やり直し皇女は母国に帰りたい

どこどこ

文字の大きさ
53 / 111
知らない時間

52:妙なしきたり

しおりを挟む
「ルサルカはもうこの国に慣れた?」
王太后は飲んでいたカップを唇から離してそう言った。
この一言だけでも、目の前の王太后はとことんカエオレウム社交界に適さない人だと分かる。
過去でのカエオレウムの生活は、笑顔の裏で舌を出している人間との攻防だった。企みや策略、陰謀が渦巻いている宮中での私の立場なんてないも同然。明確な蔑みはなかったけど、刺のある言い回しにキズだらけにされた。全ての言葉には裏があり、私を攻撃する為に投げかけられる物だった。
それなのに、目の前にいる王太后は純粋に私を気遣ってくれている。

「いいえ。まったく」
「そうよねぇ。私も10年以上いるのに慣れないのよ~。この国は本当にかたっくるしいったらないわ!」
「分かります。髪型一つとっても制約が細か過ぎますよね」
「私なんて未亡人だから、アップにする髪型もこの黒いレースで覆う形しかダメなのよ」
「そこまで細かいんですか」
指差される髪型は、確かにいつも同じだ。その髪型が好みなのかと思っていたけど、これも決まりなのね…。
「私の家は地方貴族だったし、両親ものびのび育ててくれていたから他国のマナーがこれほど面倒とは思わなかった!出来れば祖国、実家に戻りたいのだけど…そうもいかないしね」
「戻れない?それは、ご実家側の問題でしょうか?」
「違うのよ。この国カエオレウムのしきたりらしいんだけど、『夫を失くした妃は、夫のお墓の近くにいなきゃならない』らしいのよ。陛下あの人が亡くなる時に『もう祖国へ戻りなさい』って朦朧としながら言ったのはそのせいか~って、葬儀の後に知って呆然としたわ」
「先に言っておいて欲しいですね」
「でしょう?!だから、ルサルカも気をつけなさいよ!私だって、帰れるのなら宮中こんな恐ろしい場所さっさと逃げ出すわ。まぁ、自分がこの運命を選んだのだから仕方がないけどね」

憂いを帯びた視線で窓の方を向いた王太后の様子から、その苦労が伺える。
過去の私と同じように外国から嫁いできている身であれば、宮中の雰囲気は冷たいでしょうし、それに地方貴族となれば、私以上に周囲の態度が悪かったかもしれない。とはいえ、王太后という立場があるだけ過去の私より守られてはいそうだけども…。
過去での私が王太后ほとんど接点がなかったのは、そんな宮中に嫌気がさしていた王太后がこの自分の宮に籠っていたからなのかもしれない。
でも何故今回は、あえて向こうから接触して来たのだろう?

「王太后様」
「なぁに?」
「どうして私をお茶に誘って下さったんですか?」

裏表のない王太后この人に、単刀直入に質問を投げかけると少し視線を上にして考えるような仕草を見せてから、無言で自席から立ち上がった。そしてゆっくりと私の方へ歩いてくると隣の椅子に座り声を低くして、言った。

「初めは私と同じ境遇の子が来たと思って興味を持ったの。でも違ったわ」
「違った?」
「ええ。私は、フルクトスのことを知っても何も出来なかったから」
「!?」

王太后はフルクトスのことを知っている。そして、今の言葉は私が彼と接点があることを知っているという意味ではないだろうか。裏がないなんて思っていた矢先になんてこと。
話し方や雰囲気だけで単純に信じてしまったなんて、ばかみたい。
どうしたらいい。
王太后に会ったのは今日を含め3回だけど、その中でなにかボロが出るような、計画に関わる話をしたことはなかったはずだ。大きなミスはない。けれど、フルクトスと接点があることを知っているのであれば、当然アケロンと一緒に行っていることも耳にしているに違いない。
私がアケロンと何をしようとしているのかは、フルクトスの状況を把握出来ていれば簡単に予想がついてしまうだろう。

そもそもフルクトスという存在自体、この国ではタブーであるとエッセ侯爵から教えてもらった。国内の貴族ですら存在を知らされていない人間を他国からきた私が知っているのは普通に考えれば有り得ない話だし、出所や接触している理由を聞かれたらどう答えれば良いのか分からない。

言葉を発せなくなっている私を、王太后はバラのお茶を進めてくれた時と同じように穏やかな笑みで見つめていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...