好感度教育

蝸牛まいまい

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第二章

青空の西の月

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部屋に戻りソファにぐったりと座る。それと同時に近衛乙月も隣に座る。無造作に置かれた目の前の本「虚数少年」を手に取る。隣ではいつものように何もせずにただ座って読書をする姿を見つめる近衛乙月がいる。前に退屈ではないのかと聞いたことがある。「そんなことありませんよ」と言った目に嘘はなかった。
本の中の小さな文字がちかちかする。文字を読んでいるはずが何も頭に入ってこない。寝る時間を少し潰してまで文字ばかりを読んだり書いたりしていたため脳が拒否しているようだった。脳が休止をさせてくれと暗くなっていく。座りなれてきたソファが身体にフィットし更にそれを促す。隣から香る優しい匂い。いつの間にか持っていた本は太ももの上で閉じている。ゆっくりと瞼に映る明かりがフェードアウトしていく。
…眠い
何故か身体がゆらゆら揺れるが、そんなことは気にならない。
ゆらゆらと揺れた身体は右に大きく揺れたと思ったら身体全体が柔らかいものに体重を押し付ける。
ふわっと香る更に優しい匂い。
頭が優しく包まれる。

目に映る明かりと共にフェードアウトする意識の中で聞こえたのはトドメとしての眠気を更に誘う優しく甘い声だった。
「お休みなさい、侑輝さん。」



「始め!」
宇田先生のいつもより少し強い口調の合図とともに学力テストが始まった。今日は国語数学英語の3教科。まずは国語、一番苦手な教科である。近衛乙月に教えてもらったところを思い出しながら着実に解いていく。
苦手な小説問題や古文も予想意外にシャーペンが進んでいる。近衛乙月から教わったことが身になっていることを実感しながら侑輝は今朝のことを思い出した。
早朝の4時に遡る…
俺は甘い香りと共に意識を覚ました。
「…んぅ~…」
頭がおぼろげなまま、顔に柔らかいものがくっついていることに気が付いた。学園支給の枕はかなり柔らかいものである。学園内の清掃スタッフに渡せば、新しいものとすぐに交換してもらえるようになっている。しかし、侑輝は働いていない頭の中で違和感を覚えた。形が違う。そして感触も少し違う。なにかいい香りがする。といっても初めての匂いでもなく、ここ最近ずっと嗅いでいたような匂い。少しずつ覚醒していくにつれて体の他の感触も鮮明になっていった。掛け布団ではない。顔にある枕と似ているものが身体にまとわりついている。温かい。心地よい。優しい匂いと優しい肌触りの寝具が身体を包み込んでいる。ふわふわとした雲に包まれて寝ている感じ…
覚醒が50%程度になったときに、今日が学力テストであることを思い出す。そして緩やかに上昇していた覚醒が学力テストという単語によって急速に上昇していき、約80%程度になった時、侑輝は目をゆっくり開けた。目の前には2つの枕があった。
バッと身体を起こして目にしたのは…下着姿の近衛乙月が気持ちよさそうに眠っている姿だった…
「…んっ!?」
目の前の状況を確認するために辺りをぐるりを見回す。似ているがいつもと少し違う寝室、隣で気持ちよさそうに寝ている近衛さんと下着姿の自分。
「んんんんんんっ!?!?!?!?」
侑輝の覚醒は現在110%。考える作業をすれば相当早いだろう。周りを少し見て、自室ではないことを確認した。そして、隣で寝ている近衛さん。下着姿。侑輝はもしかして…と思ったが、身体に特に違和感を感じないことから単純に睡眠をとっただけであると理解した。少しの安堵。そして次に昨日のことを思い出いした。ソファに座っていた後の記憶がない。そんなことを数秒、いや数十秒考えていると近衛乙月が覚醒しだした。
「ゆうき…さん?」
隣で寝ていた近衛さんが目をごしごしと擦りながらゆっくりと身体を起こしていく。少しずれた下着姿が色っぽい。驚いた顔とは相反して目を細めながら慈愛に満ちた顔で一言
「おはようございます」
「おはよう近衛さん」
近衛さんの自然すぎる挨拶に無意識に応えてしまった。
「じゃなくて!…これ…どういうこと!?」
「覚えてないんですか?」
「え?」
「昨日の夜、侑樹さんが寝てしまったのでソファで寝るのは身体に良くないと思いまして私の部屋に運んだんです。運んだというよりは誘導したんですが…その…侑輝さんの寝室に勝手に入るのはいけないと思ったんで…。制服はしわが付くのはいけないと思って脱がしました。」
「…ええ…起こしてくれればよかったのに。」
「いえ、疲れていたみたいで起こすのも申し訳なかったですし…勿体なくて…」
もったいない…
感謝すべきか注意すべきかわからない。しかし、近衛さんも悪気があってやったわけではない。寧ろ、心配をしてやってくれたことなのであった。
「それでも一緒に寝るなんて…」
「ダメでしたか?」
悲しそうな顔をする近衛さんを見て罪悪感を感じる。
「いや…まあ…今回はソファで寝た俺に非があるな…。…まあ…ベッドまで連れて行ってくれてありがとう。」
近衛乙月は雲一つないであろう朝日を背景に無垢に微笑んだ。
「いえ、気にしないでください。お目覚めはどうですか?」
「…うん…いい感じ。」
事実、侑輝の目覚めは最高だった。学力テストにはもってこいくらいの目覚め。勉強でため込んだストレスが全て無くなっており、頭も体も軽い。
ふと我に返った侑輝は近衛さんの下着姿を見て、すぐに寝室を出た。
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