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第一部
73.舐められてる感がすごいんだけど
しおりを挟む「では実習に入ります」
「内容は?」
「私に一つでも魔法を当ててください」
「……舐めてるの?」
たしかにエヴァよりも私は弱いだろうが、それは舐めすぎでは?
「舐めていません。力量差を考えれば当然のことです」
「……あっそう」
「それと、魔法を当てられなくても、私が一歩でも動いたらユリアーナ様の勝ちとします。ご安心ください。私から攻撃することはありません」
―――舐められてる感がすごいんだけど。
たしかに私は8歳であなたの教え子ですよ?
でも、これはいくらなんでも舐めすぎじゃない?
「エヴァって何歳?」
「? 23です」
―――15歳差……。勝てなくはないな。
魔力と年齢に差はあるも、圧倒的に私の方が有利。
勝てる勝負だ。
「この空間には防護結界を何重にも張っていますので躊躇わずに攻撃して構いません。準備はできています。いつでもどうぞ」
なら遠慮なくいかせてもらおう。
―――【業火】
【業火】は【火焔】よりも威力の高い炎の魔法だ。
普通、【業火】は【防御】を貫通する。
そう、普通ならば―――
「……ま、防げるよね」
エヴァは無傷で何もなかったかのように平然と立っている。
「どうしたんですか? もっと本気で来てください」
「っ……人を煽るのがお上手ね」
「お褒めいただき光栄です」
「褒めたつもりはないんだけど?」
「そうでしたか。申し訳ございません」
その態度が煽ってるってこと、自覚してるのだろうか。
ものすごくイライラする。
クソ王子とはまた違った怒りだ。
―――本気、ねぇ。最近やってなかったし、たまにはいいか。やってやろうじゃないか。
魔力をめぐらせ、詠唱する。
―――【紅蓮】【氷蝕】【飄風】【隕鉄】【霹靂】【燦爛】【常闇】
私のできる最大出力の七大魔法だ。
さっきの座学(?)とは威力が桁違いのものである。
「これならどう?」
「……」
魔法を放つと、エヴァの周りを覆っていた防御魔法が次々に壊れていく。
そして―――
―――やった、のか?
大きな爆発が起きて周囲が煙で包まれた。
エヴァの姿が見えない。
だが、手応えはある。
少しの希望を持って行方を見てい次の瞬間、「カチャッ」と小さな音がして、私の動きが封じられた。
「!?」
その音が魔力封じの枷の音で、エヴァによって拘束されたことに気づくのに少しの時間を要した。
―――やられた……!
背後にあるエヴァの気配が濃くなる。
「魔力探知をしていたようですが、やはり引っかかりませんでしたか。もう少し訓練が必要ですね」
「……っ、やっぱり強いわね、エヴァ」
「教師が教え子より弱くてどうするのです」
私の七大魔法は自分で言うのもなんだが、とても威力が強いものだ。
【防御】程度で防げるものじゃない。
それがいくらエヴァでも、無傷ではいられないはずなのに、どうして……。
「防護結界に色々と仕組んでおいたんです。一定数値以上の魔力による魔法が触れた場合その魔法を吸収する、など」
「……あの爆発はあなたが偽造したのね」
「はい。ユリアーナ様が油断するように、と思いまして。……案の定油断して、見事に騙されていましたね」
「~~っ」
すっごいムカつく。
だけど合ってるから言い返せない……。
「威力は十分です。私も結界に細工していなければ傷の一つや二つはつくと思いますよ。まあ、かすり傷でしょうが」
―――いちいち癪に障る言い方をするなぁおい。
エヴァは必要最低限の演技しかしない。
だからこれはエヴァの本心だ。
天然の無自覚煽り魔である。
「先程の威力を見てみますか?」
「……一応見せて」
「かしこまりました。……【放出】」
エヴァが吸収した私の七大魔法が発動される。
大きな音と爆発、爆風が吹き荒れた。
当たったところはエヴァの魔法によって【修復】し始められているが、かなりえぐられている。
―――でも防がれた。吸収された。
そしてまた、これ以上をエヴァは出せると言っている。
恐ろしい人だ。
実力不足だと思い知らされる。
「……エヴァ」
「なんでしょう」
私は今、とても重要なことに気づいた。
「さりげなく私を抱っこしてるのはなんで?」
私が、今、抱っこされているということだ。
「魔力封じの枷で拘束させていただいておりますので、いざという時にユリアーナ様を守るためです。今のユリアーナ様では守られる側の弱者ですからね」
「じゃあ早く枷を外してよ」
「勝負に負けた罰のようなものです」
「エヴァが一歩でも動いたら私の勝ちなんでしょ? なら私の勝ちじゃない」
「本当に勝ったとお思いですか?」
「……はぁ。わかったわよ」
負けを認めるのは嫌なのでエヴァの好きなようにさせる。
―――……思ったより抱っこうまいな。
なんて思ったのは秘密である。
「ユリアーナ様はまず魔力量を増やしてもらいます。そして、戦い方を学んでもらいます」
「戦い方? 学ぶ必要ある?」
「重要なことです。自分よりも強い人物と戦うとなった時、重要になるのは魔力ではなく……」
エヴァは自身の頭を指し、
「頭脳になります」
と言った。
「すなわち、知力こそが勝利を左右する大事な鍵になるのです」
「ふぅん……。知力があれば、エヴァに勝てる?」
「今よりも勝率は上がります」
「ちなみに今はどれぐらい?」
「100パーセント勝てません」
「それは言い過ぎじゃない?」
「事実を述べただけです」
「……」
―――うん。そうだよね。エヴァはそういう人だもんね。知ってたよ。うん。
それほどにエヴァとの力の差があるのだ。
「今の魔力でどれぐらいの魔法を使えますか?」
「傷一つ分の【治癒】ができるぐらいかな」
「そうですか。この状態で襲われたらどうなるかわかりますか?」
「死ぬわね」
「その通りです。なので今から武術を教えます。護身術優先で指導を行いますが、剣術も並行して教えます。いいですね?」
「ん、わかったわ」
エヴァは私を地面に降ろし、剣を取り出す。
「それではお待ちかねの武術の授業に入らせていただきます」
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