やり直し皇女は母国に帰りたい

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遡った時間

38:仮面の男は皇女に忠誠を誓う

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私が(表向きでは)引きこもりになってから、数日が経ったある朝のこと唐突にアケロンがクローゼットからやってきた。

「アっアケロン様!?」
クローゼットからの異質な雰囲気を感じ取ったコラーロは様子を見に行くなりそう叫んだ。
「おはよう宝石姉妹。皇女様はいらっしゃる?」
「いらっしゃいますが…」
「奥かな?」
「はいそうです…」
「いやいやちょっと、コラーロ!?だめですよ。アケロン様申し訳ございませんがさすがに突然の訪問過ぎますので、少々そちらの私どもの控えの間で申し訳ございませんがお待ちいただけないでしょうか」
「ああ、別にいいよ。でもなるべく早くしてね」

突拍子もない訪問に驚いてそのまま通してしまいそうになるコラーロと、焦って自分達の部屋に通してしまうアガタの声を聞きながら、なんとなくあった虫の予感を信じて着替えておいて良かったと1人で頷いてから、声がする方へ向かう。

「アケロン、さすがに来る際には30分前には連絡を頂戴」
「おお、皇女様。さすがだね」
「「皇女様!どういうことですか?なぜアケロン様が皇女様のクローゼットから?」」
「アガタ、コラーロ、実は最近このクローゼットの奥はシュケレシュとか含めて3カ所に出られるようになったの。逆に言えば、アケロンだけは外からこっちに来る事も出来るわ」
「「先に仰ってください」」
「ごめんね。ーーそれでアケロンはこんな朝からどうしたの?」
「フルクトスとの授業を皇女様も一緒に受けるって話だったじゃない。だからお誘いにきたってわけ」
「さすがに文字の書き方や日常会話、礼儀作法なんかは受けなくても良いと思ってるんだけど」
「いやいやいや、もうそんなのとうの昔に終わったよ」
「えっ?!早過ぎじゃない?!」
「小生自身もビックリしてる。1教えたら10どころじゃない、20も30も学んじゃうんだよ。今日からはこの国および周辺国の政治経済をやるから、皇女様もちょうど良いと思うよ」

よほど嬉しいのだろう、アケロンは話しながら私の手を引っ張り、入って来たクローゼットの中へと入りはじめた。もうこうなったらこの大魔法使いは誰にも止められない。打てば響くような人材に巡り会えたと興奮する今のアケロンを見たら、きっとお父様は苦笑いをしながら後ずさりするに違いない。
出来る事なら私もちょっと逃げ出したい。
アケロンがどうの、ではなく、そんなに優秀な人と一緒に学ぶなんて気後れしてしまうもの。
自分で言うのもなんだけど、私の頭は平々凡々で、叱られはしないけど褒められもしないのだ。



「水面に輝ける真珠である皇女様、再びお会い出来て光栄です」
再び私の前に現れたフルクトスはそう言って私に跪いた。そしてゆっくりと私の右手をとってしゃがんでいる自らの頭の高さまで捧げるようにした。
これはペルラでは昔は騎士がする忠誠の仕草であった。
「御機嫌よう。フルクトス様…丁寧な挨拶をしていただき恐縮ですが、その挨拶は私に対してしてはダメですわ」
「何故ですか?先生アケロンは自分の主や姫君に対して使う挨拶と伺いました。皇女様はですし、間違ってはいないはずです」
「間違ってはいませんが…」
間違ってはいない。昔は確かに騎士が自ら仕える姫や主にこのポーズをとった。でもそれが時を経て、今では婚約や結婚式で夫となる人が妻となる女性に対してする仕草になっている。
チラりとアケロンの方をみると、両腕を組んで、力強く何度も頷いているだけだ。

「…あまり外でしない方が良いですわ。ここはペルラではないですし、カエオレウムでペルラ流は嫌われます」
「問題ありません。皇女様にしかいたしませんので」

な…、なんて事を言うのだろう。
きっと他意はないのだ。王の息子であるフルクトスが忠誠のポーズを取るとすれば、それは自分の母親か王妃となる人、または陛下くらいだ。基本的にこれは男性から女性に対するポーズであるから、今のカエオレウムでは王妃様か、暫定的には私しかいないって言う意味だろう。
そうよね?
ああ、相変わらず仮面がついているせいで、その言葉をどんな表情で言っているのかわからない。

「そーー、そうですか。アケロン、時間が勿体ないですわね。始めましょう」
「はいはーい。皇女様ももうちょっと喜んでみせてあげれば良いのに。フルクトス、とても上手く出来ていたよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、今日はまずカエオレウムの状況について話をしていこうか」
「わかりました」

平然と始め出すアケロン達に、私だけが焦っているようなのは気に入らないけども、まぁ中が良さそうなので一安心ともとれる。
にしても、始めるって、本もノートも黒板もないじゃない。

「アケロン、本は?」
「ん?ないよ、そんなの」
「せめてノートくらい」
「皇女様、気が利かず申し訳ございません。先生アケロンは私に合わせて下さっているのです。ええっと、なにか代わりになりそうな物はないでしょうか」
「…皇女様、ここをどこだと思う?紙なんて持ち込めるはずないじゃない?」

アケロンはそう私へうろんな目を向ける。そうか、紙になんて書き残していたら万が一中を点検されたら妙に思われるから、2人は何も使わないでこれまで学んでいたのね。私ったら、なんて思慮が足りないのかしら。

「フルクトス様、こちらこそ大変失礼いたしました。いつものようにやってください」
「とんでもございませんよ。ーー紙と言うには烏滸がましいですが、こちらをどうぞ」
と言ってフルクトスは私に羊皮紙のような物をくれるではないか。
「えっ!?フルクトス様、こんな物をどうやって」
「あまり出来は良くないですよね。申し訳ございません。私が魔法で作った物で…先生アケロンが作ってくれればもっと完璧な羊皮紙になるのですが…」
「えっ!?ちょっと、待って下さい。ーー今、なんて言いましたか?」
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