悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

44.できるだけ早く終わらせよ

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 少年が中に入ると、さらに歓声は大きくなった。
 少年は白い薄地の布に素足でやって来た。
 どっかの民族みたいな服(と言っていいのかわからないが一応服)だ。

―――あ、こっち向いた。

 やはり魔力でわかるのだろうか。
 少しいじっているのだが、主従契約をしているからか、少年にはわかるらしい。

「お待たせしました! 本日の主役メインの登場です!!」

 解説者の声がかかると会場は異様な盛り上がりを見せた。

「なんとなんと! このお方は我らが王! エヴァ様の元右腕の常闇の鴉《クロウ》だ!」
「あのエヴァ様の!?」
「これは競り落とさんとなぁ……!」
「クロウ様の魅力はたくさん!! まず、エヴァ様の認める圧倒的な戦闘能力! 護衛、番犬、暗殺など、なんでもできるぞ! 魔力の質もいい! これ以上にない優良物件だ!」
―――優良物件って……。否定しないけど。

 戦闘能力の高さは実際に見たから知ってるし、魔力の質がいいのは素がいいのと私の魔力が混ざっているからだ。
 もっと鍛えれば強くなりそう。
 家に帰ったら鍛えてみたいなぁ。
 それに、私の魔法の練習相手になってもらわなければ。
 力を隠しているので大技の練習ができないのだ。

「それによおぅく見てくれ。何か気づくことはないか? ……そう! クロウ様はエヴァ様並みに顔がいいのだ!!」
―――え、だからなに……?

 そう思ったのは私だけのようだった。

「まあ素敵! ほしいわぁ!」
「やっぱり顔よね、顔。素敵な奴隷になりそう……っ」
―――あぁ、そういうこと。

 つまりだ。

「薬漬けにすれば可愛い可愛いあなただけの愛玩にすることができます」
―――観賞用、欲求発散用ってことね。

 そんなものを欲しがるだなんて、ここには本当に趣味の悪い最低最悪な底辺の生き物が多いのだと自覚する。
 それを生き生きと語る運営者も。
 そいつらを束ねるエヴァも。

―――……やめよ。

 私は考えるのを中断する。
 これ以上は怒りでどうかしそうだ。
 フードと仮面があってよかった。
 これなら感情を隠せる。

「では競りを始めます! みなさん用意はいいですかー!?」
―――できるだけ早く終わらせよ。

 一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

「では始めます! 競売スタートで」
「100億コイン!!」

 私はそう大きく叫び、立ち上がった。

「100億コイン出すわ! それ以上出す人はいるかしら?」
「……ひゃ、100億コイン以上……?」
―――司会者がびっくりしてどうする。

 情けない。
 馬鹿なんじゃないか、こいつ。
 いや、みんな馬鹿か。
 ここには変人しかいない。

「……で、ではクロウ様はお買い上げということで……競売、終、了……? みごと100億コインで買い上げたのはヴァイオレット様だそうです」
―――しどろもどろ……さすが脇役《モブ》ってところかしら。

 私は少年に向かって歩く。
 その際マントのフードが取れ、蜂蜜色の髪がふわりと揺れた。
 【魅了】を纏った私に、誰もが釘付けだ。
 ヴァイオレットは皆が認める美人さんだ。
 そうなって当然である。

「お、まえ……」

 少年と目が合った。
 目が少しだけ輝いている。
 あらら、【魅了】の効果、強すぎたかな?

「【破壊】」
「っ……」

 少年の鎖を【破壊】し、正面でしゃがむ。
 少年の顎に触れ、覗き込み、そして、ふっと微笑んだ。

「元気そうでよかったわ。私のクロウ」
「っ、その呼び方はやめろ。嫌いだ」
「そう。ごめんなさいね。帰ったら新しい名前をあげるわ。それまで辛抱してね」

 妖艶な色気に満ちたヴァイオレットの破壊力が凄まじかったのか、はたまたこういうヴァイオレット系女子が苦手なのか、少年はぷいっとそっぽを向き、「わかった」と言った。
 そして私は少年とスタッフに案内され、別室に向かうのだった。



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