やり直し皇女は母国に帰りたい

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あなたとの時間

110乳母の愚痴

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「フルクトス様はいつもそうなのです」
とは?」
「おひとりで決めてしまわれて、行動されるのです。だから私も私の息子セルブスも本当に困ってしまう」
ナッリはそう言うと私にあいまいに笑って見せてから、言葉を続ける。
「私どもでは分からない世界を見ておられるのでしょうね」

ともすれば親バカにしか思えない言葉と思ったがそうではなかった。
「私が少しでも理解を出来れば良かったのですが…」
「理解?」
「乳母程度にはフルクトスあのお方のお考えなどわからぬのです。何を求めていらっしゃるのか…王族に戻りたいというわけでもなく、逃げ出したいというのでもなく、ー-この世から儚くなりたいというのでもないのです」
「…」
私はナッリの言葉に肯定も否定もしなかった。
前世を知っている私でも今のフルクトスの行動には疑問がある。でも、彼の行動には周囲を守ろうという気持ちがあると感じていた。
具体的にと言われれば、アケロンに前の世界よりも早くから師事している今のフルクトスは、すでにオケアノスと一騎打ちをすれば即座に勝てるだろう。一騎打ちでなくても余程のことがなければカエオレウム軍はフルクトス一人に勝てるかすらわからない。
それくらいフルクトスの魔力は大きくなっていた。

「儚くなる気はないですよ。そうでしたら皇女様をお守りできないでしょう?」

いつの間にか後ろにいたフルクトスは、ナッリの話に答えられないでいる私の代わりにそう言った。
「あら、女性のお茶会に割って入るなど無粋ですよ」
「ナッリが皇女におかしなことを言うからだ」
「おかしなこと?そんなこと申しておりませんよ。ーーなんですか、セルブスが同級生の女性を連れてきた時と同じような顔をされてーーあの時のセルブスは14歳でしたよ?」
「ーー私にはそんな経験はない。おかしなことを皇女様に言うな」
「はいはい」

深刻そうだったナッリがフルクトスを茶化すように言う姿で、二人の関係性が本当の親子よりも近しいのがわかる。ここまで軽口を言いあえる異性の親はなかなかいない。私とぺルラ皇帝おとうさまでは無理だ。
仲が良い悪いではなく、できるかできないか、それは空気の違いでしかないとは思う。でも、言える方が気は楽だと思うと、羨ましいような、でもなりたくはないと不思議な感覚がする。
苦笑いに近い微笑みを見せていると、フルクトスが気まずそうに私の顔を覗き見た。

「皇女様、呆れないでください」
「呆れてなどいませんよ?フルクトス様も私と同じ人間だと思っただけです」
「それは良いことなのでしょうか…今までどう思われていたのかわからないので考えないようにします」
「それがよろしいですわ」

外交的な微笑を向けるとフルクトスは子供のようにふてくされながらナッリの方に話題を振った。その姿が子供っぽくて、かわいらしくて私は思わずフルクトス様の頬を(仮面越しだけど)撫でて微笑んでしまった。
なめらかな仮面の曲線に触れながら、仮面の中からのぞき見える優しい瞳をー-仮面さえなければその色がわかったでしょうー-みつめているとようやく我に返る。
無意識にした不躾な態度に恐縮と羞恥が湧いてくる。私はいったい何をしたのだろう。
殿方の顔を撫でるなど……時間が戻ってから、いいえ、生きてきた中で、こんなに何も考えずに行動したことはなかった。

「~~っ!!たっ大変失礼なことをっ」
「いいえ、お気になさらず」
「とんでもない!!突然お顔に触れるなんて!!」
「おや、離れてしまうんですか。もっと触ってくださって結構ですよ。いいえ、ぜひもう一度撫でて私を褒めてください。ーー正直な話、私は今ほど仮面をつけられていることを憎々しく思ったことはありません」

そんなことを淡々と言ってくるフルクトスに対して、私は自分の顔に熱が集まっていくのを感じていた。きっとひどい顔をしているに違いない。
盗み見るようにナッリの方を見れば、幸せそうな微笑みを浮かべて窓の向こうを眺めていた。
見てなかったのか、見ないふりをしてくれているのか…聞く勇気はなかった。

「フルクトス様、私はこのままどうすれば良いでしょうか?」

ふり絞るようにそう言えば、ナッリが勢いよく立ち上がり私の両手を掴んで、こう言った。

「それでは皇女様、お部屋へご案内いたしますわ!!私、ずっとその言葉を言う機会を考えていましたの。ーーフルクトス様はそちらでおまちくださいね」

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