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本編
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ようやく公衆電話を見つけて、雛子に電話をかけた。
『――光映なのッ!?』
名乗った途端、泣かれた。
『どこに居るのよ! 酷いわよ、何も言わずに消えちゃうなんて! 携帯も繋がらないし、誰も光映の居所知らないし、いつものことだからって、取り合ってもくれないし……』
(――ああ、そうか……そうだった……)
いま思い出したように、光映はそれに気付く。
そういえば、雛子に黙ったまま旅に出てしまったことなど、これまで一度として無かった。突然に思い立った急な旅でも、必ず雛子には行き先を告げていたし、旅先からも連絡を取っていたものだ。
周囲の人間に“雲隠れ”と呼ばれてしまう光映の突発的な旅行が、もはや昨今では皆に“当たり前”と思われていることに慣れ切ってしまった所為でか、そんなことも忘れてしまっていたようだった。
「ごめん……」
素直に光映は謝った。
『心配、したんだから……!』
泣きじゃくりながら、雛子は言う。
『いっぱいいっぱい、心配、しちゃったんだからねッ……!!』
「ごめん、本当に……」
『もう会えないのかと思った……!!』
「雛子……」
『もう光映と会えなくなっちゃうのかなあって、私は捨てられちゃったんだなあって、思ったらすっごくすっごく、悲しかったんだからあッ!!』
電話の向こうで彼女が泣きながら叫んでいる姿が、眼裏にまざまざと浮かんでくるようだった。――そんな、耳にとても痛い、声だった。
『光映はわかってない……会えなかった今まで、私がどんな思いで過ごしてたのか……光映は全然、わかってないよっ……!!』
「――わかるよ……」
それに反し、とても静かな穏やかな声になって光映は、呟くように応えていた。
「僕も、同じだったから―――」
雛子の泣きじゃくる声が、そこで一瞬だけ、ピタリと止まった。
「会いたいよ、雛子。君に会いたい。今すぐにでも、会いたくてたまらない、とても…とても……!」
『光映……』
そして、彼女は再び声を上げて泣き出した。
それきり無言で、光映も何も言わず、受話器越しに彼女の泣き声をただずっと聞いていた。
どれくらいの時間、そうしていたのか―――。
光映には、不思議と彼女の泣き声は苦しくなかった。
「こうして君と離れてみて……どんなに僕には君が必要だったのかが解ったよ。死ぬかもしれないって時に、思い出したのは君だった」
いつしか彼女は泣くのを止めており。
その頃には、光映の口の端には笑みが浮かんでいた。
「心配かけてごめん、雛子。――もう全部、なにもかも終わったから」
彼は告げる。受話器の向こうへと囁くように。
「――明日、帰るよ」
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