40 / 111
遡った時間
39:皇女は魔法を使えるか?
しおりを挟む
「えっ!?ちょっと、待って下さい。ーー今、なんて言いましたか?」
「何か失礼な事を口走ってしまったのでしょうか」
「違う、違いますよ!今フルクトス様が私にくださった、これはどうやって手に入れたのですか?」
興奮して手渡され羊皮紙を振り上げていると、仮面の目から覗き見える目玉が私の持っている羊皮紙の方を向いた。
「ですから私が作ったので、あまり出来は良くないのですが…」
「フルクトス様が、自分で、作ったの?そうなのね?…アケロン!私は聞いておりませんけど?」
いたって冷静な素振りで後ろを振り返ると、アケロンはお腹に手を当てて笑っているではないか。そんなに何を面白がっているのかと我に返れば、なんと私はフルクトスの上に乗っかって、彼の肩を前後に揺らしているではないか。
「ま…まぁ、フルクトス様、大変失礼な事を…」
「いい…いいえ。私は問題ないので…」
「とんでもないことを…」
いくら驚いたからって、相手に馬乗りになってしまうなんて。なんてこと。
私たちが(何故か)お互いに謝り合っている中でもアケロンは笑うのを止めなかった。
「アケロン~~~?」
「いやいや、黙っていたのは悪かった。小生も初めて知った時には驚いて、この驚きを皇女様にも味わっていただきたいと思ったんだよ」
笑いすぎて涙が出ているアケロンはそんなことを言うではないか。
まったく、悪戯好きの大賢者様、大魔法使い様なんて始末が悪過ぎる。
「ご希望通り、驚き過ぎてこんな失態をしてしまいました!」
「いい物を見せていただきましたよ。皇女様は気取らない方がいいんじゃないですかね?今みたいな方が小生は好きですよ」
「許される立場であれば、ずっとそうしたいですね。ーーさぁ、お望み通りの物を見たのだから、状況を説明なさいな」
「お望み以上ですよ。フルクトス」
「なんでしょう」
「薔薇を出してくれるかな」
「バラというのは先日の詩に出ていた赤くて刺のある花ですね。ーーはい、どうぞ」
「といった感じでフルクトスは頭に浮かべた物を生き物以外は生み出せるようだね。小生が教えたんじゃない。もともと出来たそうだ」
「ええ。できますがーー誰にも見せた事はなかったです」
アケロンもフルクトスも、まるで『逆立ちが出来る』程度の技術と言ったように話をしているけれど、私は過去に生きていた時にカエオレウムの中で魔法を使える人に会ったことはなかった。ペルラの人間であれば、魔女とアケロン、そしてアガタ・コラーロといった魔法使いが居るがそれは選ばれた血筋の人間達の特別な技なのだ。
「アケロンに質問です。魔法を使える人は他国には多いの?」
「昔はちょくちょくいたんだよ。でもいなくなったね。理由は分からない。気付いたら国を閉ざしていたペルラにのみ僅かに残る状態だね」
「フルクトス様にも質問です。誰にも見せた事はないというのは乳母の方にもですか?乳母の方は使えないのですか」
「ええ。ネッリにも見せた事はないですね。彼女も同じかも知れませんが少なくとも私の前で魔法を使った事はないと思います」
「そう。でしたらこのことはそのまま隠しておいた方が良いですね」
「わかりました。あのう…私からも皇女様に一つ伺っても良いでしょうか?」
「良いわよ」
「皇女様も魔法を使え「フルクトス!大分脱線してしまったね。今日の授業に戻ろうか」
フルクトスの質問を聞いたアケロンは珍しく厳しい表情で場の仕切り直しを始めた。私を気遣っているのだろう。
「いいのよアケロン。フルクトスが教えてくれたのだから私も言わなきゃフェアじゃないでしょう」
「しかし…」
「もう吹っ切れたから」
心配するアケロンを制してフルクトスの方へ向いた。
「私は魔法が使えないの。お父様もお姉様も使えるのに、私だけ生まれた時に何の魔法も持っていなかったの」
「申し訳ございません。失礼な事を聞いてしまって」
「別に失礼じゃないわよ。だってこの世界の9割以上が魔法を使えないのよ?普通だわ。それにカエオレウムに来るにあたって、魔女が私に贈り物をくれたもの」
「贈り物?」
「ええ」
一度目は借り物の魔力を貰った。使用回数と用途が決まっているインスタント魔法にすぎなかったけど、一族で唯一魔法が使えないという劣等感から逃れられたのが何よりも嬉しかった。
でもその魔力はカエオレウムの生活で私を助けてはくれなかった。だから二度目の私は魔力をくれるという魔女の提案を断った。
代わりに物を貰ったのだ。
「何を頂いたのか伺ってもよろしいでしょうか?」
「勿論よ」
「どんな贈り物なんですか」
「短剣を貰ったのよ」
「短剣…?」
フルクトスは不思議そうに首を傾げていると、今度こそアケロンが授業を始めると言って私と彼の間に入った。さすがにこの短剣の事を、カエオレウムの人間に伝える事は大賢者としては認められないのだろう。
ペルラ人でもお父様とアケロンと魔女、そして私本人しか知らない呪いなのだ。
手を叩いて残り時間で周辺国の話をすると言うアケロンの言葉をBGMにし、私は魔女との会話を思い出すのだった。
「何か失礼な事を口走ってしまったのでしょうか」
「違う、違いますよ!今フルクトス様が私にくださった、これはどうやって手に入れたのですか?」
興奮して手渡され羊皮紙を振り上げていると、仮面の目から覗き見える目玉が私の持っている羊皮紙の方を向いた。
「ですから私が作ったので、あまり出来は良くないのですが…」
「フルクトス様が、自分で、作ったの?そうなのね?…アケロン!私は聞いておりませんけど?」
いたって冷静な素振りで後ろを振り返ると、アケロンはお腹に手を当てて笑っているではないか。そんなに何を面白がっているのかと我に返れば、なんと私はフルクトスの上に乗っかって、彼の肩を前後に揺らしているではないか。
「ま…まぁ、フルクトス様、大変失礼な事を…」
「いい…いいえ。私は問題ないので…」
「とんでもないことを…」
いくら驚いたからって、相手に馬乗りになってしまうなんて。なんてこと。
私たちが(何故か)お互いに謝り合っている中でもアケロンは笑うのを止めなかった。
「アケロン~~~?」
「いやいや、黙っていたのは悪かった。小生も初めて知った時には驚いて、この驚きを皇女様にも味わっていただきたいと思ったんだよ」
笑いすぎて涙が出ているアケロンはそんなことを言うではないか。
まったく、悪戯好きの大賢者様、大魔法使い様なんて始末が悪過ぎる。
「ご希望通り、驚き過ぎてこんな失態をしてしまいました!」
「いい物を見せていただきましたよ。皇女様は気取らない方がいいんじゃないですかね?今みたいな方が小生は好きですよ」
「許される立場であれば、ずっとそうしたいですね。ーーさぁ、お望み通りの物を見たのだから、状況を説明なさいな」
「お望み以上ですよ。フルクトス」
「なんでしょう」
「薔薇を出してくれるかな」
「バラというのは先日の詩に出ていた赤くて刺のある花ですね。ーーはい、どうぞ」
「といった感じでフルクトスは頭に浮かべた物を生き物以外は生み出せるようだね。小生が教えたんじゃない。もともと出来たそうだ」
「ええ。できますがーー誰にも見せた事はなかったです」
アケロンもフルクトスも、まるで『逆立ちが出来る』程度の技術と言ったように話をしているけれど、私は過去に生きていた時にカエオレウムの中で魔法を使える人に会ったことはなかった。ペルラの人間であれば、魔女とアケロン、そしてアガタ・コラーロといった魔法使いが居るがそれは選ばれた血筋の人間達の特別な技なのだ。
「アケロンに質問です。魔法を使える人は他国には多いの?」
「昔はちょくちょくいたんだよ。でもいなくなったね。理由は分からない。気付いたら国を閉ざしていたペルラにのみ僅かに残る状態だね」
「フルクトス様にも質問です。誰にも見せた事はないというのは乳母の方にもですか?乳母の方は使えないのですか」
「ええ。ネッリにも見せた事はないですね。彼女も同じかも知れませんが少なくとも私の前で魔法を使った事はないと思います」
「そう。でしたらこのことはそのまま隠しておいた方が良いですね」
「わかりました。あのう…私からも皇女様に一つ伺っても良いでしょうか?」
「良いわよ」
「皇女様も魔法を使え「フルクトス!大分脱線してしまったね。今日の授業に戻ろうか」
フルクトスの質問を聞いたアケロンは珍しく厳しい表情で場の仕切り直しを始めた。私を気遣っているのだろう。
「いいのよアケロン。フルクトスが教えてくれたのだから私も言わなきゃフェアじゃないでしょう」
「しかし…」
「もう吹っ切れたから」
心配するアケロンを制してフルクトスの方へ向いた。
「私は魔法が使えないの。お父様もお姉様も使えるのに、私だけ生まれた時に何の魔法も持っていなかったの」
「申し訳ございません。失礼な事を聞いてしまって」
「別に失礼じゃないわよ。だってこの世界の9割以上が魔法を使えないのよ?普通だわ。それにカエオレウムに来るにあたって、魔女が私に贈り物をくれたもの」
「贈り物?」
「ええ」
一度目は借り物の魔力を貰った。使用回数と用途が決まっているインスタント魔法にすぎなかったけど、一族で唯一魔法が使えないという劣等感から逃れられたのが何よりも嬉しかった。
でもその魔力はカエオレウムの生活で私を助けてはくれなかった。だから二度目の私は魔力をくれるという魔女の提案を断った。
代わりに物を貰ったのだ。
「何を頂いたのか伺ってもよろしいでしょうか?」
「勿論よ」
「どんな贈り物なんですか」
「短剣を貰ったのよ」
「短剣…?」
フルクトスは不思議そうに首を傾げていると、今度こそアケロンが授業を始めると言って私と彼の間に入った。さすがにこの短剣の事を、カエオレウムの人間に伝える事は大賢者としては認められないのだろう。
ペルラ人でもお父様とアケロンと魔女、そして私本人しか知らない呪いなのだ。
手を叩いて残り時間で周辺国の話をすると言うアケロンの言葉をBGMにし、私は魔女との会話を思い出すのだった。
10
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる