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第一部
70.王族の秘術なのか……?
しおりを挟む「おともだちになってください」系のセリフは友達作りが苦手な人or友達がいない人あるあるの言葉だ。
私は友達いらない派&友達がいない人なのであまり言ったことがないけれど、すごく勇気のあることなのは知っている。
―――あんまり主要人物とは関わらないほうがいいんだけどねぇ……。
だがしかし。
だがしかしである。
―――うるうるとした目で見るリズ様から目を逸らせない……何故だ、何故なんだ。王族の秘術なのか……?
要は、断れないのだ。
「お願いです」
「いや、えっと、私は……」
「リズと、おともだちになってください」
「だから、あの……」
「お願いです。ユリアーナお姉様……っ」
「ううっ……」
こうしてリズ様の圧に押され、私は―――
「……友達に、なります」
「! ありがとうございますっ、ユリアーナお姉様っ!」
リズ様とお友達(?)になってしまった。
ふと視線を向けると、ルアが目で語りかけてくる。
「(なにやってんだよ、おい)」
「(私も聞きたいよぉ~……)」
「(やっぱり馬鹿だったな)」
「(ぐぬぬ……言い返せない……)」
こうなったらやることは一つ。
―――私の平穏を考えたら断るべきところだけどそれ以外に断る理由ないし……ええい! もうどうにでもなっちまえ!!
現実逃避である。
―――もしかして、私が平穏に過ごすことなんてできないのか?
色ありの主要人物。
王族の婚約者の姉を持つ公爵令嬢。
裏社会の人間の教え子。
挙げればきりがない。
―――でも、諦めたら終わりだよね。
諦めるのは簡単だ。
だから頑張ろうじゃないか。
平穏で快適な読書生活のために!
「お姉様、お姉様」
「……なんですか、リズ様」
「ユリアーナお姉様は将来どのようなお仕事をするのですか?」
「んー……このままいけばリンドール公爵家を継ぐことになりますね」
「そう、ですか……」
―――どうして落ち込んでるんだ……?
しゅんとするリズ様。
何か理由でもあるのだろうか。
「筆頭魔術師は嫌なのですよね?」
「あ、嫌です」
「……そうですよね。お兄様から、そのことについてはよく、とてもよく聞いてます」
―――だよねぇ~。
「でも、」
「?」
「筆頭魔術師になれば王宮図書館を毎日利用できますよ」
「えっ!?」
―――王宮図書館を毎日利用できるだと!?
それは初耳だ。
もしかして筆頭魔術師って、この世界で最高の職では!?
いや、でも筆頭魔術師は……うーん……。
どうやら調べ物をするには王宮図書館が最適らしく、筆頭魔術師になれば王宮図書館の地下にある王宮書庫にも出入りできるらしい。
―――ああ~! めっちゃ悩む!!
いや、でも、もしかしたら……
「王宮図書館関連の仕事ってないの?」
「あまり聞きませんがあるにはありますね」
「あるの!?」
あるならそれこそ一番いい職業だ。
「ですが、王宮図書館の資料はとても重要なものですし、枠も少ないです。狭き門だと噂されています」
「へぇ……」
いろんな話をしている間に時間が過ぎていき、帰る時間となった。
ルアに諭され、私はリズ様と別れた。
「……王宮図書館で働きたいのか?」
馬車の中、ルアは私にそう聞いた。
「貴族として生きていくならね。それと、弟か妹が産まれたらかな」
「貴族以外の選択肢あるか?」
「貴族であることをやめればいいのよ」
「!? 本気か!?」
簡単なことだ。
平民に成り下がればいい。
「どうやって生活していく気だよ!」
「平民として暮らす以外ないでしょ」
「~~あのなぁ……」
貴族が平民として暮らせるはずがないこと。
第一、お父様とお母様、エリアーナが悲しむとルアは言った。
「私の人生は私のものよ。誰にも文句は言わせないわ」
「そうだけど……」
もしかして、と思って私は訊いた。
「ひとりぼっちになるかも、とか思ってる?」
「っ……そんなわけ!」
「大丈夫だよ、ルア」
そう思っていなくても、これだけは忘れないで覚えておいてほしい。
「ルアをひとりぼっちになんてしないよ」
「っ……あんたって人は……」
「……?」
ルアはぼそぼそと何かを言っているが、小さくてよく聞こえない。
「いいか、よく聞け」
―――急に俺様系……?
「あんたが俺をひとりにするんじゃない。俺があんたをひとりにさせないんだ」
「……同じことでは?」
「全然違うっ!」
細かいなぁ。
どっちでもいいじゃないか。
そんなどうでもいいことを言い合っているうちにリンドール邸に着いた。
そして帰った後も言い合い続けるのだった。
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