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やり直す時間
91:マナー教師の入場
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双方の話を聞く、エッセ侯爵の提案は私からすれば願ってもないことだ。
私がいくら「してない、知らない」と主張しようが過去と同じように、テンペスタス子爵は信じないでしょうし、サラも自分の考えを曲げないでしょうから、時系列での状況と医師からの意見で話をするのが一番真っ当に思える。過去でもエッセ侯爵が居てくれれば、私は処刑を免れたかもしれない。
ドクトリスと共に謁見の間に入って来たオケアノスは、私の姿を見るや険しい表情で睨みつけてくる。だけど、昔ならいざ知らず今の私には何の効果もない。むしろそんな彼の間抜けな行動を哀れに感じながら、カーテシーだけしてみせた。
「君は私とサラが歩み寄って来たにも関わらず、その手をはたき落とすのだな」
忌々しげに吐き捨てられた言葉に私が反応するよりも早く、エッセ侯爵の声がした。
「殿下まずは陛下への報告が先では?」
「うるさい!宰相が王太子である私に意見をするのか?」
「王太子であっても礼は必要かと。それに今回の件、殿下のご意志はございますか?王太子であるからこそ、ご自身で判断せず人の意見を受け入れている今のご状況はいかがなのでしょうか」
「自身の判断…?」
エッセ侯爵の指摘にオケアノスは心底意味が分からないと、ドクトリスの方をみるも、ドクトリスは目を閉じたままため息を付き、二三回首を横に振ってみせている。その仕草は見事にオケアノスの癪に障ったようでオケアノスは再び声を荒げた。
「なんだ、貴様は!先ほどから私に対してそのような態度を取って良いと思っているのか?それにサラにもだ!あんなにも不安げにしている彼女にお前は何の処置もしない」
けれどもドクトリスも負けてはいなかった。
眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら、煩わしそうに口を動かし始める。
「陛下に申し上げます。私、ドクトリスは殿下およびテンペスタス子爵令嬢に対して毒の傾向が見られないことを明言いたします」
「なっ!?貴様何を言うのだ?」
「殿下、私は医務局にいらっしゃった際から再三お伝えいたしました。お2人とも毒の症状は一切ないと。しかしながら、テンペスタス子爵令嬢は金切り声を上げて『毒を飲んだ』と言って聞いてくれず、殿下も『令嬢が言うのだから確かだ』と仰る」
「だがしかし…」
「しかし、なんでしょう?今の御気分はどうですか?悪寒がしますか?喉に痛みがありますか?震えは?目眩や耳鳴りは?」
「先ほど貴様がくれた薬を飲んでからない」
「あれはただの水です」
「なっ!?」
ドクトリス…この人は今回の人生で初めて会ったけど、オケアノスに対しても服従しているわけではないようね。それにしても水と薬の違いも分からないってオケアノスは大丈夫かしら。毒よりもそっちが心配になるわ。
陛下とエッセ侯爵も私と同じ気持ちらしく、不安そうにオケアノスの方を見ているし、毒がないと結論を出してもらうのに時間はかからなさそうね。
さて、オケアノスはどう答えるのかしらねぇ。
「み、水だと?だから私は今も指先に痛みがあるのだな!」
「はぁ、先ほど『ない』と仰ったではないですか」
「いや、あったのだ。治療を施したお前に咎があっては不憫だと黙っていたーー」
「オケアノス!!」
見苦しい言い訳を並べ立てるオケアノスにとうとう国王が声を張り上げた。
「へっ陛下」
「先ほどから黙って聞いていれば、お前はなんなのだ!自分の体調も把握しとらんのか!」
「いえ、ですから、喉が焼けるように熱く…」
「殿下、先ほどは『指先に痺れ』と」
「そうだ、宰相の言う通り痺れがあるのだ」
「はぁ~っ、こんな馬鹿げた主張に付き合っていられません。陛下、宰相殿、私はもうよろしいでしょうか」
エッセ侯爵の引っかけにまんまとかかったオケアノスにドクトリスは盛大にため息を付き、恭しく頭を下げれば国王はそれに頷いた。
「ああ、すまなかったな。別途埋め合わせをしよう」
「お気遣いなく。それでは失礼いたします」
国王から了承を得たドクトリスはそのままオケアノスの方を一瞥もせず、扉の方へ真っすぐ歩き始めていた。そのまま私の前を通り過ぎる時に、他の誰にも見えないように私に対してウインクをしてみせた。
そのウインクで、私は目の前の医師が本人でないと察する。
おそらくあれは…
「おや、ドゥ伯爵夫人。ーー令嬢はご一緒ではないのですか?」
扉から出ようとしたところで、ドクトリスは驚いたように声を上げた。
「ええ…まだ体調が芳しくない用です。陛下、宰相様、恐れながら代理としてドゥ伯爵が妻、ジェーン・ドゥがご報告に参りました」
ドゥ伯爵夫人は、ため息が出るような所作でお辞儀をすると、優雅に謁見の間の中央へ向かって来る。その顔色には血の気がなく、そして私の方を一切見てこない。
私はその姿を見ながら、妙に胸騒ぎがして仕方がなかった。
私がいくら「してない、知らない」と主張しようが過去と同じように、テンペスタス子爵は信じないでしょうし、サラも自分の考えを曲げないでしょうから、時系列での状況と医師からの意見で話をするのが一番真っ当に思える。過去でもエッセ侯爵が居てくれれば、私は処刑を免れたかもしれない。
ドクトリスと共に謁見の間に入って来たオケアノスは、私の姿を見るや険しい表情で睨みつけてくる。だけど、昔ならいざ知らず今の私には何の効果もない。むしろそんな彼の間抜けな行動を哀れに感じながら、カーテシーだけしてみせた。
「君は私とサラが歩み寄って来たにも関わらず、その手をはたき落とすのだな」
忌々しげに吐き捨てられた言葉に私が反応するよりも早く、エッセ侯爵の声がした。
「殿下まずは陛下への報告が先では?」
「うるさい!宰相が王太子である私に意見をするのか?」
「王太子であっても礼は必要かと。それに今回の件、殿下のご意志はございますか?王太子であるからこそ、ご自身で判断せず人の意見を受け入れている今のご状況はいかがなのでしょうか」
「自身の判断…?」
エッセ侯爵の指摘にオケアノスは心底意味が分からないと、ドクトリスの方をみるも、ドクトリスは目を閉じたままため息を付き、二三回首を横に振ってみせている。その仕草は見事にオケアノスの癪に障ったようでオケアノスは再び声を荒げた。
「なんだ、貴様は!先ほどから私に対してそのような態度を取って良いと思っているのか?それにサラにもだ!あんなにも不安げにしている彼女にお前は何の処置もしない」
けれどもドクトリスも負けてはいなかった。
眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら、煩わしそうに口を動かし始める。
「陛下に申し上げます。私、ドクトリスは殿下およびテンペスタス子爵令嬢に対して毒の傾向が見られないことを明言いたします」
「なっ!?貴様何を言うのだ?」
「殿下、私は医務局にいらっしゃった際から再三お伝えいたしました。お2人とも毒の症状は一切ないと。しかしながら、テンペスタス子爵令嬢は金切り声を上げて『毒を飲んだ』と言って聞いてくれず、殿下も『令嬢が言うのだから確かだ』と仰る」
「だがしかし…」
「しかし、なんでしょう?今の御気分はどうですか?悪寒がしますか?喉に痛みがありますか?震えは?目眩や耳鳴りは?」
「先ほど貴様がくれた薬を飲んでからない」
「あれはただの水です」
「なっ!?」
ドクトリス…この人は今回の人生で初めて会ったけど、オケアノスに対しても服従しているわけではないようね。それにしても水と薬の違いも分からないってオケアノスは大丈夫かしら。毒よりもそっちが心配になるわ。
陛下とエッセ侯爵も私と同じ気持ちらしく、不安そうにオケアノスの方を見ているし、毒がないと結論を出してもらうのに時間はかからなさそうね。
さて、オケアノスはどう答えるのかしらねぇ。
「み、水だと?だから私は今も指先に痛みがあるのだな!」
「はぁ、先ほど『ない』と仰ったではないですか」
「いや、あったのだ。治療を施したお前に咎があっては不憫だと黙っていたーー」
「オケアノス!!」
見苦しい言い訳を並べ立てるオケアノスにとうとう国王が声を張り上げた。
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「先ほどから黙って聞いていれば、お前はなんなのだ!自分の体調も把握しとらんのか!」
「いえ、ですから、喉が焼けるように熱く…」
「殿下、先ほどは『指先に痺れ』と」
「そうだ、宰相の言う通り痺れがあるのだ」
「はぁ~っ、こんな馬鹿げた主張に付き合っていられません。陛下、宰相殿、私はもうよろしいでしょうか」
エッセ侯爵の引っかけにまんまとかかったオケアノスにドクトリスは盛大にため息を付き、恭しく頭を下げれば国王はそれに頷いた。
「ああ、すまなかったな。別途埋め合わせをしよう」
「お気遣いなく。それでは失礼いたします」
国王から了承を得たドクトリスはそのままオケアノスの方を一瞥もせず、扉の方へ真っすぐ歩き始めていた。そのまま私の前を通り過ぎる時に、他の誰にも見えないように私に対してウインクをしてみせた。
そのウインクで、私は目の前の医師が本人でないと察する。
おそらくあれは…
「おや、ドゥ伯爵夫人。ーー令嬢はご一緒ではないのですか?」
扉から出ようとしたところで、ドクトリスは驚いたように声を上げた。
「ええ…まだ体調が芳しくない用です。陛下、宰相様、恐れながら代理としてドゥ伯爵が妻、ジェーン・ドゥがご報告に参りました」
ドゥ伯爵夫人は、ため息が出るような所作でお辞儀をすると、優雅に謁見の間の中央へ向かって来る。その顔色には血の気がなく、そして私の方を一切見てこない。
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