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第一部
77.あれ、私なにかやっちゃった!?
しおりを挟む「もうすぐだ、ユリアーナ」
馬車に揺られ、遠方の地にやって来た。
リンドール公爵家の当主のお父様と、メイド(兼護衛)のサーシャとルアが同行している。
私は今日、お見合いをする。
「アルトゥール様はどんな人なの?」
アルトゥール・シュヴァリエ。
私が今日会う予定の人だ。
お父様が選んだ、私に縁談を打診した家の中で最もちゃんとしている人だそうだ。
「……アルトゥール様はエリアーナと同い年の少年だ。博識で大人びていて、性格は温厚。シュヴァリエ伯爵家の次期当主だ」
そうそう。
つい先日、お母様の妊娠したことが判明した。
『弟ができたわよ』
『ええー!?』
―――さらっと明かされた時はびっくりしたよ、ほんと。
赤ちゃんは男の子だそうで、〈精霊の愛子〉のお母様なら無事に産むだろうと医師が言っていた。
よって私はどこかしらに嫁ぐことになる。
縁談なんて前世も含めて初めてなので緊張するが、そこまで心配しなくてもいいとお父様が言った。
「絶対婚約するわけでもないんだ。気楽にしていなさい。……ほら、ついたぞ」
大きな屋敷だ。
リンドール邸に負けず劣らず、財力の底力を感じさせる。
だが決して華美ではなく、質素でもない。
ルアの手を借り、公爵令嬢として似つかわしい動きで馬車を降りる。
執事と思われる人に案内され、部屋に入る。
「お久しぶりですディール様。そして初めまして、ユリアーナ様。シュヴァリエ伯爵家当主のダル・シュヴァリエと申します」
「妻のイザベラ・シュヴァリエです」
ダル様もイザベラ様も貴族らしい風格がありつつも、優しそうな人だった。
そして―――
「お初お目にかかります、アルトゥール・シュヴァリエと申します」
―――わっ、綺麗な人……。
雪や白樺といった冬を連想させる白銀の髪に、霞かかったシルバーグレーの瞳。
育ちの良さがわかる佇まい。
纏う雰囲気はどこか儚げで、貴族としての格が存在しているように見えた。
―――冬の化身だ。
一目見て、そう思った。
「……ユリアーナ様?」
「あっ……」
思わず見惚れてしまい、挨拶をするのを忘れてしまった。
慌てて私は頭を下げた。
「ユリアーナ・リンドールです。よろしくお願いします……っ」
静かな時間が部屋に流れる。
―――あれ、私なにかやっちゃった!?
「えっと、あっと……」
するとアルトゥール様が微笑んだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、ユリアーナ様」
「あ、ありがとうございます、アルトゥール様」
「お役に立てたようで嬉しいです」
フォローされてる感満載だね。
ちょっと恥ずかしい……。
「父上。ユリアーナ様と共に庭園を見て回りたいのですが、よろしいでしょうか」
「それはいい考えだ。どうだろうか、ユリアーナ様」
「! ぜひ!」
「それはよかった。……ディール公爵、少しの間、ユリアーナ様と過ごすことをお許しください」
「許可する」
お父様の許可が降り、私はアルトゥール様にエスコートされて庭に出た。
―――大きい庭……。
薔薇がいっぱい咲いている。
よく手入れされた庭だ。
―――それよりも……。
私はアルトゥール様に視線を向ける。
銀髪に灰色の瞳だ。
―――まさか、主要人物とお見合いすることになるとはね。
クソ王子やノーブル様に負けず劣らず、女性が卒倒しそうな美形である。
あ、ちなみに私は耐性があるのでそこまでダメージを受けない。
ノーブル様やレティシア様はもちろん、中身はクソでも見た目は国宝級の美形のクソ王子と何度も会い、話しているのだ。
慣れとは恐ろしいものである。
「これは香りの強い薔薇で、香水などに使われます。こっちは大ぶりなので花束の主役になることもありまして……」
―――詳しいな……。
このままいけば、アルトゥール様は私の婚約者になるのだろうか。
お互いのことなんか、全然知らないのに。
「……様、ユリアーナ様」
「っ、はい」
「ここに咲いている薔薇は普通の薔薇と違うのですが、何が違うかわかりますか?」
「えっ……? うーん……」
―――見た目は普通の薔薇だけど……あ!
「微量ですが、魔力が流れてます!」
「正解です」
基本的に植物は魔力を宿さない。
カレンのところで見たのは数少ない例外だ。
だとしたらこの魔力は外部から受けたもの。
他の薔薇も同じように魔力が流れてる。
これらの薔薇に共通し、且つすべての薔薇に魔力を行き渡らせることができるとしたら……。
「水に魔力を含ませているのですか?」
「! はい。その通りです」
だから魔力を宿しているのか。
「どうして魔力を?」
「植物が魔力を栄養として取り込めば、別の変化が見られるかもしれませんし、単純に綺麗だからです」
「なるほど……」
面白い。
リンドール邸でも試してみようかな。
「植物に興味があるのですか?」
「ゼロではないですが、あまり知識はなくて……申し訳ありません」
「いえいえ。我が家に咲く薔薇は特に希少なものですし、植物の知識など普通、習わないでしょう。知らなくて当たり前です」
「でも、アルトゥール様は好きなんですよね? 植物」
「……!」
ずっと笑みを浮かべていたアルトゥール様だったが、その瞬間、軽く目を見開き、驚いたように見えた。
――――――――――――
著者から/
いまだにキャッチコピーの回収ができておらず、「あれ、これ、いつになったら恋愛になるんだ?」と著者が自問自答することがしばしば発生していますが、気長に待っていてくださるとありがたいです。
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