やり直し皇女は母国に帰りたい

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やり直す時間

90:聖女の裏側

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医務局に戻って来たドクトリスからの伝言を聞いたサラは信じられないと目を見開いた。

「何故なのです!?」
「皇女の説明だけでは不平等だと、宰相は令嬢にも発言の場をくださるだけと思います」
「発言の場など、私も殿下も毒を飲まされたのですよ?それが真実です、ね、オケアノス様」
「そうだ。サラがすぐに気がついてくれたお陰で大事なくすんだのだ。皇女の部屋で飲まされたのだから、現行犯であろう?」
「さすがオケアノス様、冷静なご判断。すてきです」
「サラの知識と冷静な対応があってこそだ。私たちはやはり良きパートナーになれるな」

見つめあい、2人で微笑みあう様子を目の当たりにしたドクトリスは鳥肌が立つのを治めるように両腕を撫でながら、部屋にいたもう1人のまともな人物に小声で尋ねる。
「あのお2人はいつもああなのですか?」
「ええ、私の知る限りでは」
と、答えたのはうっかり廊下でサラと出会ってしまったドゥ伯爵夫人であった。
一般常識と礼節があるドゥ伯爵夫人は、毒だと半狂乱になって騒ぎ立てるサラを無視できず、医務局まで連れて来たのである。しかし、今ではその判断が間違っていたと思わずにはいられなかった。

「ドクトリス、先ほども聞きましたけども毒の症状は出ていないのですよね?」
「ええ。私の診た限り、お2人は至って健康そのものです。それに先ほどお会いしました皇女様も問題ないように見受けました」
「3人は同じポットのお茶を飲まれたのよね?そうすると2人にだけ毒を飲ませるとしたらカップに塗っておくくらいしかできませんわよね…」
「その線については、エッセ侯爵の方で調べられているようですよ。ーーそれにしても、あちらのお2人はもう帰っていただいても良いのですが、ドゥ伯爵夫人、おふたりを謁見の間へ連れて行って下さいませんか?」
「私がですか?ーーお断り、と言いたいですけどあなたにも仕事がありますものね…」

深いため息をついて、ドゥ伯爵夫人は未だ見つめあっている2人に近寄り、そっとサラの肩を叩いた。
「テンペスタス子爵令嬢、あなたのお父様も謁見の間に来ているようですし、容態が悪くないことをお伝えした方が良いですよ。それに…」
「まぁ!ドゥ伯爵夫人はこの状態の私に歩けと仰るのですか?立ち上がるだけで目眩がしそうなのに…」
「ですが、元気なお顔を国王陛下やお父上にご覧頂けば、お2人とも安心すると思います。それに控えの間にはエッセ侯爵もいらしているようです」

言い淀むドゥ伯爵にサラが首を傾げていると、オケアノスが代わりに聞き返す。
「宰相が?」
「はい。もしオケアノス殿下は動けるようでしたら、まずは殿下だけでもご容態を報告いただけませんか?」
「う、うむ。そうだな。陛下に宰相が待っているのであればいかねばならないな。サラ、まずは私が皇女が行った悪事を報告して来る。ゆっくり休みなさい。ドクトリス、そなたは私と一緒にこい」
「オケアノス様!お優しい…私も少し休んだらすぐに参りますわ」
サラは大げさに涙ぐみながら、部屋を後にするオケアノスに手を振ると、力つきたようにベッドに横になった。ドクトリスはとても嫌そうな顔をしながら、ドゥ伯爵にサラを診ていて欲しいと頼むと、重い足取りで出て行った。
残されたドゥ伯爵夫人は部屋に自分とサラしかいないことを確認してから、サラに真横に座ると声を落として言った。

「子爵令嬢、1つ懸念されている点があるそうです」
「少し休んでからにしてくださらない?」
「急いだ方がよろしいかと…『何故子爵令嬢はリビュア茶の壷の色が緑というだけで毒と言ったのか』と不思議がられております。私も同意見です」
「…最近の令嬢達での噂ですわ」
「そもそも、緑のリビュア茶壷なんてものがこの世にあるなんて私も存じませんでしたーー夫に話をきくまで」
「ほら、ドゥ伯爵も御存知なのでしょう?有名ですわよ」
「いいえ、夫も『裏で出回っているらしい』と言う情報しか耳にしていないのです。それが令嬢達の噂になるなど有り得ません。子爵令嬢、事と次第によっては皇女様ではなくあなたが糾弾される問題になります」

射抜くような視線で自分を見つめて来るドゥ伯爵夫人に対して、サラは逆に伯爵夫人の方を慮るような顔を浮かべ、伯爵夫人の右頬に手を添えた。
「でも…私、謁見の間で国王陛下や宰相様に囲まれたら、うっかり言ってはならないことをバラしてしまいそうです。お友達の秘密を白状するなんて…私のせいでスブリ様が捕まってしまうなんて可哀想ですもの」
「やはり、スブリが関係しているのですか!?」
「…スブリ様から教えていただいたのですよ。緑の壷は毒で危険と。リークエ伯爵は国防に近いことをしていらっしゃるから、お耳が早いのでしょう」

慈愛に満ちているかの如き柔和な微笑みを浮かべながら、サラは震えるドゥ伯爵夫人の手に掌を重ねた。そして伯爵夫人の耳に囁くのだった。


「伯爵夫人の可愛がっている姪御さんが捕らえられるなんて、私想像しただけで涙が出てしまいそうです」
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