不要な見張りは何を見る?

白慨 揶揄

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 手掛かりが無いまま、更に三日が過ぎた。
 僕は僕に出来ることをしようと考え思いついたことを実行していた。
 それは壁の上から【枯挟街《かきょうがい》】を覗くことだった。まあ、やってることは【不要な見張り人】としての仕事と何も変わらないのだけれど。
 しかし、呆然と眺めるのではなく、意思を持って眺めるのはこれが初めてだった。
 壁の上から双眼鏡で探る。
 だが、それでも見れる範囲は限界がある。同じく【不要な見張り】を行っている人々に話を聞いて周ったりもしたのだが、そもそも、真面目に見張りをしている人間は1人も居なかった。

 そんな中だった。
 意外な情報を提供してくれる人間がいた。
 ベルだった。
 いつものように眠っていたベルが、ふと、目を開きいつも以上に膨らんだ金色の髪を持ち上げて僕に言う。

「ねぇ。あなたが欲しいであろう情報――買ってくれないかしら」
「へ?」
「私ね、見ちゃったのよ。何を見たかって、それはまだ、言えないんだけど、とにかく見ちゃったのよ」
「……」

 革新を述べないままにベルはもったい付けて言う。彼女は適当に生きている人間だ。真面目に辺りを観察している所を僕は見たことがない。
 故に彼女が何か重要なことを見たなどど信じられない。
 嘘で僕を騙そうとしているのだろうが――その表情はいつもより真剣な気がした。

「見たって何を?」
「うん? 情報を買ってくれるってことでいいかしら? なら、対価は払ってもらうわよ」
「払えるほど余裕はないけどね」
「大丈夫、払えるわ。安心しなさい。また、私に花を買って欲しいのよ」
「へ?」

 ベルが出した対価は僕の想像とは大きく違っていた。(僕の予想では二か月分の給料とかかと思っていた)

 ベルが欲しいと指さすのは、前回、事件の解決に協力してくれたお礼に買った花だった。花など気に入らないだろうと思ったが、意外なことに彼女は毎日水をやり、頭の横において眠っていた。
 どうやら、花が気に入ったらしい。
 思いのほか簡単な対価に思わず聞き返す。

「そんなんでいいの?」
「私が良いって言ってるのに、なんで、あなたが決めようとするのかしら? なんか納得いかないわね。なら、望み通りに――」
「分かった。それで、手を打とう。それで、ベルがくれる情報は何かな?」
「数日前かしらね。あなたが北高を訪れた時よ。そのちょっと離れた場所で――爆発の【異能】を持った生徒と女子生徒が何者かに連れて行かれたわ」
「なに……?」

 爆発を使う異能。
 そう言って真っ先に思いつくのはシンバクだ。唯一、被害者が出ていない西高。そのトップに立つ男が被害に有ったのであれば、怪しいのは西高ではなくなる。
 ならば、彼は誰と戦っていたのか。
 僕の疑問に答えるようにしてベルが言う。

「戦ってた2人も多分、異能だったわね。【爆発】を受けても死ななかったし、もう一人は、恐らく、毒か何か使ってたわね。何もせずに倒れていたから」

 爆発を受けても死なない存在。
 そして、毒のようなモノで敵を倒す存在。

 思い当たる存在が人間がいないでもない。

「……ありがとう」

 僕は直ぐに念話鉱石を手に取ってキアカを呼び出した。
 ただの思い付きでしかないが、今はこれ以外に出来ることはない。ならば、それを潰すために動かなければ。

『なんだよ。俺は今、忙しいんだよ。くそ、現場に出れば俺はもっと活躍できるのに書類整理ばっかりだ。あー、つまんねぇ』
『それは大変だ。でも、それもまた、キアカにしか出来ないことなんだよ。取り敢えず、ローマンに代わってくれるかな?』
『あー、今、ローマンさんはお偉いさんの護衛中。手が空くのはもうちょっとしたらだ』
『そうか。分かった。なら、要件が終わったら直ぐにベルの所に来るように伝えて欲しいんだ。東高の一件の犯人が分かった』

 僕はそれだけ伝えて念話を終えた。
 そして、そのまま急いで壁を降りて【枯挟街《かきょうがい》】を走る。僕が見張りをしている東側だ。
 その片隅の建物に良く探している2人は出入りしていた。
 この辺りが彼らの拠点ならば――。
 探すこと一時間。
 僕は目当ての場所を見つけた。
 居なくなった生徒たちが十人ほど、縄で縛られ一か所に集められていた。全員、毒を浴びているのだろうか。
 顔色が悪い。

 生徒たちの前に立つのは2人の男。
 1人は上半身裸に蝶ネクタイ。
 もう一人は全身が青みを帯びた肌をしていた。

「おや、あなたは誰ですか? よく、ここが分かりましたね」

 上半身裸の男が言う。
 服装こそ違うが、僕はこの男たちを知っていた。そりゃそうだ。僕たちの同級生で最も有名と呼べる二人だったのだから。
 僕は二人の名前を呼んだ。

「グロウにイビーだよね?」
「なんだ、俺達の名前、知ってんのかよ? かはは、有名になったもんだなぁ」
「残念だけどただの同級生だよ」
「同級生?」

 2人が揃って僕の顔を覗く。
 だが、有名人であった2人と違って僕は無能のまま。
 顔すらも覚えて貰っていないようだった。

「なんで、こんなことをしたんだ?」
「あーあ、誰か知らないけどそれ聞いちゃうか?」

 2人は交互に僕に事件を起こした理由を語る。
 かつて東高でトップを争った2人は、卒業と同時に裏社会に入った。異能を持って入れば、荒れた裏社会でもトップになれると思っていたようだが、彼らの予想に反して成果は何も上がらなかった。
 自分たちが夢見た理想は崩れ、気が付けば落ちこぼれとして後から組織に入ってきた人間に下っ端として扱われるようになっていた。

「だから、俺達は考えちゃった訳よ。同じよーに現実を見れないガキどもに、現実を教えると同時に、俺達の兵隊になって貰おうとさ」
「そうそう! 俺とグロウが組んで開発した新種の毒。こいつがあれば、こんなことも可能になるんだ!」

 グロウ達は縄で縛っていた1人の生徒を開放した。
 肌が腐ったかのように茶味を帯び、ボロボロと崩れている。フラフラとした足取りで、隣にいた生徒に噛みついた。すると、噛みつかれた生徒も同じような姿に変化した。

「どうだ! 俺達はゾンビ薬を開発したんだ。こいつがあれば裏社会でも頂点に――」

 言葉を言い終わるよりも先に、建物の扉が蹴り飛ばされた。
 ローマンが来てくれたか。
 僕は安堵の息と共に見ると、そこにいたのはローマンではなかった。
 2人の学生だった。

「てめぇ。俺の仲間と彼女に手を出してんじゃねぇ」
「俺の姉妹《しまい》に手を出すなよな」

 立っていたのはテツとエガミ。
 怒りに燃える2人は叫び声と共に異能を使う。
 鋼鉄を生み出し殴り飛ばすテツ。
 指で作った銃から弾丸を生み出し放出するエガミ。

 強力な攻撃をイビーとグロウは避けようともしなかった。それどころか、イビーは自ら前に飛び出し鋼鉄と弾丸を全て身体を使って受け止めた。

 だが――どれだけ強力な攻撃を使おうとも、イビーには効かなかった。
 否。
 効いてはいる。
 受けたそばから回復するのだ。
 【不死のイギー】。その名の通り、どんな攻撃を受けても死なずに回復する異能を持っていた。
 それだけ強力な力を持っていても下っ端で終わるのだから、今の時代、どんな職業に付いても知識や頭の回転は必要という訳か。
 そう考えると僕は見張り人で正解だったな。

「いきなり、攻撃とはなんと危険な。次は私の番ですね。なんて、既にもう勝負は付いているんですけど」

 ガクリとテツとエガミが膝を付く。
 毒か!
 僕は咄嗟に口元を手で覆う。2人から離れていたから、僕の場所に充満している【毒】は少ないようだ。
 霧状の毒に体力を奪われる。
 全身を使って防ぐ盾と毒という矛。
 このままじゃ、2人ともやられてしまう。僕は念話鉱石を使いローマンを呼び出そうとポケットに手を当てるが、小さな鋼鉄が飛来し手の平にぶつかった。

「悪いっすね。でも、余計なことはすんじゃねぇっす。これは俺の喧嘩で、俺が守りたいんすよ!」
「はん、珍しく同感だな、テツ!!」

 2人は最後の力を振り絞って異能を発動する。
 だが、狙う力も残されていないのか、広範囲に鉄が飛び散り倒れてしまう。

「く、くそ……」

 最後の抵抗も失敗に終わる。
 万策尽きた男子高校生にグロウが笑う。

「安心してください。私の毒は意識までは奪いません。少しばかり身体の自由を――」

 言い終わらぬ内に部屋に爆音が響いた。その爆音は捕えていた建物の壁を崩し、穴を開ける。
 捕えられていた生徒たちの縄も爆発で引きちぎったのか、一斉に捕えられていた生徒たちが逃げ出した。
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