やり直し皇女は母国に帰りたい

どこどこ

文字の大きさ
64 / 111
知らない時間

63:読めない本

しおりを挟む
アケロンが作ってくれた扉は本当に便利だわ。すぐに色んな場所へ行けますもの。
今だって5分で宮殿の私の部屋へ戻って来れた。欲を言えばペルラに繋げていただきたいけども…

「ですが皇女様、ペルラに繋がったらカエオレウムこの国に戻っていらっしゃる気があるのですか?」
「…ないわね」
私の独り言へのアガタの指摘に力強く頷く。
「でも勝手に国に戻ったら、それこそ攻め込まれてしまうでしょうから嫌々戻ってくると思うわ」
「ペルラの海が、お婆様達が言っていたように荒れ狂っていた時代ならまだ良かったかもしれませんね」
「ーーその手があるわね。お父様の三又槍で出来ないものかしら」
「どうでしょうね?」

首を傾げているアガタは私に本を手渡してくれた。表紙のカエオレウム語でもペルラ語でもない言葉で書かれているこれがタイトルかしら。
「皇女様が仰っているような記述の本はこちらになるかと」
「これだけ広い書斎なのに3冊しかないのね。ペルラに戻った方が見つかるかしら?」
「ど~でしょうねぇ?私も、アガタも実家の書斎では目にしたこともないです」
「コラーロがそう言うのなら、絶対にペルラには1冊もないわね」
魔法や呪術関係の本で2人の実家にないのであれば、それ以外あるとすればアケロンか魔女の所しかない。アケロンに聞くべきかもしれないけど、今は毒の方に集中して貰いたいし…。私のお詫びなのだから自分で手を動かさなきゃ意味がない気もするし…
でも大きな問題があるのよね。この言語、全く読めないわ。中身どころかタイトルすら分からないんじゃどうしようもない。アガタが見つけてくれたってことは、アガタとコラーロは読めるってことよね。出来が良すぎる侍女で嬉しいやら悔しいやら。

「アガタとコラーロはこの本が読めるの?」
「おおよそは…しかし、この一番分厚い本については私どもでは分からない言葉が多用されています」
そうアガタが指差したのは、古めかしい革張りの本であった。
「私とアガタは現代の主要な言葉を読めるように魔力を使っておりますが、読めないと言うことは古語だと思いますわ。それもカエオレウムの古語です」
「ふむ…アケロン以外で読める人を捜したいわね」
本好きと言えば、ああ、セールビエンスに聞いてみましょうか。ちょうど良いわ、セールビエンスに会いに行きましょう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆

そんな流れでセールビエンスに訪問のお願いをした所、快諾していただけた。しかもトゥットに手紙を持って行って貰ったら、その場で『明日でも構わない』との返事までくれるなんて、セールビエンスはとても優しい人だと思う。

「それじゃあ、たまには正式に外出しましょうかしら」
「私めと、コラーロ、トゥット、誰がご一緒いたしましょうか?」
「そうねぇ…ではアガタ、久しぶりの外出に付き合って貰えるかしら?」
「かしこまりました」

あえて外出をすることにしたのには訳がある。
謹慎をし出して大分経っていることもあり、世間では私に対する噂やそれこそサラとの不仲説がかなり浮上しているらしい。
ーー正しく言えば、不仲説ではなく私がサラを一方的に避けており、という存在にぞんざいに扱われる悲劇のテンペスタス子爵令嬢といった見方があると、王太后が教えてくれた。別に不仲でも私が避けているのでもただの噂だし、関わるよりも無害と思っていたのだけどそうとはいかないみたい。
関心の高い人物同士の不仲というのは、暇な上流階級にはなによりも美味しいごちそうなのだそうだ。
とりあえず避けていないですという素振りを見せることが大事というアドバイスを元に、サラがいるであろう時間帯にあえて廊下を歩くことにした。

すると予想通り、鍛錬をしている騎士達に微笑みを返したりしているサラと遭遇することが出来た。
外廊下だったので使用人やら官使やらがそれなりににぎやかにしていたはずなのに、私たちが顔を合わせた途端、辺りが妙に静まり返った。盗み見る程度にはマナーを持っているらしいわね。


「まぁぁルサルカ様!!お久しぶりです。お加減はもうよろしいのですか?」
「はい。随分よくなりましたわ。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません」
「色々ございましたものね。先日の救民祭に向けた貴族令嬢の集まりにも来ていただけませんでしたし、心配しておりましたのよ」

救民祭の令嬢の集まり・・・?『来てない』とサラが言った途端、斜め前にいらっしゃる年配の女性が眉を顰めているわ。確かに、救民祭は令嬢達が真心を込めたバザーをするしきたりですもんね。
でも言い訳をさせてもらうと、そもそもお誘いも受けていないのですけどもねぇ。
考える必要もなく、恐らく参加者には『お声掛けしたのに無視されました』と悲しげなお顔で伝えて下さったのでしょう。
…まぁ、いいか。
集まりには体調が悪いくて遠慮したとして、救民祭そのものはまだ開催してないし。私は私で何か用意させていただくわ。

「…サラ様のお気遣いを無下にしてしまって大変失礼をしてしまいました。お許しくださいね」
「いいえいいえ。皆さんにはルサルカ様の状況をお伝えしましたので大丈夫です。私でよろしければまたお話を聞きますわ!それに私のお友達もルサルカ様とお話ししたいと言っておりますのよ?是非、この国の同世代と交流を深めてくださいね」
「ええ、機会があれば(そんな機会は全力で作らないようにいたしますけど)」
これで会話を終わりにする印として、にっこりと微笑み合うと、サラはアガタが持っている本に気がついたようだった。

「ーーあら、ルサルカ様は古語が読めますの?」
「お恥ずかしい。まだ勉強中なのです」
「差し出がましいですが、古語で書かれた本は禁書であることが多いですからあまりお手に取らない方が良いですよ」
「そうだったのですか?!しかし、この本は陛下が用意して下さった書斎にあった物ですし…」
「紛れ込んでしまったのかもしれませんねぇ。お部屋に戻って隠した方がよろしいですよ!幸い私しか見ておりませんから」
それは一番怖いわね。
酷く晴れている昼間なのに、サラの笑顔に影が見えるのは気のせいかしら。
「ご忠告ありがとうございます。ではそのようにいたしますので、急いで部屋に戻りますわ。それでは失礼いたします」

サラの忠告を受け入れ本を隠しに行くと言うと、サラは満足げに頷き、そして周囲の何人かは『身分に臆さずに発言が出来るサラ様』を誉め称えていた。
私は忠告をしてくれたサラにことさら大げさに礼を言い、そのまま会話を終了させる良い口実として本を部屋に戻すフリをして用意していた馬車に乗り込んだのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...