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第二部
105.勘違いからの○○発言
しおりを挟む―――そろそろ時間か。
「アルトゥール様」
「はい。講堂へ行きましょうか」
入学式まであと10分。
私たちは入学式が行われる講堂へと向かう。
―――エトワール、広かったな……。
入試でしか来たことがなかったので、ちゃんと見学するのは今日が初めてだった。
国内有数の名門校とだけあって、校舎は広く綺麗で、設備も充実していた。
おそらくリュカ様が作ったであろう結界も丈夫で、警備的にも特に問題はなさそうだ。
―――おや? なんだ、この声……?
小さな声だが、微かに何かが聞こえる。
嫌な予感がする。
「ユリアーナ様?」
「……すみませんアルトゥール様。先に講堂へ向かってくれませんか?」
「それは構いませんが……ユリアーナ様はどこへ?」
「少し、行かなくてはならない場所ができました」
「……わかりました」
アルトゥール様は私から手を離す。
「気をつけてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
私は軽く走って向かう。
―――【魔力探知】【能力向上】【集音】
遠くで話している人の声が、すべて聞こえてくる。
『ねえ見た見たー?』
『その飾りとっても素敵ね』
『ばっかじゃねえの?』
『おいこら待て!』
『急がないと遅れちゃうっ』
様々な人の声を掻き分け、判別していく。
『こっちこっち!』
『それでなにがあったの?』
『あの先生めっちゃ美人……』
『講堂ってどこだっけ』
そして―――
『やめ、て、ください……っ』
―――見つけた!
私が聞こえたのは女子同士が何かを争っている声だった。
『バカじゃないの?』
『てか、なにこれ。不要物じゃん』
『変なの~』
悪意のある声だ。
聞いていて不快な、嫌な声。
―――万が一を考えると、見過ごせないよね。
ブライト様とノーブル様を狙った刺客が生徒の可能性だってある。
もし、他生徒を人質に……なんて考えすぎだろうが、もしかしたらを想定して動くことは大切だ。
―――あとちょっと……!
駆けつけたそこには、4人の女子生徒が揉め事をしていた。
「あ、あのっ、やめて、くだ、さい……!」
「ちょ~っと意味がわからないなぁ」
「こんなに大きい荷物持って、どうしたのって聞いてるだけじゃない」
「こんな雑魚《ザコ》級であろう私たちに、なにをそんなにビビってんの? 魔法使わないの?」
真ん中にいる子は、涙目になりながら奪われた布で包まれた何かを必死になって取り返そうとしているが、他の子に邪魔されて、怯んでいる。
―――いじめじゃん。
こんな入学早々からいじめ現場を目撃することになるとは、私も運が悪い。
エトワールでもこういうガラの悪い生徒はいるのだと思うと、嫌な気持ちになる。
―――ん? あの制服……。
よく見ると、いじめられっ子の制服が他の子と違うことに気づいた。
他の女子生徒のリボンタイの色は赤なのに、いじめられっ子は青なのだ。
リボンタイの色は学年で違い、1年生は赤、2年生は黄色、3年生は緑と決まっている。
ちなみに特待生はどの学年でも青だ。
つまり、あの子は私と同じ特待生ってことになる。
―――助けるとしますか。
「こんな暗い場所で寄って集まって、なにをしていらっしゃるのですか」
「っ、だれ、あんた?」
「! その髪……あなた、まさか……!」
どこに行こうと、やはりこの白髪は目立つ。
そしてここはエトワール。
青のリボンタイも加われば、誰かぐらいはなんとなく察しがつくだろう。
私は貴族らしい笑みを浮かべて名乗った。
「お初お目にかかります。ユリアーナ・リンドールと申します。あなた方はいったい、なにをしていらっしゃるのですか?」
「っ……どうしてここに?」
質問を別の質問で返すのか。
「もうすぐ入学式が始まるというのに、不思議なことをしているなと思ったのです。それで近くで見たら、私と同じ特待生の方が『やめてください』と懇願しているのに、まるで嘲笑うかのようにしていらっしゃったので……。それで、何をしていらっしゃったのですか? 場合によっては―――」
氷の冷気を足元から発し、手にはすぐに発動できるよう、氷の魔法を展開させる。
「然るべき制裁を下します」
ひぃっと息を呑む声がした。
そして彼女らはすぐに逃げていく。
その時、強引にもいじめられっ子から奪ったであろう物を私に押し付けて、見事なほどの早足で。
―――さすが脇役。取り柄は逃げ足の速さってところか。
私は改めていじめられっ子を見る。
三つ編みにされた茶色の髪。
黒い眼鏡の奥に見える、前髪で隠れかかったエメラルドのような綺麗な瞳。
―――準主要人物ってところだね。
プルプルと震えている。
怖がられないようにしなければ。
私はいじめられっ子と同じ目線になるよう、しゃがんで話しかけた。
「大丈夫?」
「っ……」
―――まぁ、そうなるよな。
魔法を展開したのだ。
大抵の人は怯える。
私が一級魔術師ってことか、気味が悪いという白髪のせいか、そのどちらかだ。
「はい。これ、あなたのなんでしょ?」
「! ぁ、わた、し、の、でしゅ……っ」
―――噛んだ……。
いじめられっ子は荷物を受け取ると、大事そうに抱えた。
―――何が入ってるんだろ、これ。
細長い何かなのはわかる。
触った時の感覚だ。
―――予想は杖だけど……。
こんなに長い杖を使う人など、限られている。
アンリィリルでは15センチまでの長さの杖なら一般人でも持てることになっており、それ以上の長さ……特に、背丈ほどの長さの杖を持っていいのは一級魔術師と王族までとなっている。
―――ま、杖があっても魔法の精度はそんなに変わんないけどね。
一級魔術師にもなると、杖がなくても杖がある時と同じ精度で魔法を発動することができるようになる。
威力はちょっと上がるが本当にちょっとだし、杖は重いのであると動きづらい。
正直、飾りみたいな物だ。
―――にしても、この子、全然しゃべらないな。
口を固く閉じて震えたまま、ずっとそうしている。
エトワールの特待生が「経済的弱者」や「訳アリ実力者」という噂は本当のようだ。
どちらにせよ、この子に特待生になれるほどの実力はあるはず。
あるはずなのだが―――
―――こんなに魔力が少ないのに、特待生の実技試験を突破したってこと?
魔力が少ないと高度な魔法はもちろん、威力も小さくなる。
なのにこの子は特待生の実技試験を突破したことになる。
信じられない。
フィルみたいに〈精霊術〉が仕えるってわけでもなさそうなのに。
なのに、どうして―――
「シャノン!!」
どこからか声がして、暗い赤の髪の少年がやって来た。
―――金色の瞳……。
赤髪に金色の瞳とは、完全なる主要人物ではないか。
さっきのセリフだと正統ヒーロー系か?
「大丈夫か、シャノン?」
「か、カルム……ごめ、なさっ……」
「こいつになんかされたのか?」
「っ、わた、しは……」
―――あれ? なんか嫌な予感が……。
そしてその予感は的中する。
「おまえ、シャノンに何をした?」
―――敵認定されてる!!?
ものすごく誤解されている気がする。
「ちがっ、う! カルム、その人は……」
「大丈夫。シャノンは黙ってて」
「かる、む……」
何も知らない第三者からしたら「虐められていたヒロインに駆け寄り、悪女と対峙しようとしているヒーロー」と認識するだろう。
―――私、悪女じゃないのに! むしろ逆の救世主側なのに!
私は貴族らしい笑みで話しかけた。
「……カルム様、でしたか?」
「気安く名前を呼ぶな。醜女」
―――初対面なのにめっちゃ嫌われてる~。
落ち着け、私。
どんなに勘違いしている相手でも、公爵令嬢とは知らずあろうことか初対面の女子を醜女と呼ぶやつでも、平常心を保たなければ。
「勘違いなされているようなので訂正しますが、私は彼女に暴力はもちろん、悪口を言った覚えはございません。むしろその逆。他の女子生徒に絡まれていたところをお助けして今に至ります」
「……信じられるわけないだろう」
「証拠も何もございませんものね。当然のご意見です。で、す、が、神に誓って彼女を害したこと、害そうとしたことはございません。事実かどうかは彼女に『冷静になったあと』『急かさずに』『寄り添って』お聞きくださいませ」
「…………」
「それでは私は失礼します」
恭しくお辞儀をすると、私はその場から立ち去る。
そして―――
―――なんだったんだのあの子!? 人に対して醜女とかひどくない!?
怒りマックスで悶々としていた。
―――醜女って言ってたけど、私、十分美少女よ!? 自分で言うのもなんだけど、白髪碧眼って時点で勝ち組よね!?
それなのに醜女だなんて、いくらなんでもひどすぎる。
―――あれ、そういえば……。
あの男の子のリボンタイの色は青だった。
つまり―――
―――あの子も特待生!?
特待生ってこんなに多いものだったろうか。
いや、今はそれどころではない。
「入学式に遅れる……っ!」
案の定、遅れて参加した入学式は無事に終わり、晴れて私はエトワールの生徒となることができた。
――――――――――――
補足/
ユリアーナがシャノンをいじめていた人たちの前で魔法を展開したのは脅しのためです。もし言及されても「発動してませんけど、なにか?」と言うつもりでした。
ユリアーナは口喧嘩より物理の喧嘩の方が得意なので、つい思考が物騒な方に傾くことも。そこは父のディールに似ています。
補足2/
遅れてやって来たユリアーナにアルトゥールは心配しつつも深追いはしませんでした。内心、何があったのだろうかとソワソワしていますが、怪我なく帰って来たことに安堵しています。マナ・ライアー襲撃事件から、アルトゥールは心配症になりました。
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