不要な見張りは何を見る?

白慨 揶揄

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「下らない」

 テツの言葉を途切れさせたのは感情の籠らぬ声だった。その声の主はオギド・ベル。
 僕と同じく【不要な見張り人】として生計を立てる女性だった。
 ゴワゴワとした金色の髪型。
 上半身を起こして冷めた視線を僕たちに送っていた。彼女は自分の睡眠が一番大事なのである。故に、隣で話している僕らが煩くて仕方がないのだろう。

「そんなどうでもいい抗争? とやらに力を入れるなら、精々勉強でも頑張りなさいな。それが学生というものでしょう?」

 誰が相手だろうと吐き出す毒は、相手が学生だろうと和らぐことはなかった。
 だが、流石は頂点に立つ男子高校生。
 負けん気は強かった。
 ベルの前に立ち言う。

「なに? だったら、あんたはここで死んだように生きてるだけじゃないか?」
「あら、それは職業差別をしているの? これも立派な仕事でしょう?」
「仕事は別になんでもいい。俺はただ、死んだように生きてる人間になりたくないって言ってんだよ」
「はいはい。ご立派、ご立派。そういう奴に限って大したことも出来ずに、現実に打ちのめされて無様に生きるのよね。私みたいに割り切って楽な仕事を楽しみましょうよ」
「けっ。そんなのは俺が決めるこった」

 壁の上の空気が張り詰める。
 僕はローマンに助けを求め見上げるが、口を尖らせ頭の上で手を組んでいた。最強の戦士がここまで頼りないと感じる日が来ようとは……。
 同僚である僕が大人の対応を……。

「ベル。相手は学生だしさ。取り敢えず、もうしばらくは我慢してほしいな。そうすれば直ぐに帰るしさ」
「だったら、今すぐ帰りなさい!!」

 僕はそう言って張り手を受けるのだった。





「あんなすげー張り手、見たことねぇ。まさか、あの人は伝説の……?」

 テツはベルの張り手に怯えていた。

「大丈夫、ソウちゃん?」
「な、なんとか。それより、話の続きをしようか」

 壁の上から降りた僕たちは、『枯挟街《かきょうがい》』を歩いていた。目指すのは我らが母校だ。
 久しぶりに街を歩くが変わらずボロボロ。
 朝でも昼でも光は当たっているのに、何故か薄暗いイメージを抱かせるのが【枯挟街《かきょうがい》】だった。

「改めて、お二人にお願いしたいことは――居なくなった仲間を見つけて欲しいんすよ」

 テツの依頼。
 それは消えた仲間を探して欲しいと言う内容だった。

「抗争を有利に進めるに当たって、西高校が生徒を拉致してるみたいなんです」
「……犯人の目星は付いているんだね」
「はい」

 僕の問いかけにテツは深く頷いた。

「現在、被害に遭っているのは合計20人程度。と、言ってもこの数字は東高校《オレら》だけの数字なんで、実際は北も含めば倍になると思います」
「なるほど。つまり、被害が出ているのが北と東だけ。となると疑わしいのは西高というわけなんだ」
「え、ええ……。り、理解が速くて助かります」

 テツが驚いた表情を浮かべてローマンを見る。
 何故か、その表情に嬉しそうに頷き返すローマン。
 人が拉致されているのに、何を嬉しそうにしているのだろうか? 戸惑ったままテツが続ける。

「それで、出来ればこれまで拉致した生徒を返すように、西校に言って欲しいんすよ。本当は俺が言うのが筋なんでしょうが、敵陣に乗り込むとなれば、それなりに被害が出そうなんで……。恐らく、それが狙いでもあるでしょうし……」
「そっか。でも、まあ、それくらいなら俺も付いてって大丈夫か……。という訳で、ソウちゃん! 今から行こうか!」
「今から、でも、もう、今日は暗くなってるし……」

【不要な見張り人】は定時で帰るのが基本である。既に定時から30分も時間が過ぎていた。帰りたがる僕にテツは頭を下げた。

「そこを何とかお願いします! 急がないとまた仲間が殺されるかもしれないんですよ!」
「殺された?」

 その言葉に僕とローマンは表情が固まる。【枯挟街《かきょうがい》】は荒れた街であり、『竜の山』も近くにある。故に人が死ぬことは珍しくもないと言えるだろうが――まさか、学生同士の抗争で死者が出るとは……。
 異常と言えるだろう。

「殺されたのは俺と同じクラスのヤツで……。今すぐ復讐してぇけど、それで被害が多くなるのは御免なんだ。でもよ、血の気あるヤツをいつまでも押さえらんねぇ。だから、こうしてあんたらに助けを求めてんだよ」

 テツは姿勢を正して二度目の頭を下げた。
 トップを張っているというが、その考えは自分勝手ではなかった。仲間のことを考えている心優しい青年だ。
 ただ、少し荒れているというだけ。
 力があるのに人さらいなんてしてた大人なんかより、よっぽど僕は好きだった。

「分かった。僕で良かったら力になるよ。出来ればローマンも来て欲しいんだけど」
「勿論。少しの間、席を外すようにキアカには伝えとく。まずは、西高に行ってみようか」
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