不要な見張りは何を見る?

白慨 揶揄

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テッペン取るぜ

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 意味も無いのに最後までやり切ろうと努力したことってないかな?
 僕はある。
 それも凄い下らないことに精神をすり減らしていた過去を持っている。その行動とは、「消しゴムを最後まで使い切ること」だ。
 下らないって自分でも思う。
 でも、学生時代の僕は小さくなった消しゴムを無くさぬように、専用のケースまで用意していたんだ。
 そのお陰もあって僕は最後まで使うことが出来た。
 小さなカスが完全に黒く染まったあの時の快感は今でも覚えている。
 それが一番の思い出の高校生活だった。

 まあ、そんなことをしていたから、大人になった今、『不要な見張り人』なんて呼ばれる仕事に付いているんだけど。

 今回、僕が引き受けた仕事は僕よりもスリリングで実に野心的で、でも同じくらい無意味な事に命を燃やす少年たちだった。
 もっとも、『学校でテッペンを取る』と『消しゴムを最後まで使い切る』なんてことを一緒にしたら、流石に彼らも怒りで爆発するだろうけどね……。



【見張り人】

 それはかつて、戦争で作られた壁上で敵が攻めてこないかを探知し、報告する王国防衛の最前線だった。
 だが、やがて、戦争は終わり、その職業は「平和の象徴」として、仕事のない人々の救済処置として残されることとなった。
 楽して金銭を貪る怠惰の職業。
 いつしか、王国中の人々は彼らのことを【不要な見張り人】と揶揄するようになったのだった。





「うーん。今日も一日が終わるなぁ」

 現われる筈もない敵から見張りをする【見張り人】。
 今日も【不要な見張り人】としての職務を終えた僕は、壁の上で身体を一周回す。
 右には『枯挟街《かきょうがい》』が。南には海が。そして東には『下街』があった。

 一日を終え固まった身体を伸ばしていると、ポケットが震えた。
 震えたのは『念話鉱石』。
『念話』の異能を持つキアカから受け取ったモノだった。そして、そのキアカは現在、この国でもっとも強いと称される英雄であり、僕の同級生であるローマンの付き人になっていた。
 つまり、この連絡はもしかしたら、ローマンからかもしれない。
 キアカだけであれば、仕事終わりで疲れているから無視しようとも思うのだが、ローマンは無視できない。
 僕は念話鉱石を手に取って二度叩いた。

『おせぇよ! 呼んでるんだから早く出ろよな!』
『ごめん、ちょっと仕事が立て込んでてさ』
『嘘つくな! 不要な見張り人が忙しいわけないだろ! たくよぉ。お前も俺と一緒に王国兵団に入れば良かったのに、何断ってんだよ』
『入ったところで、能力を持たない僕は、直ぐにクビになってたと思うよ? それより、連絡してきたってことは何かあったの? ご飯の誘い? 勿論、キアカの傲りだよね?』
『ああ、先日、王国兵団になって初めての給料日だったからな。贅沢に竜の肉でも食いに行こうぜって、なんで俺がお前に奢るんだよ!」
『高給取りなんだからいいじゃん』
『そういう問題じゃねぇ! てか、連絡したのは俺が用事があるんじゃなくて、ローマンさんが用があるからだ。お前は今、暇だよな?』 

 今まさに仕事を終えて帰ろうとしたのを見抜かれたのだろうか。しかし、なんでだろうか。キアカに暇人扱いされるのはなんとなく嫌だ。
 僕はしばらく間をおいてゆっくりと答える。

『ローマンがどうしてもって言うなら合えないこともないんだけど……』
『そうか。暇だな。なら、今からローマンさんがそっち行くからな』
『へ?』

 念話鉱石から光が消えると同時に――壁に何が墜落したかのように震える。
 隣で眠っていたベルが何事かと身体を起こす。
 壁が振動した原因は直ぐに分かった。
 巨体が腰に手を当て立っていたのだ。

「ローマン! 相変わらず凄いね」
「ありがとう。ソウちゃんに会いたくて急いで来ちゃったよ」

 ローマンはそう言って笑う。
 巨体に似合わぬ無邪気な笑顔は、学生の時のままだ。

「それで、なにか用事があるってキアカから聞いたんだけど……」
「そうなんだ。僕のところに直接依頼が来て――」
「直接?」

 王国兵団に依頼するにはギルドを通すのが基本である。
 依頼内容。
 報酬金。
 その他、もろもろの手続きを終えて初めて王国兵団に依頼が成される。尚、竜の討伐等は主に【狩人】に割り振られる。その辺の管理するのもまたギルドの仕事だ。
 とはいえ、まあ、簡単に言えば壁の中は王国兵団の仕事。壁の外は狩人の仕事って訳である。
 それらの手続きを飛ばしてローマンに直接となると余程、切羽詰まっているのか……。

「彼がその依頼人だよ」

 ローマンの影に隠れて気付かなかったが、どうやら依頼人は一緒に来ていたようだ。
 紹介されたのは1人の少年。制服を着ていることから、学生であることは間違いない。
 銀色の髪が翼を広げた鳥のようハネていた。髪の奥の瞳は黄色く光る。
 だが、なによりも彼が着ている制服は見覚えがあった。なぜならば、僕たちが通っていた高校と同じだからだ。
【枯挟街東高校《かきょうがいひがしこうこう》】。
 その名の通り、【枯挟街《かきょうがい》】の東に建てられた高校。
 高校のランクも――この国のシステムと同じであり、中心に行けば行くほど扱いが大きい。壁の外にある我らが母校は、なんとか学校としての機能を保っているだけ。
 年中荒れていた。

 少年は壁の上で仕事をしている俺に不服そうに挨拶する。

「初めまして、俺はテツって言います。一応、東高校のテッペン張らせて貰ってます」

 まあ、【不要な見張り人】なんて普段は関わろうとも思わないもんね。この挨拶だって隣にローマンがいるからしてるだけだろう。

「今回、2人にお願いしたいことなんですけど――まず、【枯挟街東高校《かきょうがいひがしこうこう》】が統廃合するって知ってますか?」

 俺とローマンは揃って首を横に振る。
 卒業してしまえば、余程のことが無い限り母校と関わることはない。僕たちの反応を見たテツはその場に胡坐を掻いて説明を始める。

「【枯挟街《かきょうがい》】には、現在、3つの高校があります。俺達の母校である東。そして、もっとも荒れた西。そして、唯一の男女共学の北です」

 言われてみれば確かにあったような気がする。
 しかし、この国は円のような地形をしている。そのために、北や西の高校と触れ合う機会は全くなかった。

「三つの高校の統合に向けて、今、俺達はまさに抗争の真っ只中にいるんです」
「抗争?」
「はい。そうなんです、ローマンさん。どこの学校が一番強ぇのか。それを決めるために日々、喧嘩に明け暮れてるって訳なんです」

「バン!」と右の拳を左に当てる。テツは右の拳に包帯を巻いていた。これも争いで怪我したのだろうか?

「抗争って、はは、確かにそれは統合するなんて言ったら起こるかもね。ね、ソウちゃん。俺達の時も誰が一番強いかで争ってた人達いたもんね!」
「確かにいた! えっと、2人とも異能を持ってたのに、何故か僕たちの高校に居たんだよね……」
「そうそう! 1人は『死なずのイビー』。もう一人は『毒々王 グロウ』だ!」
「ああ、あの二人は裏社会の組織にいた筈。時々、ここから姿を見るよ」

 ローマンと当時を思い出す。
 大した思い出が無いとはいえ、やはり昔話は盛り上がる。毎日のように2人は争っていたから、僕でも覚えていた。
 今もその当時のまま、やんちゃしてるんだよね。

「ンン!」

 盛り上がる僕たちを沈めるように咳払いするテツ。見た目の割に大人な対応だった。
 僕はその話を聞いて、なんとなく依頼が分かった気がした。

「そうか。それで卒業生であるローマンに母校を助けて欲しいって依頼に来たんだ」
「そうして貰えば楽なんでしょうけど、テッペンは自分で取らなきゃ意味がねぇ。だから、お願いしたいことは別なんです」
「別というと?」

 さらりと言ったテッペンは自分で取らなきゃ意味がねぇ。
 そんな格好いいことを僕も学生時代に言ってみたかった。
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