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知らない時間

62:早合点とお詫び

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驚愕の顔って言うのは正にこう言うのをいうのね。私がいないと思っていたのに帰って来てしまったから驚いているのかしら?でもいない間に部屋に来ているなんて…見損なったわ。

「あらっ?!嘘!フルクトス様、まさか本当に私の部屋に来てしまわれたんですか?」
「…そんなこと私がすると皇女様に思われていたとは心外です」
「ですが、こうしてここにいらっしゃるんですもの」
「皇女様、落ち着いて、一度深呼吸をなさってください」
なにその言い草は?
深呼吸すべきはフルクトスの方じゃないの?
まったく、最近フルクトスと打ち解けて来たとは思うけどこれは行き過ぎかもしれないわね。ちょっとキツくーーあら…?キツく…
「私の部屋の窓に格子なんていつの間にかかったのかしら…」
「窓だけじゃありませんよ?後ろでも足下でも結構です、是非ご確認を」
足下…は、絨毯ではなくむき出しの床になってるわ。それに天井には雨漏りのようなシミもある…。このシミに見覚えはあるのよ。ちなみに後ろは…ああ、格子のついている頑丈な鉄の扉、これも過去の最期の数ヶ月間毎日見ていたわね。開けてもらえたのは処刑場に行く日だけだったわ。
つまりここは…
「ごめんなさい。ここはフルクトス様あなたのお部屋でしたわ」
「誤解が解けたようで安堵しました」

私の言葉にフルクトスは怒るのではなく、言葉通りにほっとしたように肩を撫で下ろしている。突然やって来た侵入者に、逆に無礼にも住居侵入と非難されたのだから、少なくとも正式な謝罪を求めても良いはずなのに。

「本当に失礼いたしました。てっきり自分の部屋に飛ばされたのだと思ってしまって…早合点でフルクトス様を非難するなんてとんでもない失礼をしてしまいました」
「気にしないで下さい。あれでしょう?アケロン先生にやられたんでしょう?あの方は本当に悪戯好きですからね」
「いえいえ、勝手に入り込んだだけではいざ知らず、反対にあなたに文句をいうなんて最低だわ」

本当に顔から火がでそう。自分の間違いにも気がつかず、先に相手を詰るなんてオケアノスのことを悪く言えないわ。オケアノスが指摘するように私は人を見下しているからこんな考えになってしまうのかもしれない。過去でも気がつかないうちにこう言ったことを回りにしていたんではないかしら。

「目隠しの状態でご自分のお部屋に連れて行くと言われて、別の場所に連れてかれてしまえば誰だってああなりますよ。それに明確には私を非難されていませんよ。そんなにご自分を責めないでください」
「ですが…。わかりました。では、是非お詫びをさせてください」
「お詫びーーですか?」
「ええ。私が出来る範囲、といっても私自身にはあまり力はないのでアケロンや他の周囲の皆にお願いすることになるかもしれませんが、ご協力出来る範囲でフルクトス様のご要望を叶えますわ!」

ここから出たいと言ってくれれば、王太后様との話も解決出来るかもしれないわね。

「願い事…思いつきませんね」
「なにもないのですか?」
「ええ。以前は外のことを知りたいと思っていたのですが、それは皇女様が叶えて下さいましたし、衣食住はセルブスとナッリが用意してくれますし」
「衣食住が完璧に整っているとは…」
「充分ですよ。これ以上豪華な物は不要です」

欲のない人。
でもお父様もそうだったわね。皇帝なのに地味な服ばかり来ているし、食事も数種類で1日2回しかとられない。自身の為には何も求めない方だわ。子供の頃からそんなお父様を見ていたから、皇帝が凄いと言うのが中々理解できなかったっけ。

「そうですか…。ではなにか思いついたら…あ!」
「どうしましたか?」
「失礼だったら申し訳ないですが、私は1つ思いつきましたわ」
「どんなことですか?」
「気を悪くされないで下さいね。ーーその仮面を取ると言うのはいかがでしょうか?」
「仮面…?ああ、これですか。馴染みすぎて忘れていました」
「そんなに重そうなのに忘れることなんてあるんですか」
「物心ついたときからつけているので。確かにこれが取れるのでしたら嬉しいですね」
「じゃあその仮面を取りましょう!ちょっと触ってもよろしいですか?」
「どうぞ」

そう言って私が近寄ると、フルクトスは私の目線に合うように腰を屈めてくれた。仮面は鉄のような金属で出来ており、元々は前後で分かれていたのを溶接するように繋いでいるのだと分かった。そして更に口の部分から後ろに大きな鍵のような物で離れないように閉じられている。

「随分と厳重な仮面なんですね」
「自分では見えないので分からないのですが、そうなんですね。そう言えば、着けてからは一度も外れたことがないとナッリから聞いたことがあります」
「赤ちゃんの頃からですか!?」
「ええ」

仮面はフルクトスの成長に合わせて大きさが変わっているってことかしら。そうなると、これも魔法がーーいいえ、きっと呪いがかかっているんじゃないのかしら。
呪いだとしたら私よりもアケロンに頼んだ方が良さそうだけども、最初にフルクトスに会った時にこの仮面を見て酷く怒っていたから取れるのであれば既に取っていそうよね。とってないということは何か理由があるって考えた方が良さそう。

「フルクトス様、ちなみにこんなに厳重な仮面で生活に不自由はないのですか?」
「どうでしょう?視界が狭いのは困りますね。半分くらいは仮面の内側が見えています。あとは、皇女様達と会話をする機会が増えて知ったのですが、こうして会話をしていると仮面の中で声が反響して耳に響きますね」
「大問題ですね。わかりました!ではお詫びとして仮面を取る方法を探します!」
「…あまり無理はなさらない程度にお願いします」

仮面の中でフルクトスが苦笑いをしたような気がした。なんだか最近色んな方に無茶をしるという指摘を受けている気がするわ。過去そんなことを言われたことは一度だってないのに。

「無理はしません!手始めに私の優秀な侍女達に相談をして来ます。分かりましたらまた伺います」
「えっ?!」
「何をそんなに驚かれているのです?」
「『分かりましたら』といま皇女様がおっしゃったので、分かるまでいらっしゃってくださらないということですか?」
ふむ。確かに音沙汰が亡くなるのは不安よね。誤摩化されるんじゃないかと疑っているのね?
大丈夫よフルクトス。ペルラ皇女たるもの約束は守ります!
「ご心配なさらないで。きちんと中間報告もいたしますから!では善は急げですし、早速情報収集をして参ります」

さあ早く戻らなきゃ。アケロンが間違えて送ったのがフルクトスの部屋で良かった。ここなら扉があるもの。私はお揃いのホールクロックの扉を開け小走りで自分の部屋に向かっていった。
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