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第一部
51.私のこと、守ってくれるんでしょ?
しおりを挟む『ごしゅじんさまは本当にバカです』
昨日の夜に言われた言葉が響く。
―――えーっと……なんだっけな。
始まりはリンドール邸に戻ってすぐのことだった。
ユリが部屋の前で仁王立ちして構えて待っており、何事かと思ったらいきなり叱り始めたのだ。
いやー、あれは驚いたわ。
まさか3日も飲み食いしていなかったとは。
『ごしゅじんさまは魔力で補っているだけで帰ってくるまでのこの3日間、何も飲みも食べもしてませんよね?』
『はぁ!? おまっ、なにしてんだよ!?』
当の本人(私)は「あれー? そうだったっけ?」という感じである。
『それと、寝てませんよね? 3日間』
『……あ』
『あ、じゃねえよ!! 馬鹿なのか!?』
『私もそう思います』
そんな感じで魔力の大量消費で若干の体調不良の中、胃に栄養を強制的に送られ、ふっかふかの布団に毛布と人形付きで投げ出されたような……。
『そんなすぐに寝れないよー?』
『なら寝かせてやるよ!! 【就眠】!!』
そうだそうだ。
ルアにキレ気味で【就眠】をかけられたんだった。
横でユリがグッジョブしてたっけね。
で、今に至るわけか。
カーテンの隙間から覗く朝の光で目覚めた私は「よいしょ」と体を起こす。
―――ルアのことはどう説明しようかな。
「護衛して」と言ったものの、陰から守るとかはダメだと思う。
正式な護衛として働いてもらう方がいい。
ルアは光の下で生きていい、って証明したいから。
それに、「ルア」の名前をあげたのは他でもない私だ。
私がルアが幸せになるための土台を作らなくては。
―――けど、どうすれば……あ!
私はベッドから飛び降りたその時だ。
「おはようございますユリアーナ様。……あら、今日はお早いお目覚めですね」
「サーシャ、サーシャ! 今日って私の誕生日だよね!?」
「はい。8歳の誕生日です。お誕生日おめでとうございます、ユリアーナ様」
―――いける!!
今日は私の誕生日だ。
誕生日にはプレゼントがつきもの!
リンドール公爵家では毎年家族から贈り物をもらうと同時に、叶えられる範囲で欲しいものを一つだけもらえるのだ。
「サーシャ! 私、早くお父様とお母様とエリアーナお姉様に会いたい!」
「かしこまりました。ではすぐに着替えと身支度をしましょう」
「うん!」
サーシャは今日のために用意したのだというドレスとアクセサリーを引っ張り出す。
―――ルアを私の護衛にするって願いは、リンドール家の当主ディール・リンドール……私のお父さんが認めれば叶えられる。
今日は誕生日だし、お父さんは娘ラブなのか大体の願いは叶えてくれる。
唯一許してくれなかったのは武術だ。
刃物などを扱うから危険とのことで、15歳になるまでは禁止と言われた。
魔力封じの枷を使われた時や誘拐された時の対策として第二の武器を育てようかと思ったのだが……仕方なく諦めた。
けど今の私にはルアがいる。
ルアにこっそり教えてもらおうと思う。
きっとルアは「俺が守るから必要ない」って言うんだろうけど、前世は体が弱かったから体の使い方がいまいちよくわからないのだ。
歩くのはさすがにできるけど、走るのは苦手だしダンスも正直嫌い……。
せめて自分のためになることは身につけようと思ったのだ。
「終わりましたよ、ユリアーナ様」
「! ありがとうサーシャ」
私はルアに魔力を通して呼びかける。
こっそり打ち合わせするためだ。
―――ルアー、起きてるー?
少しすると、ルアから反応があった。
「〈起きてるに決まってんだろ馬鹿主人〉」
―――バカって何よ、バカって。
「〈3日間寝もせず食いもせず飲みもせず家出してた奴のことを馬鹿と言わなければこの世に馬鹿はいねーよ〉」
馬鹿ですみませんね。
―――でも私は後悔してないわ。むしろルアを助けられてよかったわ。
「〈やっと読書できるからか?〉」
―――ううん。
それは違う。
―――私のこと、守ってくれるんでしょ?
ルアはそう言ってくれた。
なら私は安心して過ごせる。
―――ルアは強いもの。でも覚えておいて。魔法だけなら私はルアより強いわ。いざとなったら助けるし、あなたを傷つける者は全員排除するから。
「〈……頼もしいな〉」
―――でしょ? あなたの主人は決して弱っちくなんかないんだからね。
「〈そうか〉」
―――ええ。
ルアとの会話を終えると、サーシャが声をかけた。
「では行きましょうか。ユリアーナ様」
私はルアを正式な従者にすべく、家族の待つ場所へ向かった。
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