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地味な公爵令嬢と落ち込む侯爵令息、そしてその場に居ない子爵令息
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あれは私が4歳の頃だったと思います。
私の二つ歳上の第二王子が同世代を招いて初めてのお茶会を主催した時の事でした。
公爵家である私は遠いとはいえ一応親戚、他の招待客もほとんどが王族や公爵家の面々で、それはそれは見栄と華やかさがある面々が揃っておりました。
そんな中で一際目立っている子がひとり、ゆっくりと部屋に入っていらっしゃいました。
おしゃべりをしていた王弟一家の姫様や殿下、私とは別の公爵家の双子の兄弟、そして第二王子もその子を見て道を空けました。
黒い絹のような髪の毛に青空のように澄んだ水色の目、真っ白い肌に生意気そうにツンとした鼻の男の子でした。
お人形のようなその子を取り囲むように王族達が代わる代わる声をかけていきますが、その子は返事をしないどころか愛想笑い一つしないのです。
私はこの面々の中でそんな振る舞いが出来るなんてこの子は何者なのだろうと子供ながらに驚いた事をよく覚えております。
「シニフェ良く来たね。僕の隣においで」
そう第二王子が呼んだ名前を聞いて始めて、この子が噂のグランメション家の一人息子であると分かりました。
グランメション様に声をかけた第二王子は、ご自分の婚約者である公爵家の姫様ではなくグランメション様を隣に座らせました。姫様はショックを受けた顔をしつつも、グランメション家が相手では仕方がないと諦めたように私の隣に座わり微笑で不満を訴えていました。
普通に考えれば侯爵家である彼が主賓の隣などありえません。
しかし、グランメション家という存在がこの国で最も有力であるというのは、この国の貴族であればたとえ子供であっても、常識なのです。
「さぁ始めようか」
グランメション様が席につくとまだ全員揃っていないにも拘らず、第二王子は待ってましたと言うように会をスタートさせました。
会の最中の事はよく覚えていません。
従姉妹のメシャンが私を見て
「ラーム、おひさしぶり。私のパパが貴方のパパに今度お金を貸すらしいわ」
と言ってきた事だけは覚えています。
でもそれ以外に誰とも会話をした覚えがないくらい、私はその場では空気でした。
対してグランメション様にはそれはもうひっきりなしに声をかける人が寄ってくるのです。そんな風に人に囲まれていましたけれどもグランメション様は寂しそうな、不安そうな表情で小さく相づちを返す程度でした。
「シニフェどうしたんだい?緊張してるの?大丈夫だよ、今ここに居るのは私の親戚や仲良ししか居ないよ」
「そうですよ。グランメションである貴方に害を与えるような者は居りませんわよ。ああ、なんでしたらあちらで私と一緒に花冠を作りに行きましょう?」
「お姉様ずるい!僕も行きます!」
「貴方は今日の主催者なのですから皆様をおもてなしなさいな。シニフェは最年少なのだから私が一緒に遊んで差し上げるの」
そうやって王の兄弟姉妹までもがグランメション様を取り合うのです。
今だから分かりますが、第二王子の姉である王女は、容姿家柄・歳の差に問題がないグランメション様をご自分の婚約者にしたかったのでしょう。この後のことですが他の場でもことあるごとに話しかけるお姿を目にすることになります。
子供らしくきゃあきゃあ騒ぐ中、グランメション様は俯きながらこの日初めてちゃんとした発言をされました。
「エノーム」
それは小さく泣きそうな声でした。
「なぁに?シニフェ何か言いまして?」
王女が聞き返します。
「エノームがいない…なんで?」
「エノーム?それはどなたなのかしら。シニフェのお家の乳母?」
「ぬいぐるみかもよ、お姉様」
「まぁ!それは可愛らしい!そうだわ私のもっているテディベアを持って参りますわ!待っていてね、あなたと同じくらいの大きさなのよ」
「……ちがいます。エノームはくまなんかじゃありません。僕のそっきんです」
「あーそうだったのか。ごめんね。今日は侯爵家以上の家の子供しか居ないんだ」
第一王子が察したようにそう言うと、グランメション様は驚愕と言うようなお顔をされ今まで以上に項垂れてしまわれると、終わりまでしょんぼりとされていらっしゃいました。
グランメション様のあまりの落ち込み具合にお茶会は当初の予定よりも早く終わったのではないかと思います。
帰り、各家の馬車が王宮に迎えに来始める中でひときわ豪華な馬車が1台やってきました。誰が口にするでもなく、先に到着していた他家の馬車は、すぐさまその馬車が通れるように脇に避けて、入り口の目の前まで向かわせました。
そうして豪華な馬車は停まるや否や、中からヒョロりとした子供が下りてくると同時に、グランメション様がその子供へ抱きつきました。
「遅いじゃないか!僕を待たせるなんて!!」
「もうしわけございません。これでもていこくよりも早くきたのですが」
「うるさい!僕を1人にするなんて、エノームは何をかんがえてるんだ」
「もうしわけございません。ガスピアージェの家はかきゅうきぞくですので、この場にはごいっしょできないのです」
「なんで?なんでだ?ならお父様に言ってやる。僕を誰だと思っているんだ。エノームが僕といられるようにしてやるから次からは一緒にくるんだ」
先ほどまでの大人しい無表情な少年はどこへやら。
我が儘を言いながらグランメション様はひょろりとした少年と馬車の中へ入って行きました。
その後何度か王族主催の同じような会が行われましたが、二度とグランメション様とご一緒する事はございませんでした。
私の二つ歳上の第二王子が同世代を招いて初めてのお茶会を主催した時の事でした。
公爵家である私は遠いとはいえ一応親戚、他の招待客もほとんどが王族や公爵家の面々で、それはそれは見栄と華やかさがある面々が揃っておりました。
そんな中で一際目立っている子がひとり、ゆっくりと部屋に入っていらっしゃいました。
おしゃべりをしていた王弟一家の姫様や殿下、私とは別の公爵家の双子の兄弟、そして第二王子もその子を見て道を空けました。
黒い絹のような髪の毛に青空のように澄んだ水色の目、真っ白い肌に生意気そうにツンとした鼻の男の子でした。
お人形のようなその子を取り囲むように王族達が代わる代わる声をかけていきますが、その子は返事をしないどころか愛想笑い一つしないのです。
私はこの面々の中でそんな振る舞いが出来るなんてこの子は何者なのだろうと子供ながらに驚いた事をよく覚えております。
「シニフェ良く来たね。僕の隣においで」
そう第二王子が呼んだ名前を聞いて始めて、この子が噂のグランメション家の一人息子であると分かりました。
グランメション様に声をかけた第二王子は、ご自分の婚約者である公爵家の姫様ではなくグランメション様を隣に座らせました。姫様はショックを受けた顔をしつつも、グランメション家が相手では仕方がないと諦めたように私の隣に座わり微笑で不満を訴えていました。
普通に考えれば侯爵家である彼が主賓の隣などありえません。
しかし、グランメション家という存在がこの国で最も有力であるというのは、この国の貴族であればたとえ子供であっても、常識なのです。
「さぁ始めようか」
グランメション様が席につくとまだ全員揃っていないにも拘らず、第二王子は待ってましたと言うように会をスタートさせました。
会の最中の事はよく覚えていません。
従姉妹のメシャンが私を見て
「ラーム、おひさしぶり。私のパパが貴方のパパに今度お金を貸すらしいわ」
と言ってきた事だけは覚えています。
でもそれ以外に誰とも会話をした覚えがないくらい、私はその場では空気でした。
対してグランメション様にはそれはもうひっきりなしに声をかける人が寄ってくるのです。そんな風に人に囲まれていましたけれどもグランメション様は寂しそうな、不安そうな表情で小さく相づちを返す程度でした。
「シニフェどうしたんだい?緊張してるの?大丈夫だよ、今ここに居るのは私の親戚や仲良ししか居ないよ」
「そうですよ。グランメションである貴方に害を与えるような者は居りませんわよ。ああ、なんでしたらあちらで私と一緒に花冠を作りに行きましょう?」
「お姉様ずるい!僕も行きます!」
「貴方は今日の主催者なのですから皆様をおもてなしなさいな。シニフェは最年少なのだから私が一緒に遊んで差し上げるの」
そうやって王の兄弟姉妹までもがグランメション様を取り合うのです。
今だから分かりますが、第二王子の姉である王女は、容姿家柄・歳の差に問題がないグランメション様をご自分の婚約者にしたかったのでしょう。この後のことですが他の場でもことあるごとに話しかけるお姿を目にすることになります。
子供らしくきゃあきゃあ騒ぐ中、グランメション様は俯きながらこの日初めてちゃんとした発言をされました。
「エノーム」
それは小さく泣きそうな声でした。
「なぁに?シニフェ何か言いまして?」
王女が聞き返します。
「エノームがいない…なんで?」
「エノーム?それはどなたなのかしら。シニフェのお家の乳母?」
「ぬいぐるみかもよ、お姉様」
「まぁ!それは可愛らしい!そうだわ私のもっているテディベアを持って参りますわ!待っていてね、あなたと同じくらいの大きさなのよ」
「……ちがいます。エノームはくまなんかじゃありません。僕のそっきんです」
「あーそうだったのか。ごめんね。今日は侯爵家以上の家の子供しか居ないんだ」
第一王子が察したようにそう言うと、グランメション様は驚愕と言うようなお顔をされ今まで以上に項垂れてしまわれると、終わりまでしょんぼりとされていらっしゃいました。
グランメション様のあまりの落ち込み具合にお茶会は当初の予定よりも早く終わったのではないかと思います。
帰り、各家の馬車が王宮に迎えに来始める中でひときわ豪華な馬車が1台やってきました。誰が口にするでもなく、先に到着していた他家の馬車は、すぐさまその馬車が通れるように脇に避けて、入り口の目の前まで向かわせました。
そうして豪華な馬車は停まるや否や、中からヒョロりとした子供が下りてくると同時に、グランメション様がその子供へ抱きつきました。
「遅いじゃないか!僕を待たせるなんて!!」
「もうしわけございません。これでもていこくよりも早くきたのですが」
「うるさい!僕を1人にするなんて、エノームは何をかんがえてるんだ」
「もうしわけございません。ガスピアージェの家はかきゅうきぞくですので、この場にはごいっしょできないのです」
「なんで?なんでだ?ならお父様に言ってやる。僕を誰だと思っているんだ。エノームが僕といられるようにしてやるから次からは一緒にくるんだ」
先ほどまでの大人しい無表情な少年はどこへやら。
我が儘を言いながらグランメション様はひょろりとした少年と馬車の中へ入って行きました。
その後何度か王族主催の同じような会が行われましたが、二度とグランメション様とご一緒する事はございませんでした。
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