52 / 111
知らない時間
51:第二の人生
しおりを挟む
理由は分からないけれど、首を切られたと思ったら過去に戻って来ていて、そこから再び敵地に到着して数ヶ月。前回の二の舞だけはなるものかと、人生で一番動いたと思う。
自分から計画していたこともあったし、偶然が味方してくれたこともあった。セールビエンスとの関係は私が動いた結果とすれば、シュケレシュとの縁は完全に運が良かったにすぎない。過去に知ったことを使ってドゥ伯爵夫人と関係性を得たりフルクトスと知り合いになったことと、そこから以前は知らなかったこの国の状況を把握出来てきてもいる。
今の私は確かに、一度目の人生を糧に出来ていると自信を持って言える。
けれど、そうして動いたことで人間関係や周囲の環境が、私だけではなく他の人達も変わって来てしまっているとしたら、私はどうすべきなのかしら。
「ルサルカ、こちらへいらっしゃい」
柔和な微笑みを向けて私を呼ぶこの方はレジーネ・カエオレウム、この国の王太后だ。過去の私はこの方とほとんど接点がなく、パーティ等の際に遠目で見る位の間柄だった。一応、大姑と孫嫁の関係だったのに会話と言う会話をした記憶もない。
そして、会話もしたことがなかったのに、あまり良い印象もなかった。
その王太后と二度目の人生でこうして会話をしてみれば、意外なことに彼女の穏やかさはカエオレウム王家の中で異質なくらいだ。
「はい、王太后様」
「今日はねぇ、バラのお茶を用意したのよ」
「バラの?初めて頂きます」
「でしょう?私の祖国のお茶なの。きっと気に入ってもらえるわ」
「ああ、王太后様っ、私がやりますわ」
「とんでもない!初めて会った1ヶ月前にも言いましたけど、今でこそ王太后なんて言われているけど、私はただの地方貴族の娘なの。皇女の貴方にお茶を入れさせるわけにはいかないわ」
そう言うと、王太后はいそいそと自分で茶葉を茶さじで掬い始めた。
毎度思う。私にやらせないのは、まぁ承諾したけど、わざわざ王太后自らがやらなくともいいのではないかしら。侍女は一体何をしているの。
それにしても王太后の部屋なはずなのに、この空間には不思議な程に侍女がほとんどいない。元々コラーロを王宮に呼び寄せる為に利用しようとした、各国の貴族令嬢を集めた侍女の選考会はこの時期にはもう終わっていたはずだ。
それなのに1人も侍女がいないのはどうしてかしら。
王太后と私以外に誰もいないテラスでそんなことを考えていると、カップとお菓子を王太后が手ずから私の前においてくれるではないか。
まったく、そんなことをされては反応に困ってしまう。
こんな風に王太后はイメージと違う行動をするのを、ドゥ伯爵夫人からの話を聞いた時の私に教えてあげたい。
オケアノスとサラが押し掛けて来た『カメオ事件』の後、ドゥ伯爵夫人はこう言った。
『王太后様が皇女様とお話をされたいと仰っています。お断りすることも出来ますが、いかがでしょうか?』
聞いた瞬間、反射的に断ろうと思った。しかし、ドゥ伯爵夫人は私が断ろうとする言葉に重ねてこう付け足したのだ。
『オケアノス殿下についての話を国王陛下や王妃様に仰るのは難しいでしょうが、王太后様でしたら興味を持って下さると思いますよ』
◆◆◆◆
ドゥ伯爵夫人の言葉に首を傾げながら、招待された時間に、今いるテラスに向かった所、とてもオケアノスの祖母とは思えない程若々しい女性が私を待っていて驚きを隠せなかった。
我ながら失礼なくらい表情に出ていたのだろう。私の表情を見た王太后はおかしそうに笑いながら私を部屋に招き入れてくれた。
「うふふ。期待通りの反応で嬉しいわ。皇女様である貴方を呼びつけてしまってごめんなさいね」
「とんでもございません。こちらこそご挨拶が遅れて大変失礼いたしました。ルサルカ・トリトーネと申します」
「ご丁寧にありがとう。レジーネ・カエオレウムよ。堅苦しい挨拶はいいから、中へどうぞ」
何か企んでいるのかと訝しんでしまうくらい、王太后の振る舞いは屈託がなかった。その上、挨拶を兼ねて王太后がしだした自己紹介の内容に目玉が落っこちるくらいに見開いてしまった。
『自己紹介をするわね。一番重要な点から言うと、レジーネ・カエオレウムというのは王太后になってからの名前なの。夫のセッセソス、亡くなった今の陛下のお父上が隠居してから私たちは結婚したので、私と今の陛下や殿下に血のつながりはまっったくないの。だから気楽にしてね。今の陛下のお母上は40年以上も前に亡くなっていて、陛下はずーっと男やもめで国を統治されていたんだけど、引退後に長年の夢だった大陸旅行をされていたそうなの。
その途中で私の生家の領地でいらしていた所で、私たちは出会ったの。一瞬で恋に落ちちゃって、なんやかんやあってこの国に帰る時に私を一緒に連れ帰って来ちゃったもんだから、もう大変だったわ!』
『あの、こんなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが』
『何でも聞いて良くってよ』
『王太后様と前国王陛下ってどれくらい歳の差があったのですか?』
『良いこと聞いてくれますね。40歳違いました。私の方が今の陛下よりも若いのよ』
なんて言ってコロコロと笑われる姿に私はカエオレウム王宮の中で、自室を除いて初めて気を許して一緒に笑ってしまったのだ。
自分から計画していたこともあったし、偶然が味方してくれたこともあった。セールビエンスとの関係は私が動いた結果とすれば、シュケレシュとの縁は完全に運が良かったにすぎない。過去に知ったことを使ってドゥ伯爵夫人と関係性を得たりフルクトスと知り合いになったことと、そこから以前は知らなかったこの国の状況を把握出来てきてもいる。
今の私は確かに、一度目の人生を糧に出来ていると自信を持って言える。
けれど、そうして動いたことで人間関係や周囲の環境が、私だけではなく他の人達も変わって来てしまっているとしたら、私はどうすべきなのかしら。
「ルサルカ、こちらへいらっしゃい」
柔和な微笑みを向けて私を呼ぶこの方はレジーネ・カエオレウム、この国の王太后だ。過去の私はこの方とほとんど接点がなく、パーティ等の際に遠目で見る位の間柄だった。一応、大姑と孫嫁の関係だったのに会話と言う会話をした記憶もない。
そして、会話もしたことがなかったのに、あまり良い印象もなかった。
その王太后と二度目の人生でこうして会話をしてみれば、意外なことに彼女の穏やかさはカエオレウム王家の中で異質なくらいだ。
「はい、王太后様」
「今日はねぇ、バラのお茶を用意したのよ」
「バラの?初めて頂きます」
「でしょう?私の祖国のお茶なの。きっと気に入ってもらえるわ」
「ああ、王太后様っ、私がやりますわ」
「とんでもない!初めて会った1ヶ月前にも言いましたけど、今でこそ王太后なんて言われているけど、私はただの地方貴族の娘なの。皇女の貴方にお茶を入れさせるわけにはいかないわ」
そう言うと、王太后はいそいそと自分で茶葉を茶さじで掬い始めた。
毎度思う。私にやらせないのは、まぁ承諾したけど、わざわざ王太后自らがやらなくともいいのではないかしら。侍女は一体何をしているの。
それにしても王太后の部屋なはずなのに、この空間には不思議な程に侍女がほとんどいない。元々コラーロを王宮に呼び寄せる為に利用しようとした、各国の貴族令嬢を集めた侍女の選考会はこの時期にはもう終わっていたはずだ。
それなのに1人も侍女がいないのはどうしてかしら。
王太后と私以外に誰もいないテラスでそんなことを考えていると、カップとお菓子を王太后が手ずから私の前においてくれるではないか。
まったく、そんなことをされては反応に困ってしまう。
こんな風に王太后はイメージと違う行動をするのを、ドゥ伯爵夫人からの話を聞いた時の私に教えてあげたい。
オケアノスとサラが押し掛けて来た『カメオ事件』の後、ドゥ伯爵夫人はこう言った。
『王太后様が皇女様とお話をされたいと仰っています。お断りすることも出来ますが、いかがでしょうか?』
聞いた瞬間、反射的に断ろうと思った。しかし、ドゥ伯爵夫人は私が断ろうとする言葉に重ねてこう付け足したのだ。
『オケアノス殿下についての話を国王陛下や王妃様に仰るのは難しいでしょうが、王太后様でしたら興味を持って下さると思いますよ』
◆◆◆◆
ドゥ伯爵夫人の言葉に首を傾げながら、招待された時間に、今いるテラスに向かった所、とてもオケアノスの祖母とは思えない程若々しい女性が私を待っていて驚きを隠せなかった。
我ながら失礼なくらい表情に出ていたのだろう。私の表情を見た王太后はおかしそうに笑いながら私を部屋に招き入れてくれた。
「うふふ。期待通りの反応で嬉しいわ。皇女様である貴方を呼びつけてしまってごめんなさいね」
「とんでもございません。こちらこそご挨拶が遅れて大変失礼いたしました。ルサルカ・トリトーネと申します」
「ご丁寧にありがとう。レジーネ・カエオレウムよ。堅苦しい挨拶はいいから、中へどうぞ」
何か企んでいるのかと訝しんでしまうくらい、王太后の振る舞いは屈託がなかった。その上、挨拶を兼ねて王太后がしだした自己紹介の内容に目玉が落っこちるくらいに見開いてしまった。
『自己紹介をするわね。一番重要な点から言うと、レジーネ・カエオレウムというのは王太后になってからの名前なの。夫のセッセソス、亡くなった今の陛下のお父上が隠居してから私たちは結婚したので、私と今の陛下や殿下に血のつながりはまっったくないの。だから気楽にしてね。今の陛下のお母上は40年以上も前に亡くなっていて、陛下はずーっと男やもめで国を統治されていたんだけど、引退後に長年の夢だった大陸旅行をされていたそうなの。
その途中で私の生家の領地でいらしていた所で、私たちは出会ったの。一瞬で恋に落ちちゃって、なんやかんやあってこの国に帰る時に私を一緒に連れ帰って来ちゃったもんだから、もう大変だったわ!』
『あの、こんなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが』
『何でも聞いて良くってよ』
『王太后様と前国王陛下ってどれくらい歳の差があったのですか?』
『良いこと聞いてくれますね。40歳違いました。私の方が今の陛下よりも若いのよ』
なんて言ってコロコロと笑われる姿に私はカエオレウム王宮の中で、自室を除いて初めて気を許して一緒に笑ってしまったのだ。
11
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?
しょくぱん
恋愛
「お前の魔法は石を積むだけの土木作業だ」と婚約破棄されたので、城を支えていた『構造維持結界』をすべて解除して出て行きますね。今さら「城が崩れる!」と泣きつかれても、私は隣国で氷結の皇帝陛下と「世界最高の聖域」を造っていますので、一切知りません。
王国唯一の建築魔導師アニエスは、その地味な見た目と能力を理由に、王太子シグムンドから婚約破棄と国外追放を言い渡される。 彼の隣には、派手な光魔法を使う自称聖女の姿があった。
「お前の代わりなどいくらでもいる。さっさと出て行け!」 「……分かりました。では、城にかけていた『自動修復』『耐震』『空調』の全術式を解約しますね」
アニエスが去った直後、王城は音を立てて傾き、噴水は泥水に変わり、王都のインフラは崩壊した。 一方、アニエスは隣国の荒野で、呪われた皇帝レオンハルトと出会う。彼女が何気なく造った一夜の宿は、呪いを浄化するほどの「聖域」だった。
「君は女神か? どうか私の国を救ってほしい」 「喜んで。ついでに世界一快適な住居も造っていいですか?」
隣国がアニエスの力で黄金の国へと発展する一方、瓦礫の山となった母国からは「戻ってきてくれ」と悲痛な手紙が届く。 だが、アニエスは冷ややかに言い放つ。 「お断りします。契約外ですので、ご自分で支えていればよろしいのでは?」
これは、捨てられた万能建築士が隣国で溺愛され、幸せを掴む物語。 そして、彼女を捨てた者たちが、物理的にも社会的にも「崩壊」し、最後には彼女が架ける橋の『礎石』として永遠に踏まれ続けるまでの、壮絶な因果応報の記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱えて、離縁をつきつけ家を出た。
そこで待っていたのは、
最悪の出来事――
けれど同時に、人生の転機だった。
夫は、愛人と好きに生きればいい。
けれど、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
彼女が選び直す人生と、
辿り着く本当の幸せの行方とは。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる