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私の主人、やっかいな思いを向けられる
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翌日の昼食の時間、私とプランは少し早めに食堂に集まることにしました。
「うん、エノームやっぱりクーラッジュはどうしようもない」
片手に1枚ずつトレーを持ったままプランは嫌悪の表情を見せています。こんなプランは非常に珍しいので、人違いかもしれません。
「どうだったんですか?」
「どうもこうもないよ、授業で毎回僕の隣にくるんだけどさ、その度にシニフェ様の事を言ってるんだ。大体無視してるけど今日は昨日の件もあったから聞いたんだ。それこそはっきりと『君はシニフェ様になんで近寄ってるの?』ってさ」
「率直すぎる気もしますが、ソレくらい単刀直入の方が良いですね」
「そうしたらさ、あいつなんて言ったと思う?『子供の頃少しの間だけ僕に構って下さった』って。一応僕も一緒にいたからね、その事については謝ったよ。でも違うんだ、その後あいつはこう言ったんだ」
そう言ってプランは蓄音ペンを出しました。これは録音が出来る高級品です。
「すごいですね、こんな物まで用意していたんですか」
「無駄になると思ってたんだけどね、持っといて良かったよ」
プランは嫌そうにそのボタンを押しました。
『はぁ、グラン君、分かる?僕の言いたい事。あの当時の小さなグランメション様の可愛らしい唇から僕を蔑む台詞が出て来て、しかもあの美しいアクアマリンのような瞳をきつく光らせて睨みつけられていた幸せな瞬間。あれを思い返すだけで僕は震えてしまうくらい嬉しいし出来れば今もして欲しいんだ。なのに、3年2ヶ月と26日前を最後に、それをしてくださらなくなってしまっただろう?
僕に興味を持っていただけなくなった当初、間抜けな僕は少し『ホッ』としてしまったんだ。本当に阿呆だよ。グランメション様に詰られなくなって良かったなんて思っていたんだ。
でも、すぐに寂しくてどうしようもなくなってしまったんだよね!あの表情を二度と僕に向けていただけないと思うと残念で、心臓が冷たく、からっぽになったようだった。
けどもね、暫くしたら、グランメション様は僕を見かけた際に困ったような、はにかんだようなお顔をされたから、『ああ、今度はそうやって僕の反応を試されているんだ』ってわかったんだ!」』
そう長い口上を述べる途中途中の息の荒さに鳥肌が立ちました。もし、私がその場にいたらヤツの首を掴んでいたでしょう。それは蓄音していた時のプランも同じだったようで、そのまま続いていた会話の声は冷ややかな、クーラッジュと距離をとろうとしている声色でした。
『そ、そうなんだね。でもそれはシニフェ様へお伝えしないで、君のうちに留めておいた方が良いね。シニフェ様にはそんなおつもりは一切、いっさいないから』
『ええ?!グラン君にはわからないの!?可哀想に』
『僕には君の方が不憫だと思うよ。ともかく、そういう発言は君の彼女であるベグマン様も不愉快に思われるだろうから止めるべきだね』
『彼女?誰が?』
『だからベグマン様だよぉ。彼女も面白くないでしょう?恋人が別の、それも男をそんなに褒めたりしたら嫌でしょうに』
『プラン君、何言ってるの?ふふふ、面白い冗談!ラーム様は公爵令嬢だよ、それにひきかえ僕は貧乏男爵の3男、継げる領地も爵位も金もないんだから、公爵家の令嬢になんて本来であれば会話すらさせていただけないよ。彼女とは選択している授業が重なっている事が多いから、ご一緒させてもらっているだけだよ』
『そう思うのなら、シニフェ様だって侯爵家のご嫡男だよ?さっきの君の物言いは失礼じゃないかな?』
『そうだね!そこだよ!グランメション様程の御家柄であればあのような嗜好は許されないかもしれないが、僕なら貧乏男爵の三男坊でとるにならない存在だからね。いくらでもご自由にこの身にぶつけていただいて構わない!そう僕が言っていたとグランメション様へお伝えしてくれ!』
「エノーム大丈夫?」
「あ、はい。とんでもない主張に怒りを超えて無になっていました」
「音声だけでこの破壊力だもんねぇ~。表情付きだったら多分、エノームはクーラッジュに縄掛けをしてたと思うね」
「いえ、今聞いただけでも今後どうやってシニフェ様を視界に入れないようにするかを考えさせられています」
私の発言にプランは笑い出し、右手に持っていたトレーの上にあるパスタを食べ始めたので、私も自分のパンを口に入れ始めました。
「にしてもさぁ」
パスタ一人前をぺろりと平らげると、プランが呆れたような脱力した声を出し始めます。
「ちょっとびっくりしたのはさぁ、ベグマン様は彼女ではなかったってことだよねぇ」
「ええ、それは私も驚きました。片思い?の相手の事でわざわざ周囲に牽制するものなんですね」
「しかもこっちに対しても本人じゃなくってエノームに言うのが良いよね」
「?」
エノームの指摘がよく分かりません。私に言うのはおかしなことなのでしょうか。
「っちょっと、エノーム疑問に思ってないのはおかしいでしょ。いくら僕らがシニフェ様と一緒に居るっていったて、シニフェ様への苦言を君に言うってどう考えてもおかしいじゃない?」
「でしょうか?シニフェ様のような崇高な存在に、下らない事をお伝え出来ないから私にきたのだと」
そう言うと、プランは眼を点にしました。
それから、左のトレーに乗せていたクロックムッシュとジャンボンフロマージュを両手で一つずつ持って言いました。
「んーー、エノームもちょっと大概だね。クーラッジュと別ベクトルでヤバい」
「うん、エノームやっぱりクーラッジュはどうしようもない」
片手に1枚ずつトレーを持ったままプランは嫌悪の表情を見せています。こんなプランは非常に珍しいので、人違いかもしれません。
「どうだったんですか?」
「どうもこうもないよ、授業で毎回僕の隣にくるんだけどさ、その度にシニフェ様の事を言ってるんだ。大体無視してるけど今日は昨日の件もあったから聞いたんだ。それこそはっきりと『君はシニフェ様になんで近寄ってるの?』ってさ」
「率直すぎる気もしますが、ソレくらい単刀直入の方が良いですね」
「そうしたらさ、あいつなんて言ったと思う?『子供の頃少しの間だけ僕に構って下さった』って。一応僕も一緒にいたからね、その事については謝ったよ。でも違うんだ、その後あいつはこう言ったんだ」
そう言ってプランは蓄音ペンを出しました。これは録音が出来る高級品です。
「すごいですね、こんな物まで用意していたんですか」
「無駄になると思ってたんだけどね、持っといて良かったよ」
プランは嫌そうにそのボタンを押しました。
『はぁ、グラン君、分かる?僕の言いたい事。あの当時の小さなグランメション様の可愛らしい唇から僕を蔑む台詞が出て来て、しかもあの美しいアクアマリンのような瞳をきつく光らせて睨みつけられていた幸せな瞬間。あれを思い返すだけで僕は震えてしまうくらい嬉しいし出来れば今もして欲しいんだ。なのに、3年2ヶ月と26日前を最後に、それをしてくださらなくなってしまっただろう?
僕に興味を持っていただけなくなった当初、間抜けな僕は少し『ホッ』としてしまったんだ。本当に阿呆だよ。グランメション様に詰られなくなって良かったなんて思っていたんだ。
でも、すぐに寂しくてどうしようもなくなってしまったんだよね!あの表情を二度と僕に向けていただけないと思うと残念で、心臓が冷たく、からっぽになったようだった。
けどもね、暫くしたら、グランメション様は僕を見かけた際に困ったような、はにかんだようなお顔をされたから、『ああ、今度はそうやって僕の反応を試されているんだ』ってわかったんだ!」』
そう長い口上を述べる途中途中の息の荒さに鳥肌が立ちました。もし、私がその場にいたらヤツの首を掴んでいたでしょう。それは蓄音していた時のプランも同じだったようで、そのまま続いていた会話の声は冷ややかな、クーラッジュと距離をとろうとしている声色でした。
『そ、そうなんだね。でもそれはシニフェ様へお伝えしないで、君のうちに留めておいた方が良いね。シニフェ様にはそんなおつもりは一切、いっさいないから』
『ええ?!グラン君にはわからないの!?可哀想に』
『僕には君の方が不憫だと思うよ。ともかく、そういう発言は君の彼女であるベグマン様も不愉快に思われるだろうから止めるべきだね』
『彼女?誰が?』
『だからベグマン様だよぉ。彼女も面白くないでしょう?恋人が別の、それも男をそんなに褒めたりしたら嫌でしょうに』
『プラン君、何言ってるの?ふふふ、面白い冗談!ラーム様は公爵令嬢だよ、それにひきかえ僕は貧乏男爵の3男、継げる領地も爵位も金もないんだから、公爵家の令嬢になんて本来であれば会話すらさせていただけないよ。彼女とは選択している授業が重なっている事が多いから、ご一緒させてもらっているだけだよ』
『そう思うのなら、シニフェ様だって侯爵家のご嫡男だよ?さっきの君の物言いは失礼じゃないかな?』
『そうだね!そこだよ!グランメション様程の御家柄であればあのような嗜好は許されないかもしれないが、僕なら貧乏男爵の三男坊でとるにならない存在だからね。いくらでもご自由にこの身にぶつけていただいて構わない!そう僕が言っていたとグランメション様へお伝えしてくれ!』
「エノーム大丈夫?」
「あ、はい。とんでもない主張に怒りを超えて無になっていました」
「音声だけでこの破壊力だもんねぇ~。表情付きだったら多分、エノームはクーラッジュに縄掛けをしてたと思うね」
「いえ、今聞いただけでも今後どうやってシニフェ様を視界に入れないようにするかを考えさせられています」
私の発言にプランは笑い出し、右手に持っていたトレーの上にあるパスタを食べ始めたので、私も自分のパンを口に入れ始めました。
「にしてもさぁ」
パスタ一人前をぺろりと平らげると、プランが呆れたような脱力した声を出し始めます。
「ちょっとびっくりしたのはさぁ、ベグマン様は彼女ではなかったってことだよねぇ」
「ええ、それは私も驚きました。片思い?の相手の事でわざわざ周囲に牽制するものなんですね」
「しかもこっちに対しても本人じゃなくってエノームに言うのが良いよね」
「?」
エノームの指摘がよく分かりません。私に言うのはおかしなことなのでしょうか。
「っちょっと、エノーム疑問に思ってないのはおかしいでしょ。いくら僕らがシニフェ様と一緒に居るっていったて、シニフェ様への苦言を君に言うってどう考えてもおかしいじゃない?」
「でしょうか?シニフェ様のような崇高な存在に、下らない事をお伝え出来ないから私にきたのだと」
そう言うと、プランは眼を点にしました。
それから、左のトレーに乗せていたクロックムッシュとジャンボンフロマージュを両手で一つずつ持って言いました。
「んーー、エノームもちょっと大概だね。クーラッジュと別ベクトルでヤバい」
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