やり直し皇女は母国に帰りたい

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遡った時間

19:皇女は選別を始める

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私が先日持ちかけた提案に、セールビエンスは拒絶まではしなかったものの中々頷きはしなかった。
自分が頑張っても無駄ーーそんな諦めのような事をモゴモゴと言い訳して断ろうとされた。しかし、横で聞いていた侯爵が背中を押した。
「素晴らしい!皇女様は私の可愛い娘の本質を見て下さっている。セールビエンス何にも遠慮する事もないし、一度やってみてはどうだい?」
とても嬉しそうで、そして楽しみにするような父親の顔を見たセールビエンスは勇気を振り絞っていた。
それならば私は勇気に答えて差し上げましょう。
私に力をくれた海の魔女のように、対価をもらったからには望みを叶えてやるのがペルラ人の信条ですもの。



「それではセールビエンス様、お約束いただきました通りご用意いただけましたか?」
明くる日、再びお邪魔しているエッセ侯爵邸で、セールビエンスは私の言葉に深妙な面持ちでこくりと頷くと、テーブルの上にこびんに入った化粧水だとか、謎の粉、クリーム、宝石やドレス、髪飾りや口紅などの様々な物を並べていく。
高そうな容器とは裏腹になんともまぁ、禍々しい雰囲気というか見るからに胡散臭い物がいくつもあるし、過去の私が知っているだけでも、効果が無いと問題視された物や劇薬であると販売中止になった物といった、とてもではないが良い製品とは言えない代物達である。
なんと言うべきかと思っているところで、隣にいたシドンとシュケレシュのメンバーであるアルテムがうなり声を上げるではないか。

「エッセ侯爵令嬢、今ここに出ている化粧品やクリームはどこで手に入れたので?」
「えっ?流行っていると友人達に教えていただいた商人から購入しましたが…」
「今もその商人とは交流はございますか?」
「そういえば…それぞれ別の商人ですが、数回お会いするとその後姿を見なくなってますわね…」
自分でも話しながら不思議に感じ始めたようで、はて?といったようにセールビエンスは首を傾げている。
この後アルテムが言う言葉は想像に難くない。少し困ったような表情でアルテムがシドンの方を向くと、シドンが頷き言葉を続けるように促していた。
「侯爵令嬢にこんなことを申し上げるのは恐縮ですが、ここに出ている化粧品やクリームは全て捨てた方がよろしいかと」
「ええ!?何故ですの?」
「全て何の効力もございませんし、ほら、こちらのクリームにはカビが生えておりますし、化粧水も腐っております。それにあちらの口紅と白粉には体に良くない物質が大量に入っていて、我々リビュアの民や他の国の商人も取り扱いのはかなり昔に止めております」
「まさか…」
両手で口元を隠して絶句しているセールビエンスに、今度はシドンが話を始める。
「カリドゥス子爵令嬢とは長いご友人関係なのでしょうか?」
「マリ・カリドゥス子爵令嬢ですか?サラ様からのご紹介で、ここ数年お茶等をご一緒させていただいてます。カリドゥス子爵家は化粧品を幅広く展開しておりますから、よくご紹介いただいて、ここにあるのもカリドゥス子爵家の物ですが…」
「カリドゥスの化粧品はカエオレウム以外では販売禁止になっております。そして子爵令嬢もその事をご存知のはずですし、ご自分は昔からシュケレシュや他の商人から外国の物を購入しております」
「ーーお友達だと思っていたのは私だけだったようですね…」

ギュッと手を握りしめ、セールビエンスは目に溜まった涙が溢れないように顔を上に上げていた。人前で感情の起伏を見せてはならないと育てられている貴族の意地、泣くまいとするその健気な仕草に自分の事ではないのに怒りが湧いてくる。
そのカリドゥスとかいう女は過去でも会ったことはないし、名前も聞いた事がない。
恐らく宮廷にもめったに上がれない下級貴族だろう。そんな身分差があるにも拘らず、セールビエンスはと思っていてくれたのに、逆にその優しさを利用されてしまったのだ。

「セールビエンス様」
「すみません、ルサルカ様。みっともない姿をお見せしてしまって」
「そんなことありませんよ。もっと怒って良いのです!」
「ーー私は怒るのは苦手なのです。それに…あのは、同世代の貴族の中でも皆に憧れられているメンバーなので、そんな方々とご一緒させていただけると思っていたのですが…。そう思っていたのは私だけだったようですね。独りで舞い上がっていたのが恥ずかしい」

項垂れて、諦めてようにセールビエンスは苦笑いを私たちにみせて、テーブルの物をメイドを呼んで片付けさせていた。すると、その光景を見ていたアルテムも私と同じ気持ちだったようで、セールビエンスの前に跪いて彼女の顔をジッと見つめた。
絵画のように整った容姿のアルテムに見つめられているセールビエンスは、みるみるうちに顔を真っ赤にして手で隠そうとした。しかし、アルテムは「失礼」と断りをいれてセールビエンスの顎をクイッと上に挙げ、その頬や額の肌を手の甲で確かめるように触れて1人で納得している。

「侯爵令嬢様、大丈夫です。まだ十分に治るレベルです。ここは私に任せて下さい」
と、言うとシドンも持って来ていた袋から色んな薬や化粧水等を取り出し始めた。
「まずは肌からですね。そして髪、せっかく綺麗だろうに地肌が炎症を起こしていますねーー手順はこちらの御宅のメイドに伝えておくようにしますから、騙されたと思ってこれを使って下さい」
ずらりと並べられた新しい、しかし先ほどの物に比べたら質素な入れ物に入ったクリーム等を目の前にして、セールビエンスは伺うように私の顔を見やった。
「騙すのではありませんよ。でも当然心配ですよね。ーー私も同じ物を使いますわ。それにお代は不要ーーですわよね?シドン」
「はぁ…皇女様には敵いませんね。わかりました、今回のこれはタダでご用意致します。しかし、これで綺麗になった暁には『シュケレシュからの化粧品をつかった』ときちんと皆さんに教えて下さいね」
「セールビエンス様、見返して差し上げましょう!!そして、先ほど仰っていた、憧れているメンバー?とかいうグループよりも憧れられるグループをセールビエンス様が作ってしまえば良いのです!!」

私はセールビエンスの手をガシっと握りしめた。
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