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第一部
7.これ、まずいよね
しおりを挟む「最近の流行を取り入れたドレスですの」
「このケーキうまいな」
「その髪飾り、どこの商会のですか?」
「そこ、俺も行ったことある!」
5歳から10歳ほどの男女が何十人も集まり、グループらしきものを作って話している。
服装からして貴族に間違いはない。
周りにはケーキやクッキー、チョコレートなどのお菓子が並んでおり、どれも美味しそうだ。
壁は雪のように真っ白で、天井も高い。
―――すご……。
そんなところに私、ユリアーナはエリアーナと一緒に来ていた。
こうなったのは一週間前、王家からの招待状が来たところから始まる。
ブライト第一王子と、その双子の弟のノーブル第二王子が10歳の誕生日を迎えたため、その祝賀パーティーを行うらしい。
だがそれは建前で、このパーティは2人の婚約者を決めるために開催される。
当然王族の婚約者となれば玉の輿。
狙わない貴族などいない。
もちろん私はそんなパーティなど断りたかったが、招待状の送り主は王族。
公爵家とは言えど、断れるはずもない。
―――今頃私の読書時間なのに……。
至福の時間を邪魔されたことに少なからず怒りは抱いているが、王族を敵に回してまで読書するほど、私も馬鹿ではない。
すると―――
「きゃあぁーっ!」
少し奥から桃色の悲鳴がいくつか上がる。
どうやらこのパーティ主役が登場したようだ。
―――あれが……。
太陽を連想させる金糸。
宝石のように輝く碧眼。
甘い笑顔を浮かべ、幾人もの人に視線を向けている。
―――あれがブライト第一王子……。
そしてブライト王子の隣に、もう一人。
夜空を連想させるネイビーの髪。
一番星の輝きを持つシルバーグレーの瞳。
氷のような冷えた眼差し。
―――そしてあれが、ノーブル第二王子ね。
王子にはいくつかパターンがある。
1、熱血脳筋バカ。
2、王道の完璧王子。
3、ツンデレ氷人。
4、不思議ちゃん。
5、ほんわかなムードメーカー。
だいたいこんなところだ。
また、性格は色素に現れる。
基本的に上から順に赤、金、青、紫、緑。
そして、性格は生まれた順番も影響する。
第一王子は1か2か3のどれか。
第二王子は2か3か4。
第三王子には5が多い。
第一王子と第二王子の関係は深い。
第一王子が完璧なら第二王子は自身の才能の無さに嘆き、ヤンデレとなる(※逆の場合もある)。
第一王子が熱血バカで、第二王子が第一王子を抑える完璧王子という設定もあり得る……が、色素を見る限りそれはないだろう。
白の王族衣装に、緻密な刺繍が施された綬《じゅ》。
この2人が双子の王子と見て間違いなさそうだ。
「ブライト様……」
―――あ、まずい。
エリアーナの目が恋する少女となる。
完全に見惚れている。
どちらもたしかに目の保養に良い素晴らしい容姿を持っているが、全く興味のない私に効果は無い。
ここは空気となってパーティが終わるのを待つことにしようと思う。
そう、思っていたのだが―――
「っ!」
―――目が、合ってしまった。
しかも相手は第一王子!
―――やばいかもしれない……。
こちらから目を逸らすのは危険だ。
王族の反逆などと言われたら即、死。
それでは私の読書時間がなくなる。
なので目を逸らすことはできない。
―――だけど、どうすれば……。
「っ……!」
すると突然、ブライト王子はニコッと微笑んだ。
周囲から悲鳴が上がる。
そして私の方へと足を進めた。
―――これ、まずいよね。
勘違いだと思いたい。
だが私は公爵令嬢。
これが私に向けたものでなくても、いずれどこかで会うことは確定だ。
けどそれが今日なのは本当にまずい。
言葉を交わしてしまえば婚約者候補にはなってしまう。
だって私は公爵令嬢だから。
権力ほど恐ろしいものはない。
私は読書ができればそれでいい。
ただ、それだけなのに……!
ブライト王子は私の目の前で足を止めた。
そして―――
「初めまして。ブライト・コルトレッド・アンリィリルです」
「…………」
丁寧に挨拶をした。
嫌な予感が当たってしまった。
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