やり直し皇女は母国に帰りたい

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遡った時間

18:皇女は侯爵令嬢に取引を持ちかける

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「ルサルカ様!ようこそお越し下さいました!」

セールビエンスはそう言って私に駆け寄ってくる。
その姿は遠目から見ても前回よりも大分マシで、相変わらず体格は立派ではあるが、顔中にあったニキビは随分落ち着いており、体臭もない。なにより服装もまともで、前回のカーテンを巻き付けたような物ではない。
家にいた方がオシャレってこと?

「突然お伺いしたいなんてお願いしてしまって申し訳ございません」
「とんでもない!ご足労させてしまった事の方が気がかりです」
困ったようにそう言うセールビエンスにトゥットが「前回見た時より全然普通じゃん」などと呟くのを横目で見ると、口を噤んだ。

「いえいえ、本当に今日セールビエンス様が訪問を許して下さって嬉しかったのです。私は外に出て色々カエオレウムこの国を見て回りたいのですが、殿下がマナーもなっていないのにと許して下さいませんの。ですから、この国の、それも宰相様であるエッセ侯爵のお嬢様に習うと国王様にお願いしてようやく初めての外出が出来たのです」
これは本当のことだった。
オケアノスは過去も今も、私が外に出るのを許さなかった。なんでもマナーのなっていない自分の婚約者を人目に晒したくないのだとか。
以前はそれにショックを受けて王宮に閉じこもっていたけれど、今回は無視する事に決めた。
逆にマナーを直すためと国王におねだりをしたところ、すぐに快諾してくれた。



私たちはエッセ侯爵家の広い邸宅を案内され、美しく整えられたサロンで話し始めた。
「まぁ…それは酷いです。ルサルカ様のマナーは全くおかしくございませんよ。ドゥ伯爵夫人も言ってました」
「それなら安心だわーー。それにしてもセールビエンス様の今日のドレスはとてもお似合いですわね」
「本当ですか?私のセンスはあまり評判が良くなくて、外に行く時は色々頑張っているのです。でも家でくらい好きな服装でいたいので、自分が好きな服を褒めていただけるのは嬉しいものですね」

お世辞ではなく本当に今の彼女の服装はよく似合っていた。肌荒れが良くなった事で元々の白い肌に紺色のドレスが彼女の育ちの良さを引き立ててよく似合っているし、ピンク色の唇をより生き生きと輝かせてみせている。
そんな厳かにも見えてしまう服装にもかかわらず、顔を綻ばせるように照れ笑いをする仕草が少し隙を作って素朴可愛らしい。
むしろ前回のカーテンのような服を似合うと言う方が嘘だと思う。
まさかとは思うが…

「セールビエンス様、評判が悪いと言うのはどの世界での事ですか?」
「世界…ですか?えぇっと、私の家に代々使えてくれている仕立て屋があるのですが、その者に当家で頼む際にサラ様やそのご友人達もお呼びして一緒にお洋服を仕立てることが多いのです。その際に私が選ぶドレスは流行遅れであるから、似合うものと選んでいただいているんです」

なんて、きな臭い状況。
自分より似合う物を選ばせないように皆で仕組んでるんじゃないかしら。

「セールビエンス様、もう一つ質問させて下さいね。ーー皆さんがお勧めされるドレスを選ぼうとする時、仕立て屋の方はなんておっしゃっているの?」
「インフィルモスはーー、ああ、仕立て屋はインフィルモスという者なんですけども、彼は何も言いませんね。昔は色々おしゃべりをしてくれていたんですけど…私のセンスが悪過ぎて絶句しているのでしょうね」

ビンゴっ!!
私の予感は当たったようね。
朧げな記憶だけどインフィルモスって、過去で凄く人気のあった仕立て屋だわ。王家や侯爵家といった上位貴族しか声をかけられないって。恐らくサラやその取り巻きは自分達の家柄では頼めないから、セールビエンスをダシにして注文させて、なおかつ彼女には変な服を着せようとしてるのね…。そう思うとやっぱりあのお茶もわざとってことか。
でもどうしてかしら。

考えるように視線を上げれば、ふと壁にかかっている肖像画が目に留まる。
黒髪に白い肌、紫色の大きな垂れ目にピンク色の小さい唇の女性がこちらを微笑んでいる姿にどことなく見覚えがある。過去に会った事がある人だったかしら。
いいえ、過去じゃないはずね。もっと最近…あれ?

「…あの、セールビエンス様、失礼な事だったら答えなくて結構です」
「はい?どうぞ」
「あの絵の女性はどなたですか?」

私の言葉にセールビエンスも振り返って壁の絵を見上げたところーー

「アレは私の妻、セールビエンスの母ですよ」

と言う低い男の人の声が響いた。
驚いて振り返ると、威厳のある長いひげの男性が立っているではないか。この人は見覚えがある。

「お父様!?」
「エッセ侯爵、ご挨拶もせずお邪魔しており失礼致しました。ルサルカ・トリトーネと申します。お見知り置きを」
「皇女様、お初にお目にかかりますな。セールビエンスの父のフェルム・サングイネム・エッセと申します。本日はよくきてくださいました」
「お父様、何故家にいるのです?今日は閣議だったのでは?」
「愛娘が昨日からあんなに嬉しそうに来客の準備をしていたら、一言挨拶くらいしたいと思ったのだ」
「もぅっ!早く出て行って下さい!!」
「いいじゃないか、せっかく帰って来たのだしたまには私も一緒に話をさせてくれないか。ルサルカ皇女とは王宮でもお会い出来ていないのだから」
「ええ、私は『マナーがなっていない』そうなので、まだ人とお会い出来ないそうなのです」
と少しだけしょんぼりと項垂れてみたりして。
ま、今日のアピールはそこではないし、今気になるのはその事ではないんだけどね。

「あの、侯爵様、先ほどあちらの絵の女性はセールビエンス様のお母様とおっしゃいましたか?」
「グロッシ・エッセ侯爵夫人、私の妻ですよ。数年前に亡くなりましたがね」
「失礼しました。セールビエンス様も思い出させてしまってごめんなさい」
「いえいえ、もう吹っ切れましたわ!お父様も私を大事にしてくれていますしーーでもどうして急に絵の事なんて聞くのですか?」
「本当にささいな事なんですが、あの絵の方がセールビエンス様に似ているなぁと思いまして…」

と言った瞬間エッセ侯爵が興奮したように顔を赤くして私の両手を握りしめた。

「皇女様にはわかりますか!?王であるトルボはグロッシの事を知っているのに理解してくれないし、他の奴らも同意しないが、セーエルビエンスはグロッシ似と分かっていただけるとは!!」

握った私の手をブンブンと上下に振りながらそう言って全身で喜んでいる侯爵に対して、セールビエンスは困ったような表情をして私へ首を横に振ってみせる。

「ルサルカ様…お世辞は結構です。身内をこのように褒めるのは恐縮ですが、母は若い頃は社交界の花と言われる程美しかったのです。その人と私が似ているハズがないのです」
「そんなことございません。目鼻立ちも肌の感じも、それに醸し出す雰囲気もとても良く似ていらっしゃるーー、分かりました。百聞は一見に如かずです。私にマナーを教えて下さる代わりに私はセールビエンス様がお母様に似ていらっしゃる事を教えて差し上げますわ」
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