗な桜唇を開く。
「往来で騒ぎ立てるなど、あまり褒められたことではありません。見方によっては貴方の名誉に傷が付きますよ? 」
「何かと思えば… 喚いているのは俺じゃないし、平民如きに転ばされて泣き寝入りとか、もっと格好が付かないだろう、エミリア」
湿度高めなジト目に公子が失笑で返すと、令嬢の傍に控える侍女兼任の学友といった様子の黒髪少女が瞳を細め、楚々とした容姿にそぐわない重圧を撒き散らした。
肌に纏わり付く微かな刺激はマナによる広域干渉の影響と思しいが、魔術的素養のない野次馬どもの背筋まで寒からしめる威嚇は見事なものだ。
「ッ、飼い犬の手綱くらい握っておけよ!」
「やるなら受けて立つ!!」
怒気に当てられた取り巻きの少年らが魔杖や拳を構え、呼応するように黒髪少女が一歩を踏み出すも… 双方、自身の “飼い主” から頭を冷やせと止められる。
その隙に事の発端である行商の男は忽然と姿を晦ましており、何とも言えない弛緩した空気が幾ばくか漂った後、街の大通りは平時の光景を取り戻し始めた。
「貴族って面倒よね、色々と」
「否定はしない、うちも同類だけどな」
大袈裟に肩を竦めたリィナの態度と、いつぞや冒険者組合の食堂で聞かされた “玉の輿” 発言の矛盾に呆れていれば、漏れ聞こえた彼女の声に反応して、貴族の子弟達がこちらを見遣る。
触らぬ神に祟りなしと考えて、咄嗟に視線を逸らしたのが癪に障ったのか、舌打ちを残してレオニスとやらは不機嫌な表情のまま雑貨屋の店先から立ち去った。
彼の背中を取り巻きの二人が追い掛ける一方で、残された鳶色髪の令嬢と侍女も周囲に向かって会釈を済ませ、雑踏の中に紛れていく。
それを以って、貴族連中の厄介さを良く知る侍祭のフィアが溜息を吐いた。
「はふぅ、絡まれなくて良かったです」
「こっちにもジェオがいるし、別に大丈夫だろ?」
「あまり地方貴族を買い被らないでくれ、クレア。仮に爵位が同じだとしても、中央に属する貴族の方が権限は強いからな……」
面識がない貴族の身内と揉めて、王家の血筋とかだったら目も当てられない。
幾ら魔法や武術の心得があるとはいえ、自身の半分も生きてない学院初等科の子供らに対して、遜っていた行商の心境も理解できる。
後悔先に立たずとも言うので、何かしらの教育活動で都市に来ている学院の生徒らと関わらないよう、三人娘に注意を促しながら本日数件目の雑貨屋へ踏み入った。
そのまま手狭な店内に視線を巡らせ、木製品の小物等が置かれた棚の近くまで移動すると、肩越しに覗き込んできたリィナの声が耳元を擽る。
「また彫り物、なんか意味あるの?」
「あぁ、腕利きの職人を探している」
端的に答えつつも、目に付いた木彫りの聖母像を手に取り、ざっくりと眺めてからフィアに渡した。
「往来で騒ぎ立てるなど、あまり褒められたことではありません。見方によっては貴方の名誉に傷が付きますよ? 」
「何かと思えば… 喚いているのは俺じゃないし、平民如きに転ばされて泣き寝入りとか、もっと格好が付かないだろう、エミリア」
湿度高めなジト目に公子が失笑で返すと、令嬢の傍に控える侍女兼任の学友といった様子の黒髪少女が瞳を細め、楚々とした容姿にそぐわない重圧を撒き散らした。
肌に纏わり付く微かな刺激はマナによる広域干渉の影響と思しいが、魔術的素養のない野次馬どもの背筋まで寒からしめる威嚇は見事なものだ。
「ッ、飼い犬の手綱くらい握っておけよ!」
「やるなら受けて立つ!!」
怒気に当てられた取り巻きの少年らが魔杖や拳を構え、呼応するように黒髪少女が一歩を踏み出すも… 双方、自身の “飼い主” から頭を冷やせと止められる。
その隙に事の発端である行商の男は忽然と姿を晦ましており、何とも言えない弛緩した空気が幾ばくか漂った後、街の大通りは平時の光景を取り戻し始めた。
「貴族って面倒よね、色々と」
「否定はしない、うちも同類だけどな」
大袈裟に肩を竦めたリィナの態度と、いつぞや冒険者組合の食堂で聞かされた “玉の輿” 発言の矛盾に呆れていれば、漏れ聞こえた彼女の声に反応して、貴族の子弟達がこちらを見遣る。
触らぬ神に祟りなしと考えて、咄嗟に視線を逸らしたのが癪に障ったのか、舌打ちを残してレオニスとやらは不機嫌な表情のまま雑貨屋の店先から立ち去った。
彼の背中を取り巻きの二人が追い掛ける一方で、残された鳶色髪の令嬢と侍女も周囲に向かって会釈を済ませ、雑踏の中に紛れていく。
それを以って、貴族連中の厄介さを良く知る侍祭のフィアが溜息を吐いた。
「はふぅ、絡まれなくて良かったです」
「こっちにもジェオがいるし、別に大丈夫だろ?」
「あまり地方貴族を買い被らないでくれ、クレア。仮に爵位が同じだとしても、中央に属する貴族の方が権限は強いからな……」
面識がない貴族の身内と揉めて、王家の血筋とかだったら目も当てられない。
幾ら魔法や武術の心得があるとはいえ、自身の半分も生きてない学院初等科の子供らに対して、遜っていた行商の心境も理解できる。
後悔先に立たずとも言うので、何かしらの教育活動で都市に来ている学院の生徒らと関わらないよう、三人娘に注意を促しながら本日数件目の雑貨屋へ踏み入った。
そのまま手狭な店内に視線を巡らせ、木製品の小物等が置かれた棚の近くまで移動すると、肩越しに覗き込んできたリィナの声が耳元を擽る。
「また彫り物、なんか意味あるの?」
「あぁ、腕利きの職人を探している」
端的に答えつつも、目に付いた木彫りの聖母像を手に取り、ざっくりと眺めてからフィアに渡した。
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