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第95話
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城郭の真近に建つ邸宅への道々、ここ数日で警邏中の官憲を見掛ける機会が多くなったのに気づき、地元の公爵令嬢に心当たりを聞けば、表情に微かな影が射す。
「事の起こりはジェオさんが王都へ移り住む前です。市街全域で人々が突然に昏倒するという怪現象が起きました。当初は散発的なものでしたが……」
「“最近は著しい増加傾向にある” と、大司教様から聞いています」
渡りに船といった感じでフィアが口を挟み、被害に遭っているのはマナ保有量が多い者達だとか、他者のマナ供与で目覚めても半日前後で再発するなど。
治癒を試みた教会関係者らのみぞ知る子細に添え、上目遣いで転勤した先の聖マリア教会から、調査への協力を頼まれていることも伝えてきた。
「…… 流れ的にタダ働きか?」
「皆を巻き込むのも気が引けますし、単独行動の承諾を頂けると嬉しいです」
どうやら教会側は人手が欲しいだけで、極端な期待はされてないものの慈悲深い彼女の好きにさせたら、大量の厄介事を背負い込み兼ねないと一抹の不安が過る。
備えあれば患いなし、降らぬ先の傘だと考えて司祭の娘に首輪を嵌めるべく、微笑みながら首を左右に振った。
「縁の薄い不特定多数の連中がどうなろうと問題ないが、お前に何かあれば俺もリィナも困るからな、手助けに付き合わせてもらおう」
「ふふっ、愛されてますね、“槍の乙女” 殿」
「はうぅ、聞き流してください。無自覚に人たらしな言動を取るんです、ジェオ君」
透かさず差し込まれたエミリア嬢の指摘に頬を赤らめ、居た堪れない様子のフィアが身を縮める馬車の中、見染めた英雄や賢者と結ばれる地母神派の女司祭が多い事実もあって、寡黙な侍女も主人の言葉に同意する。
このまま色恋沙汰の話が展開されると敵わないため、態とらしい咳払いで多少強引に主題を昏睡事件へ引き戻して、世情に詳しそうな令嬢の見立てを聞いた。
「情けないことですけど、グラシア国教会に吠え面をかかせたい教皇派、看過できない国王派の聖職者が足を引き合っているので。今暫くは進捗を望めないかと」
「さっきから目に付く王都の憲兵隊がいるだろう?」
疑問に思って聞くも、ぼそりと艶やかな黒髪を持つ侍女のイングリッドが呟く。
「彼らも同じ穴の貉、次期教皇も狙える枢機卿を母方の叔父に持つ第一王子側と、廷臣達が擁立した当て馬の第二王子側に分かれています」
「王国の幸先も暗いな… 会う前に聞いておくが、宰相閣下はどっちなんだ」
「それはご自身で父に聞いてくださいな、もう着きますから」
さらりと躱した公爵令嬢の発言に続いて馬車が邸宅の門を潜り、緩やかに速度を落としつつ、由緒ありそうな古い建物の前に横付けする。
添乗を務めてくれた主従の少女らとは玄関室で別れ、事後を引き継いだ家令の先導にて、日当たり良好な三階の角にある御当主の私室へ通された。
「事の起こりはジェオさんが王都へ移り住む前です。市街全域で人々が突然に昏倒するという怪現象が起きました。当初は散発的なものでしたが……」
「“最近は著しい増加傾向にある” と、大司教様から聞いています」
渡りに船といった感じでフィアが口を挟み、被害に遭っているのはマナ保有量が多い者達だとか、他者のマナ供与で目覚めても半日前後で再発するなど。
治癒を試みた教会関係者らのみぞ知る子細に添え、上目遣いで転勤した先の聖マリア教会から、調査への協力を頼まれていることも伝えてきた。
「…… 流れ的にタダ働きか?」
「皆を巻き込むのも気が引けますし、単独行動の承諾を頂けると嬉しいです」
どうやら教会側は人手が欲しいだけで、極端な期待はされてないものの慈悲深い彼女の好きにさせたら、大量の厄介事を背負い込み兼ねないと一抹の不安が過る。
備えあれば患いなし、降らぬ先の傘だと考えて司祭の娘に首輪を嵌めるべく、微笑みながら首を左右に振った。
「縁の薄い不特定多数の連中がどうなろうと問題ないが、お前に何かあれば俺もリィナも困るからな、手助けに付き合わせてもらおう」
「ふふっ、愛されてますね、“槍の乙女” 殿」
「はうぅ、聞き流してください。無自覚に人たらしな言動を取るんです、ジェオ君」
透かさず差し込まれたエミリア嬢の指摘に頬を赤らめ、居た堪れない様子のフィアが身を縮める馬車の中、見染めた英雄や賢者と結ばれる地母神派の女司祭が多い事実もあって、寡黙な侍女も主人の言葉に同意する。
このまま色恋沙汰の話が展開されると敵わないため、態とらしい咳払いで多少強引に主題を昏睡事件へ引き戻して、世情に詳しそうな令嬢の見立てを聞いた。
「情けないことですけど、グラシア国教会に吠え面をかかせたい教皇派、看過できない国王派の聖職者が足を引き合っているので。今暫くは進捗を望めないかと」
「さっきから目に付く王都の憲兵隊がいるだろう?」
疑問に思って聞くも、ぼそりと艶やかな黒髪を持つ侍女のイングリッドが呟く。
「彼らも同じ穴の貉、次期教皇も狙える枢機卿を母方の叔父に持つ第一王子側と、廷臣達が擁立した当て馬の第二王子側に分かれています」
「王国の幸先も暗いな… 会う前に聞いておくが、宰相閣下はどっちなんだ」
「それはご自身で父に聞いてくださいな、もう着きますから」
さらりと躱した公爵令嬢の発言に続いて馬車が邸宅の門を潜り、緩やかに速度を落としつつ、由緒ありそうな古い建物の前に横付けする。
添乗を務めてくれた主従の少女らとは玄関室で別れ、事後を引き継いだ家令の先導にて、日当たり良好な三階の角にある御当主の私室へ通された。
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