私の主人が自分を悪役令息だというのですがそれは大きな問題ではございません

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私の主人、椅子のような何かに遭遇される

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ベグマン様の誤解を解き、食堂へ行くと既にプランがテーブルに様々な料理を広げていました。
私に気がついても彼は咀嚼やめませんが、少し不思議そうに首を傾げました。
「あれー、エノームだけ?」
「そうですよ。今期の領地経営学の授業は私しか受講していませんし」
「そうだっけ?・・・シニフェ様はとらなきゃならない分野じゃないのかなぁ」
「領地経営学は去年取ったし、同じ時間の『王国地理・生物学』にしたんだよーん」
プランが素朴な疑問に答えながらシニフェ様がいらっしゃいました。
新学期に授業選択をする際に『侯爵家継ぐとなるとゲームの世界と同じ運命になりそうだし、せっかくこの世界に生きているんだから冒険者になりたい』と仰って、今期の授業の多くを他国文化や言語、剣技にされていたのを思い出します。
「お帰りなさいませ。今日の授業はいかがでしたか?」
「今日も興味深かったよ。ウチの領地にいるウィンターウルフは使役出来るらしい。今度のウインターホリデーの際にでも試してみよう!本当にこの授業をとって正解だった・・・でもな、この授業はクーラッジュがいるんだよ・・・」
「「ええ?!」」
「シニフェ様、せっかくクーラッジュと距離をとっていたのにねぇ。僕と一緒の体術にすれば良かったのに」
プランがそう言うと、シニフェ様も同じ事を思っていたようで肩を落とされている。
「体術の方に行くと思ってたんだよ~。でも普段の授業はまだマシだったんだ。ラーム嬢も同じ授業だから2人でいてくれるから、俺は関係ないし別に他のヤツと組めば良いんだけどさ」
「今日はいらっしゃらなかった」
「そうなんだよーーん、なんでエノームがそれを知ってるんだ?」
「先ほどまでベグマン様とご一緒させていただいていたので」

私が正直にいうと、シニフェ様とプランは顔を見合わせ、「おや?」とすこし揶揄するような表情をされている。あ、嫌な予感がします。
「え、あらあら。エノームちゃんったら、実はそんな?」
「僕らには内緒でー?ベグマン様と2人きりでなにを??」
「なんでそう話を飛躍させるんですかね!?違いますよ、シニフェ様の事で向こうから話をされたんです」
「俺の事?」
私の言葉に心当たりが全くない様子でシニフェ様は意外そうな声を出されている。
「まぁ、簡明直截に申し上げますと『シニフェ様が私の恋人であるクーラッジュ様に色目を使うのを辞めさせて下さい!』というお話でした」
「ふぁっ!?」
「へー?シニフェ様、実はクーラッジュと仲良しだったんですか?」
「ちっ、ちがう。そんな事はない!本当に俺は死にたくないから距離をとってるんだ。ーーでも・・・」
「「でも?」」
プランと声を重ねて尋ねれば、意を決したように声を出される。
「・・・なんか、凄い、向こうから話しかけられる。今日もラーム嬢がいないから、知り合いがいないとか言って俺の隣に座って来た」
「え・・・?」
シニフェ様の言葉にプランが心底理解出来ないという顔をしています。私も先ほどベグマン様のお話を聞いていなかったら理解出来なかったでしょう。普通に考えて、自分をいじめていた方に近寄ろうとする人間はいないでしょう。
やはり、ベグマン様が仰っていたようにクーラッジュはシニフェ様に近寄ろうとしているのかもしれません。
「ベグマン様の仰っていた事は本当の事だったんですね」
「エノーム、どういう事ぉ?」
「いえね、プラン。クーラッジュはベグマン様との会話で『「グランメション様は先日の剣技の発表で素晴らしかった」「グランメション様と縄脱けの術で実技ペアになっていたアンシニッフィヨンが羨ましい」』などと宣っているそうですよ」
「うわぁ。クーラッジュは僕だけに言ってるのかと思ったけど、ベグマン様にも言ってるの?」
「僕だけ、とは?」
どういう事でしょう?プランは何か知っているのでしょうか。
「シニフェ様がいる前で言うのはアレかもしれないけどぉ、まぁ、『シニフェ様は良い香りするので、おそばにいると気分が高揚がします』とか『あの瞳で見下される事が出来るなんてグラン様は幸せですね』とか言われるよ」
絶句、絶句しかありません。プランも同じ事を思ったのでしょうか、真剣なまなざしで私を見つつ頷いています。そんな危ない人間をシニフェ様の近くにいさせるなど許される事ではありません。
さて、どうやって距離を持たせれば一番効果的なのでしょうか。

「それは俺のせいなのかな?」
私たちの会話を黙って聞いていたシニフェ様が声を出されました。
「シニフェ様のせい?」
「俺が本来悪役としてクーラッジュに関わってーーい、意地悪して、あいつを英雄にするきっかけを作らなきゃいけないのに役目を果たしていないから、俺がその役を果たすまであいつは俺のそばに居る必要があるとか」
「英雄になるきっかけがシニフェ様なの?それは変ですよぉ」
プランがそう言ってテーブルの上に置いてあった料理にまた手を伸ばし始めます。
「でも、本当なら、『ゲーム』なら俺があいつを木に吊るして、そこから力を得るんだ。だから、俺がソレをしなかったからあいつの人生が変わってしまったんじゃないかな?本来手に入れられるはずだった英雄になれるはずの力がなくなってしまったら、クーラッジュはどうなるんだろう」
ハッとしたように俯かれるシニフェ様は、手元にあったコップを握りしめています。その指先は白くなっていて、力を込められているのだと分かりました。
後悔をされているのでしょうか?しかし、現実として今あなたは侯爵令息として至極真っ当に生きているだけなのですから、非難される言われはないでしょう。
私からしたら当然の責務を果たして、正々堂々生きている今のあなたしか存じ上げません。

「おかしな事をおっしゃいますね」
私が本心から零した感想を聞いたシニフェ様は顔を持ち上げました。
「おかしい?」
「ええ、おかしいです。だってそうでしょう、私はシニフェ様が仰る『ゲーム』とやらは存じ上げませんが、もしクーラッジュが英雄になるのが?宿命?どちらでもかまいませんが、神が定めた事柄であるのなら、本人がどう生きようとも英雄にはなるはずです。逆に言えばシニフェ様は自分が嫌がってもいじめを行うでしょう。それか、シニフェ様以外の方が同じ事をするか、全く別ルートでも理由になる方法でなっているはずです」
我ながら勝手な言い分だとも思いますが、もし天から授けられた道筋であれば、1人の人間の駄々でどうにかなる物である訳が無いでしょう。

「そうですよ、もしクーラッジュが英雄になるための必要悪がシニフェ様なのだとしたら、シニフェ様がクーラッジュを関わってはいけないって思う訳がないですよ」
「そうか?でも、俺にいじめさせる為にクーラッジュは本能的に俺に近寄って来ていると思うと、納得がいく気もするんだ」
納得がいかないというように、シニフェ様は続けます。
「やっぱりここは本人に直接、すっぱりさっくりと聞くしかないな!」
シニフェ様は椅子から立ち上がりました。決心したような真剣なまなざしは素晴らしいですが、それは本当に止した方が良いと思います。

そう言いたいですがそうして、私がお止めするのはもう何度目かも分かりません。いい加減嫌がられてしまうかもしれませんし、助けてください。と、向かいのプランに眼で訴えると彼も私と同じ思いらしく、頷いてから口を開き始めました。

「シニフェ様、ここは僕が話しますよー。丁度商法の授業で僕はクーラッジュと一緒なので」
ニコニコと朗らかに笑うプランを見て、シニフェ様は安堵されたように顔を緩ませています。
「そ、そうか。助かる、ありがと」
「とんでもないですよぉ。その『ゲーム』?というのが終わるまでは、クーラッジュとはあまり関わらない方が良いと思いますし」
そのプランの言葉にシニフェ様も納得したように持っていた本を見やり「あっ、しまった。ちょっと先生によばれているんだった。行ってくるな」と食堂をあとにされました。
シニフェ様がいなくなるとプランは先ほどまでの笑みをスッと隠して重い声を出しました。
「クーラッジュとシニフェ様だけで話をさせるなんて、たき火にウサギを放り込むようなもんだもん。クーラッジュあいつこの間『シニフェ様の椅子になりたい』って呟いてたんだよ」

どんな状況でそんな台詞をのたまったのかが気になるところではありますが、とんでもなく危険人物であることだけは分かる発言です。むしろそんな危ない人物の視界に入れる事すら許しがたい気持ちになりました。
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