37 / 158
第一部
36.さて、行きますか
しおりを挟む―――行くか。
早朝。
いつもならまだ寝ている時間帯、私はリンドール邸を出るために支度をしていた。
動きやすく軽い服装に着替え、髪を結ぶ。
―――忘れないうちに……【変色】
髪色を変え、ユリアーナだとバレないように工夫する。
お忍びで王宮図書館に何度か行っているため、リンドール邸から出るのは容易い。
―――【複製】
「一週間ぐらいよろしく」
「わかった」
私は複製体、ユラを作り、窓の外へ出た。
―――【透明】【隠蔽】【飛翔】【速度向上】【疾風】【同化】……。
複数の魔法を同時に発動させ、【飛翔】で空へと飛び立ち、ある場所へと向かう。
―――うーん、間に合うかな。
私が向かっているのは、前に私を暗殺しにきた少年のいる場所だ。
眷属契約をしているので少年の居場所を特定するのは簡単だ。
何故向かっているかというと、最近、少年の魔力が少なくなってきているからである。
普通、魔力が減るのは魔法を使った時だけだが、衰弱など死に近づくと減っていく。
つまり、少年の安否を確かめるために向かっているのだ。
少年は色ありなので主要人物で確定だ。
そして私は知っている。
主要人物がバッドエンドとなると、他の主要人物は数年以内に死を迎えるのだ。
そうなれば私は死んでしまうかもしれない=読書ができなくなる。
それを回避するためになんとかしなければならないのだ。
―――少年、元気だといいけど。
元主人を殺すと言って去った少年。
私の眷属契約が切れていないため死んでいないのはわかるが、返り討ちにあっている可能性もある。
そいつらへの恨みが呪いとなりアンリィリル(この国の名前)が滅んでしまう……なんてことも考えられる。
闇系の色ありキャラクターは気をつけないとすぐにバッドエンドによく走るからなぁ。
常時見張るのが最適解だ。
で、見張ってた結果まずいことになるかもしれないと思ったのである。
―――ま、貧民街にいるのはわかってたけど、実際に見ると酷い有様だね。
数十分すると、廃れた町が見えた。
崩れかけた家、食べ物を求める者、餓死した者、生きるために必死になって強奪する者など、前世はもちろん、今世でもまだ見たことのない景色が広がっていた。
少年の気配がするのは貧民街の中でも比較的平和……というよりもヤクザの住処的な場所だった。
―――うーん、下に何かあるな。地下室とかありそう。ちょっと行ってみるか。
少年の他に、微かな魔力の反応がある。
地下とかがあるなら、そこが一番怪しい。
私は地面に降りて魔力をめぐらせる。
【隠蔽】は私の魔力も隠す。
見つかる心配はない。
手前に四、五人見張りがある。
ガタイのいい三十後半くらいの男だ。
物理攻撃で勝てる気がしない。
けど。
―――【就眠】【麻痺】
足元が崩れたかと思えば、男はすぐに眠りについた。
そう、私の攻撃は魔法なので誰が相手でも関係ないのだ。
―――さて、行きますか。
私は静かに少年のもとへと歩き始めた。
141
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる