悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

79.諦めないで

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『ユリアーナ。人を見た目や、他者から聞いたことだけで判断してはいけない。自分の目で見たことが、一番確かな情報だ。だから、まっすぐに向き合いなさい』

 アルトゥール様が盲目であることは、事前にお父様から聞いていた。
 だから別に、驚くこともなかった。

「昔はちゃんと見えたんですけど、だんだんと悪くなって、今では何も見えません。微かな魔力を頼りに、動いている状態です」

 植物に魔力を流しているのは、研究も兼ねてのことなのだとアルトゥール様は言った。
 この環境なら、私も目を閉じて歩くことができるだろう。

「視力が回復するのは難しいそうです。おそらく一生、このままでしょう。だから私は欠陥品です。目の見えない、役立たずな欠陥品。この家の者として生まれなければ、とっくに死んでいると思います」

 なんでアルトゥール様が欠陥なんて言葉を使うのかはわかる。
 欠陥は欠点とは違う。
 同じように見えるが、まったく違う。
 欠点とはまだ直せる残念なことを指すが、欠陥は直しようがない手遅れな状態を言う。

―――諦めないで。

 『普通の人』と同じ扱いを受けること。
 『普通』に生きること。

―――そんなの、望まなくていい。

 望む必要なんか、ない。

「なんでそんなこと言うんですか」
「……、……わかるでしょう? 私は『普通の人』じゃないです」
「盲目なだけで、他は何も変わらないじゃないですか」
「そう言ってくれるのはユリアーナ様だけです。嬉しいですが、これが現実です」
「違います」

 やっぱりアルトゥール様は、由良わたしと似てる。
 そうやって諦めて死んだ、由良わたしに見える。
 その理由はわかってる。

「アルトゥール様。それは決めつけです。『普通の人』ってなんですか? 『普通』ってなんですか? そんなの人それぞれです」

 『普通』の定義は難しい。
 価値観が違うように、普通も違って当たり前だと私は思う。

「アルトゥール様は、目が見えません。だけど、のことで普通じゃないと本気で思っているんですか?」
「ユリアーナ様……」
―――大丈夫。

 アルトゥール様なら、大丈夫。
 だって、病室で一生を終えた由良わたしとは違うのだから。

「アルトゥール様は『普通の人』ですよ。だって、今こうして私と話しているじゃないですか。ほら、手も握れる。感覚がわかる。同じ世界で、同じ言語で今、私たちは話して生きている。私は十分、『普通の人』の人だと思いますよ」

 盲目だからか、アルトゥール様は少し浮いている。
 白髪だから、という理由で浮く私と似ている。

―――私たちは似たもの同士だ。

 だから私はアルトゥール様の気持ちがわかる。
 『普通じゃない人』と思う方が楽になるのだ。
 普通じゃないから、と諦めることができる。
 それはとても楽なことだ。
 だけど―――

「アルトゥール様。諦めないでください。アルトゥール様は……まだ、諦めちゃダメです」

 どうか負けないで、強く生きてほしい。
 これは私個人の願いだ。


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