35 / 158
第一部
34.傷つくくらいなら
しおりを挟む「本であることに間違いはありませんが、調べられてしまえば、露呈してしまうのは目に見えているでしょう。それとも、単純に読書していたのですか? リンドール公爵家の者とは思えない行動ですよ、ユリアーナ様」
―――おぉ~……。
家族とサーシャ以外からお小言を言われたのはレティシア様が初めてだ。
レティシア様は将来いいお嫁さんになるだろう。
うんうんと心の中で頷く。
「で、どちらをなさっていたのです?」
ギクリ。
「ユ・リ・ア・ー・ナ・さ・ま?」
「……………………解析、して、ました」
「ま、そうですよね」
―――知ってたかのような物言いだな……。
口に出せるはずもないので心の中で呟く。
しかしレティシア様を舐めてはいけない。
「なにか失礼なこと思いました?」
「!? ま、まさかぁ……そんなわけないじゃないですか」
―――心の声まで読めるの!? 怖い!!
ブライト王子並に怖い。
敵にする気もないが、レティシア様を敵に回すのはやめたほうが良さそうだ。
私は本をしまうと、レティシア様が座れるように横にずれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
レティシア様は座ると、非常に痛いところを突いた。
「パーティに戻らなくてよろしいのですか? ユリアーナ様」
「あぅっ……」
見事なクリティカルショット。
さすがレティシア様。
攻めるところが的確だ。
「リンドール公爵家の令嬢としてどうなのですか?」
「うっ……」
「社交は避けては通れませんよ」
「し、知ってます、け、けど……」
「それと、そろそろ読書離れしたほうがよろしいのでは?」
「それは無理!」
「…………」
「あっ、無理です!」
「…………」
―――私、やらかした?
レティシア様から「そういうことじゃない」っていう視線が向けられる。
ううっ、ごめんなさい……。
レティシア様は大きなため息を吐くと、諭すように言った。
「わたくしも含め、ユリアーナ様には期待しているのですよ」
「しなくていいですよ、期待とか」
「では協力関係はなかったことに……」
「えっ!? それは困ります! 期待してください!」
「変わり身、早すぎません?」
―――早いほうがいいこともあるよ。うん。
そういうことにしてもらう。
「パーティが嫌いなのは社交が苦手だからですか?」
「んー……それもあります」
本が読みたいから、の方が強い。
だがそれ以上に居心地が悪いのだ。
「なんて言うんでしょう。多分、うん、そうですね。私は……」
古傷に触れるようで、
「私は、“愛”が怖いんです」
ずっと、拒絶し続けている。
「愛、ですか……?」
「はい。愛、です」
「けれど、ユリアーナ様は愛を拒絶しているようには見えませんよ? エリアーナ様に深く愛されていますし」
―――あぁ、まあ、そう見えるよね。
実際合っているのかもしれない。
だが、それは半分合っていて、半分大きな間違いだ。
―――エリアーナが愛しているのは、
妹のユリアーナであって、
牧野由良《わたし》じゃない。
『どうしてお姉ちゃんは生きるの?』
『……どういう意味?』
『そのままの意味だよ。どうしてお姉ちゃんは生きるのかなぁって思ったから聞いてみただけ』
『どうして?』
『? うーん……だってお姉ちゃん、必要?』
あの時の絶望に似た感情は忘れられない。
苦しくて、悲しくて、辛い。
愛されていると信じて疑わなかったこともあり、ショックは大きかった。
そして私は愛されることが、怖くなって、拒絶するようになり、これ以上傷つきたくないがゆえに独りきりになるようになった。
―――傷つくくらいなら、愛なんていらない。
牧野由良は愛の素晴らしさと恐ろしさを理解している。
「……すみませんレティシア様。変なことを言いましたね。矛盾していました」
私は立ち上がると、にっこりと笑った。
笑えばきっと、忘れられる。
それはその時だけであって、永遠ではないけれど。
「……ユリアーナ様」
「はい」
レティシア様はいつもよりも神妙な顔つきで許可を求めた。
「一つ、聞きたいことがあるのですが」
141
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる