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ep.5.5
5.5-3
「あっ、中田主任。お疲れ様です、すみません挨拶が遅れて――……ッ」
いつの間に研究室にいたのか、中田の声に振り向いた瞬間、左頬に強い痛みと衝撃が走った。目の前がチカチカと点滅する。思わず手から離れてしまった試験管が、立てていた試験管立てごと床に叩きつけられて割れてしまっている。
殴られたのだと理解するまでに、少しだけ時間を要した。
「あのさあ、お前がいなかったせいで研究進まなかったのわかってる? どうするつもりって俺は聞いてんだけど?」
本当に腹立つ、中田はそう言ってお世辞にも長くない足を持ち上げて三神峯の脇腹に押し付ける。ぐりぐりと力を込められて思わず痛みに顔を歪めそうになるが、それでは中田の思うツボだ。三神峯は顔を上げて笑ってみせた。
「……遅れているぶんは今から進めるので。中田主任が心配することは何もありません」
「じゃあさっさとお前が割った試験管片付けてくれない?」
「そのつもりで……っ! ゔ、げほっ、ぐう……!」
「は、きったねえ」
表情が気にくわなかったのだろう、中田は脇腹に押し付けていた足を離すとそのまま腹部を蹴り上げた。構えていなかったこともあって完全に入り込んだ足は、三神峯の鳩尾を直撃した。足の力が完全に抜け、その場に蹲ってこみあげてくる吐き気を必死にかみ殺す。粘度の高い唾液が口から溢れたにも関わらず、頭の中はどこか冷静だった。
(予想通りの反応で笑えてくる……)
それでも頭だけは冷静で、中田のあまりにも素直すぎる反応に思わず自嘲にも近い笑いがこぼれそうになった。痛みに冷や汗が滲んで押さえた白衣に皺が寄る。思い出したのは、展示会の前に優しく背中を擦ってくれた御堂の大きな手だった。
中田はわざとらしくため息をつくと、愚痴をこぼすように呟く。
「本当に最悪。部長にも開発課からも俺のせいにされるし。俺の勤務態度が悪いとか言われるし。全部お前が仕事出来ねえせいだろ」
(中田主任のせい?)
その言葉に三神峯は耳を疑った。研究が遅れていることはこれまでずっと自分のせいにされていた。三神峯の報告書の出来が悪いから、三神峯が十分なデータを取らないから。主にそれを言っていたのは中田と坪沼だったが、それにしても、突然中田に矛先が向かうなどそんなこと今まであっただろうか。
考え事をしていた三神峯を現実に引き戻したのは、中田の声だった。
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