甘くてほろ苦い、恋は蜜やかに。

米粉あげぱん

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ep.1.5

1.5-1

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『今日も東海道新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、のぞみ号、博多行きです……』

 数時間前、東海道新幹線に乗り込んだ三神峯は深くため息をついた。

 今回の出張を薬事開発研究部の部長から言い渡されたのはつい2週間前のことだった。営業部から言われたから行ってこい、ただそれだけだ。表面上は経験になるから、まだ若いから、とそれなりの理由を取り繕っているが、実際はただ単に面倒なことは三神峯に任せておけ、というお決まりのコースである。

≪三神峯さん、今日からよろしくお願いします。先に現地に向かってます。≫

≪こちらこそよろしくお願いします。≫

 一時間前に受信していたチャットを見て、何も考えずに返信を打ち込む。営業一課の主任は優秀で若くして主任に昇格し、部下だけでなく上司からも信頼されていると聞いた。もちろん女性社員にも人気だとも。彼とはチャットでやりとりをするくらいだから、詳しいことはよくわからないが。

(胃が痛い……)

 スマートフォンが忙しなく震える。このバイブレーションの長さは電話だ。画面には直属の上司である主任の名前、「中田亮なかだりょう」と表示されている。

(これから新幹線だって伝えたんだけど……中田主任には関係ないか)

 彼は仕事を他人に押し付ける天才と言っても過言ではなく、その割に都合のいいところはしっかり自分の手柄にする人だ。主任として薬事研究課に異動してきたのは今年度からで、そのおかげで薬事研究課の雰囲気は180度変わってしまい、今ではすっかり疲弊しきっている。ただでさえ人手不足が続いている部署であったにもかかわらず、せっかく今年度入社したばかりの後輩が早々に辞めてしまった。

 キリキリと痛む胃を擦りながら、鞄からピルケースと水を取り出して胃薬を口に流し込む。何となく感じる吐き気をかみ殺すように三神峯は目を閉じた。

 ちなみに、後から叱責される覚悟で中田には新幹線の中だから電話ではなくチャットでお願いしたいというチャットだけを残しておいた。
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