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第一部
49.なるほど
しおりを挟む―――さて、ここからどうしよっか。
契約だからエヴァは教えざるを得ないけど、どう説明するのだろう。
力を無理矢理抑え、記憶を封じ、ずっと隠していた秘密。
―――多分、少年のお母さん……愛人に少年の秘密に関わる重要なことがあるよね。
でなければ、少年だけが該当するはずがない。
―――……でも、どっちも色ありだからどっちも同じ血筋の出自じゃないと変だよね。けどエヴァはそうじゃなさそうだし……。一度情報を整理するか。
・色ありは父親(が濃厚)。
・少年のお母さんが一族の末裔(と仮定)。
・遺伝子的にお母さんには一族の特徴が出なかったが、少年の代で発現した。
→性別が影響?
ざっとこんな感じだ。
まあ、エヴァの反応からして概ね当たっている気がする。
さあどうでる、エヴァ。
「……どこで知ったんですか、その情報」
「考察よ。根拠も確証もない、ね。一族の血はあの子のお母様が継いでいたの? それにしては見た目や色素は二人とも似ているわね。どうなの?」
「……」
―――明かすか悩んでるってところかしら。
そうしてもらった方が嬉しいのだが……もう少し追い詰めるかな。
「あなたの一族が衰退したのは裏切りが出たからであってる?」
「? そうなってますが……、っ!」
エヴァは慌てて口を押さえた。
―――なるほど。
今の言葉で確証を得た。
「一族の血はあなたたちのお父様が継いでいたのね」
「……」
―――否定しないところがエヴァらしいな。
能力の発言はしなかったが、エヴァもある一族の末裔なのだ。
その一族とは―――
「〈黒竜の末裔〉」
かつて、人を愛し、人に裏切られ、怒りと悲しみで暴れ、殺された生き物。
上位種族の〈竜〉の王〈黒竜〉だ。
〈黒竜の末裔〉はそんな〈黒竜〉が人に裏切られる前、〈黒竜〉に忠誠を誓い、人ならざる生き物の力を授かった者たちのこと。
〈黒竜〉が殺された時、共に命を絶ったと神話には書かれていたが、やはり裏で生きていたのだ。
そしてそんな〈黒竜の末裔〉である少年が力を抑えられているのは、記憶を封じられているのは、おそらく―――
「……この話はもうやめましょうか」
探れるところまでは探った。
これ以上、エヴァのピリピリと殺気立った魔力を受けるのはやめた方がいい。
「私はこのことを誰かに話すつもりもないし、あの子が〈黒竜の末裔〉であることを知って護衛にしたわけじゃない。そのことだけは信用してほしい」
エヴァは長い沈黙の後、「わかりました」と一言そう言った。
「今日はもう時間ですので、契約内容はまた今度ご説明させてください」
「私だけ情報を明かしておいて、それはどうなの?」
「申し訳ございません。なので、お詫びとしてこれをお渡しします」
「? なに? これ」
赤い真紅のルビーのペンダントだ。
だが、ただのペンダントではない。
―――何かの鍵みたい……、あっ!
「能力解放の鍵!」
「正解です」
少年の力を解放させるための鍵となる付与魔法が刻まれている。
ちゃんと見ないとわからないし、少年のことを知らなければ誰も使うことができない。
よくできている。
「これを使えば愚弟の力は解放されます。今まで押さえていた力が増幅している可能性もあるので、暴走する可能性もあります。また、封じた記憶も思い出すことになりますので、どうか使いどころは気をつけてください」
めっちゃ大事なものではないか。
「……どうしてこれを私に?」
「今の愚弟の主人《あるじ》はユリアーナ様ですから」
エヴァはそう言うと、突然頭を下げた。
「弟をよろしくお願いします」
「!」
エヴァはずっと少年のことを愚弟と言っていた。
まるで血が繋がっているだけの他人のような言い方だった。
けど、もしかしたら。
本当は、心の中で大事に思ってあるのかもしれない。
「……羨ましい」
ポツリと溢れた言葉が一瞬にして溶けた。
「ユリアーナ様?」
前世の妹の言葉が蘇る。
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死ぬ前に、お母さんとお父さんにもう一度名前を呼んでほしかった……。
「……さま、ユリアーナ様」
「っ……エヴァ……」
「大丈夫ですか? ユリアーナ様」
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
意識が現実に戻される。
「……そうですか」
エヴァは静かに目を閉じた。
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