やり直し皇女は母国に帰りたい

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やり直す時間

93:2つの家族

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「お父様、私、酔ってしまいましたわ」
「もう少しで家に戻るから我慢するんだ」
「何故急に家に帰るなんて…せめてオケアノス様にご挨拶をしてから出れば、いつも私が乗せていただいている馬車をご用意いただけたでしょうに」
「そうも言っていられない。ーー忌々しい雨だ、この馬車では泥濘んでぬかるんで速く走れもしない」

テンペスタス子爵は外の土砂降りに舌打ちをすると、窓に映る娘の姿に目をやった。確かに、あの気に喰わない医師が言う通り、毒を飲んだとは思えなかった。

「サラよ、私はお前を叱らなくてはならない」
「どうしてです?私は言われた通りにしましたわ」
「……騒ぐのが早過ぎだ。それに、毒をきちんと飲んでいないではないか」

手で顎に触れながらテンペスタス子爵は娘に機嫌の悪さをこれ見よがしにアピールすると、向かいに座っているサラは声を張り上げる。

「私は確かに飲みましたわ!それにオケアノス殿下も。本当に怖かったですが、お父様が『緑の壷を出されたら飲みなさい。そうすればお前は王妃になれる』と仰ったから我慢して飲みましたのに…っ!あれ以上飲めば命の危険だってあるはずです!今だって動悸がしていますわ」
「しかし、医師の判断がないことで我々が逆に怪しまれる結果になった」
「あのお医者様は酷い方です。きっと、ルサルカ様が裏で手を回したに違いありません。私が子爵令嬢だからこんな事をするのです…。でも安心して下さいな、私はやはり日頃の行いが良いのです!」

難しい顔をしている父親を慰めるようにサラは落ち着いた表情で父親の膝に手を置いた。
「行いが良い?」
「だって、あのタイミングでドゥ伯爵夫人にお会い出来たんですもの。お父様が仰った通り、私は今回の件はリークエ伯爵令嬢に動いて頂きましたわ。それを遠回しに伝えましたらすぐにご理解くださって、今も私の代わりに国王陛下と宰相様に私がどれだけ具合が悪いか、緑の壷という毒が最近存在しているかを説明して下さっているはずでしょう」
「なるほど。リークエ嬢はドゥ伯爵夫人の娘も同然だからな…。それに美味い具合にリビュア人の関係性もだせたはずだしな」

テンペスタス伯爵はそう言って、緑の壷の製造元であるカリドゥスと毒が結びつく危険性を考える。いくら裏で作っているとはいえ、王家と宰相が綿密に調べ始めれば足がつく可能性は大いにある。しかし、タイミングが良い事にカリドゥスのメイン店舗の1つがシュケレシュに買収された。
初めははらわたが煮えくり返ったが、むしろそれを利用して、毒のすべてをシュケレシュあいつらになすり付ければ良い。
そうすれば、自分もカリドゥス子爵も利益だけ手に入れられる。
皇女を迎えに行くときの裏切りや、その後も商売上でも競合し煮え湯を飲まされていたお返しが出来ると言うものだ。

テンペスタス子爵親子が彼らの家に到着すると、すぐに子爵は外に出て娘に手を差し伸べた。


◆◆◆◆◆◆

一方、精神的に疲れて邸宅に戻ったエッセ侯爵は、サロンの前を通り過ぎると娘達の楽しげな声を耳にしていた。部屋にこもりがちだった娘は、最近子供の頃のように明るくなった。そんな姿を見ると疲れた気持ちなぞどこかへ吹き飛んでいく。
嫌がられようがその笑っている姿や、使用人や友人達と楽しそうにしているのを一目みたいと、いつものようにこっそりと部屋に入る事にした。

「おじさま、お帰りなさい。お邪魔しております」
「またお父様ったら!」
「やぁクイエテ、久しぶりだね。元気かい?」
「久しぶりって3日前にもお会いしましたでしょうに…お父様もお茶を飲まれますか?」
「お茶…」

エッセ侯爵はテーブルに広げられているカップやケーキを眺めて、可愛い娘をここまで元気にしてくれた恩人である皇女がお茶のせいで窮地に立たされそうだとこの場で言うべきか考える。本来であれば仕事の話を家ですることなど有り得ないが、何せ皇女に関係する事。黙っていれば娘は当分、自分と口をきいてくれなくなるだろう。
まだ決まった訳ではないが、状況をそれとなく教えておくべきかもしれないと思いながら、エッセ侯爵はテーブルについた。

「おじさま、随分お疲れみたいね。ーー今日のお茶は今流行っているお茶でとっても美味しいですよ!」
「ああ、クイエテありがとう。?」

どこかで聞いたようなフレーズにエッセ侯爵は聞き返す。
「お父様が流行に反応するなんて珍しいですね。ええ、最近流行ってるのですが『緑の壷』がトレードマークなんです」
「緑の壷!?セールビエンス、クイエテ、いけない!それは毒ではないのか?」
思わず立ち上がって声を荒げると、娘と従姉妹は顔を見合わせて吹き出していた。
「な、どうしたんだい?なにかそんなにおかしいのか?」
「いえ、お父様が流行を知ろうとされるのは嬉しいですが、言葉が曲がって伝わっているようです」
「曲がっている?」
「確かに、女性の中ではこの緑の壷のお茶を『毒』と言われています」
「それならのんではいけないだろう!捨てなさい!!」
「違いますよ、侯爵様。毒って言うのは、このお茶、凄ーく甘いのです。クリームや蜂蜜、チョコレートが混ぜてあって、沢山飲むとカロリーがとんでもないの!!」

クイエテの説明にセールビエンスはコロコロ笑いながら、自分の洋服を横に広げて付け加えた。

「そうなのです。ですから沢山飲みますと、私はきっと以前の私になってしまいます。だから女性からしたら『毒』って言われているのです」

娘達に笑われた侯爵は恥ずかしそうにハンカチで顔を拭いて、気を取り直す。そして置かれたカップから中の液体を飲むと、教えられた通り、その甘さに目眩を感じる程だった。
慣れない甘みに驚きながらも、平然を装ってこう尋ねた。

「なるほど…。それで、このお茶はどこで手に入れたんだい?」
「「シュケレシュで販売していますよ」」
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