手札看破とフェンリルさんで最強へ~魔法はカードだと真理に到達してない世界でデッキ構築!~

白慨 揶揄

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第27話 鯨に挟まれ槌と臼

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「ここが港街へ続く【二頭鯨《にとうげい》】か……噂には聞いていたけど、本当に鯨みたいだ」

 森を抜けると、「ドンっ」と見る人を威圧する山が視界に飛び込んできた。

【二頭鯨《にとうげい》】

 その名の通り、二頭の巨大な鯨が頭を付き褪せてるようだ。

「ここを抜けたら目的地の街まで直ぐだ。だが、ここに住む魔物は強力だ。なるべく戦闘は避けた方がいいだろう」

 アディさんが教えてくれる。魔物を倒すことは目的の一つだが、今日はこの山を超えることに専念しよう。まずは、目的地の街に辿り着くことが最優先だ。

「分かりました」

 アディさんに頷き、僕たちは山に足を踏み入れた。

「はぁ、はぁ……」

 同じ森でもこれまでは平坦だった分、まだ歩きやすかった。だが、【二頭鯨《にとうげい》】は違う。
 傾斜があり、地面は『土』というよりも、『岩』と呼んだ方がいい。しかも、厄介なことに岩は地盤から伸びているの訳ではない。地面の上に大小様々な岩が散乱しているのだ。
 だから、歩くたびに足元にある岩石が転がり落ちる。

 岩に囲まれた樹木は、この環境でも成長しているのか、立派に枝を広げていた。
 僕は色んな場所に行ったつもりだけど、まだまだ知らない場所があるんだな。

 そんなことを考えながら、足を動かす。
 すると――、

 ドシン。
 ドシン。

 地面が巨人の槌に叩かれたように揺れる。地震とも言える振動に、足元の岩が崩れ動きが制限される。

「来るわよ。この森を支配している魔物達が――」

 アディさんの台詞と共に、二匹の魔物が現れた。
 岩のような身体は臼みたいだ。中心からは餅のように白い頭が覗き、腕は身体よりも大きな槌が付いていた。

 どうやら、この振動は、魔物が腕を地面に押し当てて移動している影響のようだ。
 ドシン。
 ドシン。
 腕を地面に突き上げ、宙へ浮かび再び地面に落ちる。

 こんな魔物を初めて見た。

「この山は何か粉くせぇと思ったら、原因は槌臼《つちうす》かよぉ。面白れぇ」
「面白いなんて、よく言えるな。槌臼《つちうす》は中位種に分類される魔物。岩を削り身体を守る鎧が特徴的だ。余程、攻撃力のある魔法を持っていないと、ダメージすら与えられないんだぞ?」
「へっ。言われなくても分かってるよ。奴らは岩と岩をぶつけて、鎧をより強固に作り上げる。地面に落ちてるのはその名残だろ?」
「なんだ、知ってるのか」

 ロウは槌臼《つちうす》について知っているようだ。地面に散らばってる岩は、全部、槌臼《つちうす》が身体を鍛えるために削った岩ってこと?
 自分達が望む硬さを手に入れるまで、繰り返した結果がこの光景。望む鎧を手に入れるまで、固い岩を運び、削り、磨き上げて作られたのが、光沢のある身体という訳か。魔物ながら、その勤勉さには関心してしまう。

「でも、逆を言えば歩きにくいのは、槌臼《つちうす》が関わってるこの場所くらいってことだ。さっさとこいつら倒して、先に進もうぜ?」
「簡単に言うな。中位種は【炎の闘士】レベルのパーティーじゃないと倒せない。今の私たちは二人と豚が一匹なんだぞ?」
「誰が豚だぁ!!」

 前向きなロウは置いておいて、アディさんの言うことは最もだ。僕たちはまだ出会ったばかりで行動を共にしてはいるが、パーティーと呼べる程、互いの魔法を知らない。
 ロウに魔法の真理を話すことを禁じられている以上、その辺を包み隠さず話すのは難しい。だから、ここまではなんとなく、話さずに来たが――。

「まあ、僕一人でもなんとかなるよね。アディさん。ここは僕に任せてください!」
「しかし、相手は」
「いいから、任せろって! ほら、お前はこっちにこい!」

 ロウがアディの足を尻尾で掴み、数歩後ろに下がらせる。

 戦うのは僕だけだと魔物も気付いたのか、狙いを僕に定めた。

 槌臼が腕となる槌で地面を叩き、グンっと身体を空に持ち上げた。
 どうやら、落下の勢いと共に、僕を潰そうとしているらしい。固い岩があの高さから落ちてきたら、どんな人間もトマトのように潰されることだろう。

「それは嫌だな――【選択領域】!!」

 ヒュンと森が暗くなる。
 魔物の動きが停止する。

 よし、これでゆっくり、どうすべきか考えよう。
 手札に配置されたの6枚の魔法。

【フェンリルの牙】 【爆発《ボム》】
【強化の矢】    【斬撃《スラッシュ》】
【斬撃】      【斬撃波】

「……斬撃系に偏ったな」

 手札に配置される魔法はランダムだ。必ずしも自分が望んだ魔法が配置されるとは限らない。呟く僕に背後からロウが野次にも近い言葉を飛ばす。

「ま、要するに人生みたいなもんだ。限られた手札で未来を切り開くしかないってな」
「こんな時に、下らないこと言わないでよ」

 聞く人が聞けば響いたかもしれないけど、今の僕にはその言葉を受け止める余裕はなかった。どんな言葉も受け取る人間に余裕がなければ入ってこないのかも知れないな。
 もう少し、思考を続けてみようかとも思ったけど、視界の隅に浮かぶ二匹の魔物がそれを許さない。

「相手は二匹か……」

 頭上で槌を振り下ろす槌臼《つちうす》達。この距離ならば鼻歌交じりに回避できる。
 だが、問題はどうやって鍛え上げられた岩の鎧を破壊するかだ。

「魔法進化が手札にあれば良かったんだけど」

 得意の魔法進化である【強化の矢】+【腕力強化】はこなかった。

「この中で一番、攻撃力が高いのは【フェンリルの牙】か」

 一枚は決定として、残りは何を選ぼうか。選択肢は二つ。【強化の矢】と【斬撃】の二枚か、【爆発《ボム》】の一枚。

「よし、決めた!」

 選択したのは【爆発《ボム》】と【フェンリルの牙】。所持してる魔法の中で1、2を争う威力を誇っていることが決め手になった。
 魔法の選択を終えると、景色が明るくなる。

 ビュウウウン。

 頭上から風を切って二匹の魔物が落下する。僕は狙いを素早く定めて最初に選んだ魔法を発動する。

「【フェンリルの牙】!!」

 巨大な狼の顔が、何処からともなく現れる。

 ガバァ!!

 口を開き、鋭い牙を覗かせた狼の顔が、槌臼《つちうす》を噛み砕いた。上位種であるフェンリルの牙は、鍛えた岩の鎧よりも固いようだ。
 跡形もなく槌臼《つちうす》が消滅する。

「よし、次だ!!」

 一匹倒したからと浮かれてる余裕はない。もう一匹も落下中なのだから。

「喰らえ!!」

 【爆発《ボム》】を頭上に投げ、爆風に巻き込まれないように後方に飛ぶ。

 バァン!

 爆音と熱が頭上で破裂する。威力は高いが当てることが難しい【爆発《ボム》】。だが、相手が落下してくるだけならば、当てることは簡単だった。

「どうだ!?」

 煙と共に落下した槌臼《つちうす》の動向を探る。煙が速く答えを知りたいと願う僕を笑うように、静かにゆらゆらと風に流れる。

 ガバァ!!

 煙から一匹の魔物が飛び出す。くそ、駄目だったか!
 次に魔法が使えるまで、なんとか時間を稼がないと――。と、思ったが、

「え?」

 姿を現わしたのは真っ白いお餅みたいな魔物だった。槌臼《つちうす》の本体。
 どうやら、【爆発《ボム》】で、岩の鎧と武器の槌が吹き飛ばされたようだ。

 ピョン、ピョン。
 ペチン。

 白い体で僕に体当たりする。全く痛くない。これなら、果物を投げられた方が痛いくらいだ。繰り返して行われる攻撃は、腕のいい整体師みたいで気持ちがいい。

 ピョン。ピョン。
 ハッ!!

 自分に武器がないことに気付いたのか、魔物は凹んだ臼に戻ろうとする。
 なんだか、倒すのが申し訳ない。
 けど、また武装されたら厄介だし――。

 ガブッ。
 ハグ、ハグ。
 ゴクン。

「ふぅ。美味かったぜ。こいつの本体は凄い美味しいんだよ」

 僕は自然の摂理を見た気がした。
 よ、容赦ないんだね、ロウは……。

 自然界の厳しさに硬直する僕の肩を、アディさんが叩いた。

「……さっきの魔法はなんだ? あんな魔法、始めてみたぞ?」
「さっきの魔法……。ああ、【爆発《ボム》】ですよ。アディさんだって知ってますよね?」
「違う、私が言っているのはその前に使った魔法だ。フェンリルの頭部を召喚する魔法なんて聞いたことすらない?

「そ、それは……」

 助けを求めてロウを見る。よっぽど槌臼《つちうす》は美味しいのだろうか? 名残惜しそうに、【爆発《ボム》】で凹んだ臼を舐めていた。

「……」

 僕は【フェンリルの牙】を当たり前のように使っていたけど、この魔法はロウから貰ったモノ。どこで、どうやって手に入れたのか知らなかった。

「やはり、それも秘密なのか?」
「そ、その……」

 アディさんが僕の両肩を掴む。やっぱり、魔法の真理について教えた方がいいよね?

「実は魔法は――」

 ドシン。
 ドシン。

 口を開こうとした時、再び山が振動した。どうやら、槌臼《つちうす》は倒した二匹だけじゃないらしい。

「と、取り敢えずここを抜けましょう!」

 僕たちは急いで魔物のテリトリーを抜け出した。
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