39 / 111
遡った時間
38:仮面の男は皇女に忠誠を誓う
しおりを挟む
私が(表向きでは)引きこもりになってから、数日が経ったある朝のこと唐突にアケロンがクローゼットからやってきた。
「アっアケロン様!?」
クローゼットからの異質な雰囲気を感じ取ったコラーロは様子を見に行くなりそう叫んだ。
「おはよう宝石姉妹。皇女様はいらっしゃる?」
「いらっしゃいますが…」
「奥かな?」
「はいそうです…」
「いやいやちょっと、コラーロ!?だめですよ。アケロン様申し訳ございませんがさすがに突然の訪問過ぎますので、少々そちらの私どもの控えの間で申し訳ございませんがお待ちいただけないでしょうか」
「ああ、別にいいよ。でもなるべく早くしてね」
突拍子もない訪問に驚いてそのまま通してしまいそうになるコラーロと、焦って自分達の部屋に通してしまうアガタの声を聞きながら、なんとなくあった虫の予感を信じて着替えておいて良かったと1人で頷いてから、声がする方へ向かう。
「アケロン、さすがに来る際には30分前には連絡を頂戴」
「おお、皇女様。さすがだね」
「「皇女様!どういうことですか?なぜアケロン様が皇女様のクローゼットから?」」
「アガタ、コラーロ、実は最近このクローゼットの奥はシュケレシュとか含めて3カ所に出られるようになったの。逆に言えば、アケロンだけは外からこっちに来る事も出来るわ」
「「先に仰ってください」」
「ごめんね。ーーそれでアケロンはこんな朝からどうしたの?」
「フルクトスとの授業を皇女様も一緒に受けるって話だったじゃない。だからお誘いにきたってわけ」
「さすがに文字の書き方や日常会話、礼儀作法なんかは受けなくても良いと思ってるんだけど」
「いやいやいや、もうそんなのとうの昔に終わったよ」
「えっ?!早過ぎじゃない?!」
「小生自身もビックリしてる。1教えたら10どころじゃない、20も30も学んじゃうんだよ。今日からはこの国および周辺国の政治経済をやるから、皇女様もちょうど良いと思うよ」
よほど嬉しいのだろう、アケロンは話しながら私の手を引っ張り、入って来たクローゼットの中へと入りはじめた。もうこうなったらこの大魔法使いは誰にも止められない。打てば響くような人材に巡り会えたと興奮する今のアケロンを見たら、きっとお父様は苦笑いをしながら後ずさりするに違いない。
出来る事なら私もちょっと逃げ出したい。
アケロンがどうの、ではなく、そんなに優秀な人と一緒に学ぶなんて気後れしてしまうもの。
自分で言うのもなんだけど、私の頭は平々凡々で、叱られはしないけど褒められもしないのだ。
「水面に輝ける真珠である皇女様、再びお会い出来て光栄です」
再び私の前に現れたフルクトスはそう言って私に跪いた。そしてゆっくりと私の右手をとってしゃがんでいる自らの頭の高さまで捧げるようにした。
これはペルラでは昔は騎士がする忠誠の仕草であった。
「御機嫌よう。フルクトス様…丁寧な挨拶をしていただき恐縮ですが、その挨拶は私に対してしてはダメですわ」
「何故ですか?先生は自分の主や姫君に対して使う挨拶と伺いました。皇女様は皇女ですし、間違ってはいないはずです」
「間違ってはいませんが…」
間違ってはいない。昔は確かに騎士が自ら仕える姫や主にこのポーズをとった。でもそれが時を経て、今では婚約や結婚式で夫となる人が妻となる女性に対してする仕草になっている。
チラりとアケロンの方をみると、両腕を組んで、力強く何度も頷いているだけだ。
「…あまり外でしない方が良いですわ。ここはペルラではないですし、カエオレウムでペルラ流は嫌われます」
「問題ありません。皇女様にしかいたしませんので」
な…、なんて事を言うのだろう。
きっと他意はないのだ。王の息子であるフルクトスが忠誠のポーズを取るとすれば、それは自分の母親か王妃となる人、または陛下くらいだ。基本的にこれは男性から女性に対するポーズであるから、今のカエオレウムでは王妃様か、暫定的には私しかいないって言う意味だろう。
そうよね?
ああ、相変わらず仮面がついているせいで、その言葉をどんな表情で言っているのかわからない。
「そーー、そうですか。アケロン、時間が勿体ないですわね。始めましょう」
「はいはーい。皇女様ももうちょっと喜んでみせてあげれば良いのに。フルクトス、とても上手く出来ていたよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、今日はまずカエオレウムの状況について話をしていこうか」
「わかりました」
平然と始め出すアケロン達に、私だけが焦っているようなのは気に入らないけども、まぁ中が良さそうなので一安心ともとれる。
にしても、始めるって、本もノートも黒板もないじゃない。
「アケロン、本は?」
「ん?ないよ、そんなの」
「せめてノートくらい」
「皇女様、気が利かず申し訳ございません。先生は私に合わせて下さっているのです。ええっと、なにか代わりになりそうな物はないでしょうか」
「…皇女様、ここをどこだと思う?紙なんて持ち込めるはずないじゃない?」
アケロンはそう私へうろんな目を向ける。そうか、紙になんて書き残していたら万が一中を点検されたら妙に思われるから、2人は何も使わないでこれまで学んでいたのね。私ったら、なんて思慮が足りないのかしら。
「フルクトス様、こちらこそ大変失礼いたしました。いつものようにやってください」
「とんでもございませんよ。ーー紙と言うには烏滸がましいですが、こちらをどうぞ」
と言ってフルクトスは私に羊皮紙のような物をくれるではないか。
「えっ!?フルクトス様、こんな物をどうやって」
「あまり出来は良くないですよね。申し訳ございません。私が魔法で作った物で…先生が作ってくれればもっと完璧な羊皮紙になるのですが…」
「えっ!?ちょっと、待って下さい。ーー今、なんて言いましたか?」
「アっアケロン様!?」
クローゼットからの異質な雰囲気を感じ取ったコラーロは様子を見に行くなりそう叫んだ。
「おはよう宝石姉妹。皇女様はいらっしゃる?」
「いらっしゃいますが…」
「奥かな?」
「はいそうです…」
「いやいやちょっと、コラーロ!?だめですよ。アケロン様申し訳ございませんがさすがに突然の訪問過ぎますので、少々そちらの私どもの控えの間で申し訳ございませんがお待ちいただけないでしょうか」
「ああ、別にいいよ。でもなるべく早くしてね」
突拍子もない訪問に驚いてそのまま通してしまいそうになるコラーロと、焦って自分達の部屋に通してしまうアガタの声を聞きながら、なんとなくあった虫の予感を信じて着替えておいて良かったと1人で頷いてから、声がする方へ向かう。
「アケロン、さすがに来る際には30分前には連絡を頂戴」
「おお、皇女様。さすがだね」
「「皇女様!どういうことですか?なぜアケロン様が皇女様のクローゼットから?」」
「アガタ、コラーロ、実は最近このクローゼットの奥はシュケレシュとか含めて3カ所に出られるようになったの。逆に言えば、アケロンだけは外からこっちに来る事も出来るわ」
「「先に仰ってください」」
「ごめんね。ーーそれでアケロンはこんな朝からどうしたの?」
「フルクトスとの授業を皇女様も一緒に受けるって話だったじゃない。だからお誘いにきたってわけ」
「さすがに文字の書き方や日常会話、礼儀作法なんかは受けなくても良いと思ってるんだけど」
「いやいやいや、もうそんなのとうの昔に終わったよ」
「えっ?!早過ぎじゃない?!」
「小生自身もビックリしてる。1教えたら10どころじゃない、20も30も学んじゃうんだよ。今日からはこの国および周辺国の政治経済をやるから、皇女様もちょうど良いと思うよ」
よほど嬉しいのだろう、アケロンは話しながら私の手を引っ張り、入って来たクローゼットの中へと入りはじめた。もうこうなったらこの大魔法使いは誰にも止められない。打てば響くような人材に巡り会えたと興奮する今のアケロンを見たら、きっとお父様は苦笑いをしながら後ずさりするに違いない。
出来る事なら私もちょっと逃げ出したい。
アケロンがどうの、ではなく、そんなに優秀な人と一緒に学ぶなんて気後れしてしまうもの。
自分で言うのもなんだけど、私の頭は平々凡々で、叱られはしないけど褒められもしないのだ。
「水面に輝ける真珠である皇女様、再びお会い出来て光栄です」
再び私の前に現れたフルクトスはそう言って私に跪いた。そしてゆっくりと私の右手をとってしゃがんでいる自らの頭の高さまで捧げるようにした。
これはペルラでは昔は騎士がする忠誠の仕草であった。
「御機嫌よう。フルクトス様…丁寧な挨拶をしていただき恐縮ですが、その挨拶は私に対してしてはダメですわ」
「何故ですか?先生は自分の主や姫君に対して使う挨拶と伺いました。皇女様は皇女ですし、間違ってはいないはずです」
「間違ってはいませんが…」
間違ってはいない。昔は確かに騎士が自ら仕える姫や主にこのポーズをとった。でもそれが時を経て、今では婚約や結婚式で夫となる人が妻となる女性に対してする仕草になっている。
チラりとアケロンの方をみると、両腕を組んで、力強く何度も頷いているだけだ。
「…あまり外でしない方が良いですわ。ここはペルラではないですし、カエオレウムでペルラ流は嫌われます」
「問題ありません。皇女様にしかいたしませんので」
な…、なんて事を言うのだろう。
きっと他意はないのだ。王の息子であるフルクトスが忠誠のポーズを取るとすれば、それは自分の母親か王妃となる人、または陛下くらいだ。基本的にこれは男性から女性に対するポーズであるから、今のカエオレウムでは王妃様か、暫定的には私しかいないって言う意味だろう。
そうよね?
ああ、相変わらず仮面がついているせいで、その言葉をどんな表情で言っているのかわからない。
「そーー、そうですか。アケロン、時間が勿体ないですわね。始めましょう」
「はいはーい。皇女様ももうちょっと喜んでみせてあげれば良いのに。フルクトス、とても上手く出来ていたよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、今日はまずカエオレウムの状況について話をしていこうか」
「わかりました」
平然と始め出すアケロン達に、私だけが焦っているようなのは気に入らないけども、まぁ中が良さそうなので一安心ともとれる。
にしても、始めるって、本もノートも黒板もないじゃない。
「アケロン、本は?」
「ん?ないよ、そんなの」
「せめてノートくらい」
「皇女様、気が利かず申し訳ございません。先生は私に合わせて下さっているのです。ええっと、なにか代わりになりそうな物はないでしょうか」
「…皇女様、ここをどこだと思う?紙なんて持ち込めるはずないじゃない?」
アケロンはそう私へうろんな目を向ける。そうか、紙になんて書き残していたら万が一中を点検されたら妙に思われるから、2人は何も使わないでこれまで学んでいたのね。私ったら、なんて思慮が足りないのかしら。
「フルクトス様、こちらこそ大変失礼いたしました。いつものようにやってください」
「とんでもございませんよ。ーー紙と言うには烏滸がましいですが、こちらをどうぞ」
と言ってフルクトスは私に羊皮紙のような物をくれるではないか。
「えっ!?フルクトス様、こんな物をどうやって」
「あまり出来は良くないですよね。申し訳ございません。私が魔法で作った物で…先生が作ってくれればもっと完璧な羊皮紙になるのですが…」
「えっ!?ちょっと、待って下さい。ーー今、なんて言いましたか?」
10
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる