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第一部
46.しれっと明かすなぁ
しおりを挟む「失礼します。ヴァイオレット様をお連れしました」
「入りなさい」
案内された部屋にはエヴァ一人が座って待っていた。
静かにお茶を飲んでいる。
「ようこそお越しくださいました。そちらの席へお座り下さい」
私はエヴァの言う通りに座る。
お茶に毒は……入ってない。
お客として歓迎されているのか?
油断はできない。
「人払いを」
「はっ」
―――防音の結界……魔力吸収と指定された人以外を拒絶する魔法壁。よく見ないと気付けなかった。
これほどの結界を一人で維持できるほどの魔力……やっぱりエヴァの魔力量は多い。
私をはるかに上回っている。
「さて、ヴァイオレット様」
エヴァはカップをソーサーに置いた。
「お話を始めたいのですがよろしいでしょうか」
「……私、早く帰らなくてはならないの。手短に終わるのであればいいわよ」
「承知しました。では簡潔に……」
エヴァの空気が変わった。
「―――あなたは何者だ」
「!」
おそらく、エヴァは知っている。
私がヴァイオレットではなくユリアーナ・リンドールであること。
―――いや、違うな。
そんなこと、エヴァは最初からわかっている。
エヴァが知りたいのは、私が転生者であることだろう。
「それ以外にもあるでしょ。全部教えてちょうだい」
「おや。一つだけしか教えてくださらないのかと思っていました」
「もちろん内容によるわよ」
「わかっております。……弟になんと言って唆したのか。そして弟を使って何をするつもりなのか、その理由も含めて教えていただきたいです。私が知りたいのはその四つですね」
「あら。案外多いのね」
「人間ですから」
「ふふっ、そうね」
ピリピリとした空気が流れる。
「そうね……私もあなたに聞きたいことがあるの。ここは契約しない?」
「ほう、契約か」
「ええ。あなたの知りたいことと私の知りたいことをお互い本当の情報を知るために結ぶ契約よ」
「なるほど。……ユリアーナ様は何を知りたいのですか?」
―――しれっと明かすなぁ。
やはりわかっていたか。
「私が知りたいのはエヴァと少年の関係。人身売買をして何をしたいのか。あの子を刺客として私に送り出した理由。そして……あなたの目に私がどう映っているか」
ただの異母兄弟とは思えないし、エヴァは頭がいいはずなので人身売買など危険なことをしなくてもお金は稼げるはずだ。
それと、エヴァが私を殺そうとした理由。
エヴァに映る私は何か歪なものを感じる。
私の知らないユリアーナをエヴァは知っているかもしれない。
「知りたいことはあなたと同じ四つよ。どうする?」
「いいでしょう。契約を結びましょう」
「成立ね。対等な契約でいいかしら?」
「構いません」
―――【創造】
私は小さなナイフを創り出し、指の腹を切って血を取り出す。
契約書に互いの血判を押したら、あとは詠唱するだけだ。
「互いの知りたいこと、四つの情報を交換すること」
「嘘偽りなく、本当のことを述べる」
「「【契約】」」
そう言うと、契約書が燃えて消えた。
【契約】がされた証拠だ。
「では教えてもらうわよ。エヴァ」
「いい時間になりそうですね」
黒い笑みを浮かべ、見つめあった。
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