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第一部
35.ひとりごと……
しおりを挟む「いいですけど、なにか?」
レティシア様は数秒悩むと、少しだけ前置きを言った。
「答えなくて、結構です。ひとりごとだと思ってくださって構いません。そう、これは、わたくしのただのひとりごとです」
―――ひとりごと……。
そこまで言う必要のあることなのだろうか。
そしてレティシア様は私を真っ直ぐ見つめて言った。
「……ユリアーナ様。あなたは、だれなんですか?」
―――!
顔に出ていない、と信じたい。
けど、レティシア様は、おそらく。
私がユリアーナでないとわかっている。
「……申し訳ございません。馬鹿みたいな質問でした。今のは忘れてください」
ですが、と続けた。
「ユリアーナ様がユリアーナ様ではないだれかなのであれば、わたくしには知る権利があることを覚えておいてください。では、失礼しますね」
しばらく呆然としていた。
脳内でレティシア様の言葉が響く。
そして私は落ち着いた後、ある疑問について考えた。
―――私は、何者なんだろう……。
あ、中二病発言ではないからね?
真面目に考えているからね?
だが、この問題は前々からふと思うことがあった。
私は何故、転生したのだろう。
私はユリアーナ・リンドールなのか。
それとも、牧野由良なのか。
ユリアーナ・リンドールを生きる牧野由良というのが一番しっくりくる。
だけどこの世界には牧野由良を知る人はいない。
病弱でもないし、だとしたら牧野由良ではないのだろうか。
けれど、ユリアーナ・リンドールが生まれた時から記憶があるということは、本物(?)のユリアーナ・リンドールの自我はないということになる。
―――いや、待って。ユリアーナ・リンドールの自我は生まれてすぐに牧野由良の記憶に呑まれたって可能性もある。
元となる自我はユリアーナ・リンドールか牧野由良か。
答えは簡単に出せない。
わからないのだから。
それと、私しかこの世界に転生した転生者はいないのだろうか。
それもまた変な話のような……。
―――はっ、もしかして、レティシア様がそうだったりして!?
普通だったら私=転生者にならない。
私=変人しかありえない。
でも同じ転生者だったら……。
ありえなくはない。
『ユリアーナ様がユリアーナ様ではないだれかなのであれば、わたくしには知る権利があることを覚えておいてください』
私は、転生者であることをレティシア様に話さなければならないのだろうか。
隠しているつもりはないし、話すことによる損害もない。
だけど―――。
―――まだ言いたくないな。
明確な理由はない。
しかし言う必要はないので、まだ私がユリアーナではないことをレティシア様に教える気はない。
ただ一つ、はっきりとしていることがある。
―――私はまだ、ユリアーナでいたい。
パーティが終わり、私はエリアーナと再開して馬車に乗る。
疲れたのか、揺れる馬車の中で眠ってしまったエリアーナを気にしつつ、夕焼け空を見つめる。
私がだれなのか、なんて、私にもわからない。
わからないことだらけだ。
それでも、私は生きる。
生きて、生きて、本を読む。
それが今の私。
ユリアーナ・リンドールを生きる人だ。
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