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第36話 魔物が上
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予想通り、他の飼育員たちも捉えられていた。
鋭い牙を持つ牙海驢《ファンガシカ》の檻のなかでは、ボールを全身に括りつけられた飼育員さんが、巨体に襲われていた。
「【爆発《ボム》】!!」
牙海驢《ファンガシカ》の足元に【爆発《ボム》】を投げると、爆風で身体のバランスを崩す。
「【斬撃《スラッシュ》】!」
その隙に飼育員さんの身体に固定されたボールを切り落とす。目的を失ったからか、牙海驢《ファンガシカ》は、「グォオオオオ」と器用に両手を叩く。常に魚を食らっているからか、生臭い匂いが檻の中で強くなる。
「ありがとうございます!!」
飼育員さんと檻から出た僕は、何が起こったのか質問するが、返事は先ほど助けた人と同じ内容だった。
背後から誰かに襲われたんだと。果たしてそれが誰なのか気になるが、今は考えるよりも身体を動かさないと……。
「今は人を助けることが先決だ!」
僕は他の魔物に襲われていた人々を助けていく。空を飛ぶ鷲突《わしとつ》には、発生の早い【斬撃波】で動きを封じ、槌臼《つちうす》の鎧は【爆発《ボム》】で砕く。
「参った……。魔法、足りるかな?」
野生ではない魔物と言えど、生身で勝てる相手ではなく、僕の持つ魔法は徐々に枚数が減っていく。
現在、半分の魔法を使用してしまっていた。
「しかも、厄介なことに飼育という特別な環境下だからか、魔物を倒しても魔法が手に入らない……」
「それは当然だろ? 魔法は魔物が生き抜くために得た力を、人間が扱えるようになるモンだ。人間が魔物を扱うこの場じゃ、手に入らないのはむしろ当然だ」
「魔法ってそういうことだったんだね……」
要するに、魔物が生き延びるために手に入れた力を人間が奪うってこと。良いとこ取りしてるって訳だ。
もしかしたら、魔法は力じゃ勝てない人間が、生き抜くために手に入れた進化の証なのかもしれないな。
「途中で補充出来ないのであれば、残された15枚の魔法で戦うしかないか」
嘆いても仕方がない。
僕に出来ることはどっちにしても限られている。やれることをやるしかない。
ドン!!
次の魔物を探そうとした時、一際大きな轟音と地響きが【魔物園】に響いた。その音に僕の背に「ぞぞぞ」と悪寒が走る。小さな羽虫が背筋に沿って身体の中を駆けあがったみたいだ。
「おい、ユライ……。今、音がした方角ってよ!」
ロウも僕と同じことを考えていたらしい。音の聞こえた方角。【魔物園】を一度回ったから、何処にどんな魔物がいるのかは覚えている。
【魔物園】の最深部に、目玉として飼育されていた魔物で、ロウが望んでいた上位種だ。
「【擬態龍《ぎたいりゅう》】が逃げたんじゃ?」
【擬態龍《ぎたいりゅう》】
身体が深緑色をした龍種が一匹。貴重な龍種の中でも一際小さい。だが、それでも人間と同じ位。
他の龍に比べれば戦闘力は低いが、それを補って余る特殊能力を持つ。それは、名前にも付けられた【擬態】だ。
身体を透明にして景色に馴染む。故に見つけるのが難しく、討伐難度は他の龍種と同等とされている。
もし、そんな魔物が逃げて街に向かったのだとしたら、パニックになるのではないか。
「ロウ、匂いを追える?」
「擬態を発動するまではな。あいつら、匂いまでも擬態するから、見つけるのは厄介なんだよ。多分、檻から出たら直ぐ消えてるだろうな……」
ロウの予想通り、匂いを辿った先は、【擬態龍《ぎたいりゅう》】が展示されていた檻だった。檻の中には【擬態龍】の姿はない。
既に逃げられた後だった。
完全に出遅れたと思ったが、そうとも言い切れない。
何故なら、檻の中に全身を黒で包んだ一人の男が立っていたからだ。天に自らの存在をアピールするように両手を広げる。
彼の姿に僕は見覚えがあった。
「あの人……僕にぶつかった人だよね?」
「ああ。匂いも同じだ」
この人……飼育員じゃないよね? 【魔物園】で働く人は、皆、同じ衣服を身に纏っていた。
それに何よりも、彼は拘束もされていない。
僕たちに気付いたのか、視線を空から切り替える。屈強な身体に見合った暴力的な視線。
「お前、最低だなぁ!!」
男は僕たちを睨むなり、檻に響く声で叫んだ。怒りに満ちた瞳はやがて哀れみに代わり、ロウへと移る。
「お前……魔物をペット代わりなんて、そんなことが許されると思ってるのかぁ! 大体、その魔物――フェンリルじゃねぇか! なんで上位種を一個人が支配してるんだ!」
どうやら、僕がロウを飼っていると思ったらしい。僕は別にそんなつもりはないんだけど……。
ロウには助けて貰ってるし、一緒に居て楽しいから「友達」みたいな感じだ。その友達は僕の足元でヘラヘラっとだらしなく顔を崩していた。
「ちょっと、その顔はなにさ」
「だってよ。俺のことをフェンリルって言ったんだぜ? 多分、あいつは良いヤツだぜ?」
嬉しそうに尻尾を揺らす。
今はそんなことで喜んでる場合じゃないと思うんだけど。
僕の予感では十中八九良い人ではない。明らかに怪しすぎる。ロウを無視して一歩近づく。【擬態龍】の性能を楽しんで貰おうと、森に見立てて作られた檻の中。乾いた土が中に舞った。
「あなたが飼育員たちに酷いことをしたんですよね?」
「……逆だな」
「え?」
「飼育員たちが酷いことをしてたんだ。魔物を捕えて管理してる方が酷いだろうが!」
男は言う。
魔物は人が飼っていい存在じゃない。人が魔物の下にいるのだと。
「だから、俺があるべき姿に戻すんだ。魔物を連れてるお前も同じだぁ!」
男の視線が敵意に満ちた。
刹那。
ひゅぼん
男の手から風が放たれる。これは魔法――風弾《エアーショット》。
唐突に放たれた魔法に、僕は反応が遅れる。
まさか、いきなり魔法を仕掛けてくるなんて!!
鋭い牙を持つ牙海驢《ファンガシカ》の檻のなかでは、ボールを全身に括りつけられた飼育員さんが、巨体に襲われていた。
「【爆発《ボム》】!!」
牙海驢《ファンガシカ》の足元に【爆発《ボム》】を投げると、爆風で身体のバランスを崩す。
「【斬撃《スラッシュ》】!」
その隙に飼育員さんの身体に固定されたボールを切り落とす。目的を失ったからか、牙海驢《ファンガシカ》は、「グォオオオオ」と器用に両手を叩く。常に魚を食らっているからか、生臭い匂いが檻の中で強くなる。
「ありがとうございます!!」
飼育員さんと檻から出た僕は、何が起こったのか質問するが、返事は先ほど助けた人と同じ内容だった。
背後から誰かに襲われたんだと。果たしてそれが誰なのか気になるが、今は考えるよりも身体を動かさないと……。
「今は人を助けることが先決だ!」
僕は他の魔物に襲われていた人々を助けていく。空を飛ぶ鷲突《わしとつ》には、発生の早い【斬撃波】で動きを封じ、槌臼《つちうす》の鎧は【爆発《ボム》】で砕く。
「参った……。魔法、足りるかな?」
野生ではない魔物と言えど、生身で勝てる相手ではなく、僕の持つ魔法は徐々に枚数が減っていく。
現在、半分の魔法を使用してしまっていた。
「しかも、厄介なことに飼育という特別な環境下だからか、魔物を倒しても魔法が手に入らない……」
「それは当然だろ? 魔法は魔物が生き抜くために得た力を、人間が扱えるようになるモンだ。人間が魔物を扱うこの場じゃ、手に入らないのはむしろ当然だ」
「魔法ってそういうことだったんだね……」
要するに、魔物が生き延びるために手に入れた力を人間が奪うってこと。良いとこ取りしてるって訳だ。
もしかしたら、魔法は力じゃ勝てない人間が、生き抜くために手に入れた進化の証なのかもしれないな。
「途中で補充出来ないのであれば、残された15枚の魔法で戦うしかないか」
嘆いても仕方がない。
僕に出来ることはどっちにしても限られている。やれることをやるしかない。
ドン!!
次の魔物を探そうとした時、一際大きな轟音と地響きが【魔物園】に響いた。その音に僕の背に「ぞぞぞ」と悪寒が走る。小さな羽虫が背筋に沿って身体の中を駆けあがったみたいだ。
「おい、ユライ……。今、音がした方角ってよ!」
ロウも僕と同じことを考えていたらしい。音の聞こえた方角。【魔物園】を一度回ったから、何処にどんな魔物がいるのかは覚えている。
【魔物園】の最深部に、目玉として飼育されていた魔物で、ロウが望んでいた上位種だ。
「【擬態龍《ぎたいりゅう》】が逃げたんじゃ?」
【擬態龍《ぎたいりゅう》】
身体が深緑色をした龍種が一匹。貴重な龍種の中でも一際小さい。だが、それでも人間と同じ位。
他の龍に比べれば戦闘力は低いが、それを補って余る特殊能力を持つ。それは、名前にも付けられた【擬態】だ。
身体を透明にして景色に馴染む。故に見つけるのが難しく、討伐難度は他の龍種と同等とされている。
もし、そんな魔物が逃げて街に向かったのだとしたら、パニックになるのではないか。
「ロウ、匂いを追える?」
「擬態を発動するまではな。あいつら、匂いまでも擬態するから、見つけるのは厄介なんだよ。多分、檻から出たら直ぐ消えてるだろうな……」
ロウの予想通り、匂いを辿った先は、【擬態龍《ぎたいりゅう》】が展示されていた檻だった。檻の中には【擬態龍】の姿はない。
既に逃げられた後だった。
完全に出遅れたと思ったが、そうとも言い切れない。
何故なら、檻の中に全身を黒で包んだ一人の男が立っていたからだ。天に自らの存在をアピールするように両手を広げる。
彼の姿に僕は見覚えがあった。
「あの人……僕にぶつかった人だよね?」
「ああ。匂いも同じだ」
この人……飼育員じゃないよね? 【魔物園】で働く人は、皆、同じ衣服を身に纏っていた。
それに何よりも、彼は拘束もされていない。
僕たちに気付いたのか、視線を空から切り替える。屈強な身体に見合った暴力的な視線。
「お前、最低だなぁ!!」
男は僕たちを睨むなり、檻に響く声で叫んだ。怒りに満ちた瞳はやがて哀れみに代わり、ロウへと移る。
「お前……魔物をペット代わりなんて、そんなことが許されると思ってるのかぁ! 大体、その魔物――フェンリルじゃねぇか! なんで上位種を一個人が支配してるんだ!」
どうやら、僕がロウを飼っていると思ったらしい。僕は別にそんなつもりはないんだけど……。
ロウには助けて貰ってるし、一緒に居て楽しいから「友達」みたいな感じだ。その友達は僕の足元でヘラヘラっとだらしなく顔を崩していた。
「ちょっと、その顔はなにさ」
「だってよ。俺のことをフェンリルって言ったんだぜ? 多分、あいつは良いヤツだぜ?」
嬉しそうに尻尾を揺らす。
今はそんなことで喜んでる場合じゃないと思うんだけど。
僕の予感では十中八九良い人ではない。明らかに怪しすぎる。ロウを無視して一歩近づく。【擬態龍】の性能を楽しんで貰おうと、森に見立てて作られた檻の中。乾いた土が中に舞った。
「あなたが飼育員たちに酷いことをしたんですよね?」
「……逆だな」
「え?」
「飼育員たちが酷いことをしてたんだ。魔物を捕えて管理してる方が酷いだろうが!」
男は言う。
魔物は人が飼っていい存在じゃない。人が魔物の下にいるのだと。
「だから、俺があるべき姿に戻すんだ。魔物を連れてるお前も同じだぁ!」
男の視線が敵意に満ちた。
刹那。
ひゅぼん
男の手から風が放たれる。これは魔法――風弾《エアーショット》。
唐突に放たれた魔法に、僕は反応が遅れる。
まさか、いきなり魔法を仕掛けてくるなんて!!
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