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第二部
111.問題児な特待生
しおりを挟む「異学年交流魔法戦?」
学校にも比較的慣れてきた頃、グレース先生により特別寮のある一室に招集がかかった。
集められるのは入学したとき以来で、私が着いた頃にはもう全員座っていた。
「全学年が参加する大規模な魔法戦だ。生徒同士の仲を深める良いきっかけになる行事だな」
「エトワールの三大行事のひとつでね、とっても盛り上がるの!」
なんだかおもしろそう⋯⋯。
そんな行事があるだなんて知らなかった。
「異学年交流魔法戦は実技試験も兼ねた行事だから、みんなやる気になるんだ。今後の自分の課題を知ることもできるし、良いことだらけだな」
行事であり試験となると誰も手は抜けないだろう。
よく考えられた行事だ。
「個人戦も団体戦も行うのですか?」
「団体はあるにはあるが、基本ペアでの魔法戦だな。先輩と後輩でペアを組むんだ。個人戦は普通の実技試験か、冬期休暇後に行われる他校との魔法戦で行う」
「⋯⋯騎士団や魔法兵団に入った場合を想定したものなのですね」
「ああ。最近の若者は特に、協力するということを知らないからな。己の実力を示すことしか頭になくて困る」
社会に出れば複数で行動することが多くなる。
そのときにすぐ協力できるかどうかは生死にも直結することがある。
自己アピールがうまいのは決して悪いことではないが、それを戦闘にまで持ってくる輩は少なくない。
今のうちに『命令通りに任務を遂行する』とか『他者を尊重して臨機応変に行動する』とか、そのぐらいのことはできるようになっておいてほしい。
―――ときどきいるんだよね、自分の実力を過信して勝手に動くバカなやつが。
どうか次世代の人は優秀な人材であってほしい。
本当に切実に願う。
「ペアはどのように決まるのですか?」
「公正なくじ引きで決めるのが本来の決め方だが、特別寮は人数も少ないし、今年は特にいろいろとあるから、事前にこちらで決めさせてもらった」
たしかに現在の特待生は7人。
相性もあるからペアのパターンは限られる。
「フォルツァとカルム。カレンとライラ。ノエルとユリアーナ。今回の魔法戦はこのペアで行ってもらう。シャノンは諸事情で魔法戦には参加しない。魔法戦までの期間、ペアで練習したり本番の動きの計画を立てたりして試験に備えるように。以上、解散」
私のペアはノエル先輩か⋯⋯。
「がんばろね、ユリユリ!」
「はい。よろしくお願いします。ノエル先輩」
―――ユリユリなんて初めて呼ばれたな⋯⋯。
ノエル先輩は同じ女子だし自分から話すタイプのようなのでコミュニケーションに関しては心配していないが⋯⋯正直、どんな行動に出るか予想しにくい人なので、うまくやっていけるかどうか心配だ。
けどきっと先生は実力はもちろん性格とかも考えてペアを選んだはずだ。
なら多分大丈夫だろう。
「ユリアーナ」
「? はい。なんでしょうかグレース先生?」
「ノエルを頼む⋯⋯」
―――え、どゆこと?
普通、ノエル先輩に「ユリアーナの面倒、ちゃんと見ろよ」とか言うのでは?
なんで1年生に「2年生を頼む⋯⋯」なの?
その疑問を解消する前に、私はノエル先輩に引っ張られた。
「さ、行こっかユリユリ!」
「え? わっ、あっ、ちょっ待っ⋯⋯」
「―――止まれ、ノエル」
「どーかした? グレースせんせー?」
グレース先生の言葉で180°進行方向を変えたノエル先輩。
その影響で転びそうになったが、なんとかバランスを保つことができた。
ノエル先輩のグレース先生ラブ度、やばい。
「分かってるとは思うが、条件を忘れるなよ」
―――条件⋯⋯?
ノエル先輩を止めてまで念押ししたい条件って、なんだろう。
「⋯⋯わかってるって。話はそれだけ?」
「ああ。もう行っていいぞ」
―――え? ほんとにそれだけ?
「じゃ、またあとでねグレースせんせー! 今度こそ行くよ、ユリユリ!」
「行くってどこへ!?」
急に走って、止まって、また走って、私は特別寮のもっと奥にある山の頂上に連れてこられた。
「ぜぇ⋯⋯はぁ⋯⋯」
―――息、苦しい⋯⋯もう、走れない⋯⋯。
「んー! 風が気持ちかったね~ユリユリ」
―――全然気持ちよくないし、むしろ死ぬかと思った。
あんなに走ったのに汗をかくこともなければ息切れした様子もないノエル先輩。
なんなんだこの人⋯⋯私と同じ人間なのか?
「どうしてこんなところに来たんですか?」
「決まってるじゃん。作戦会議をするためだよ」
「⋯⋯防音結界をして話せばいいだけでは?」
「人によっては読唇術を身に着けてるから、話してることバレちゃうんだよ」
そんなに警戒しなくてもいいと思うが、前に何かあったのかもしれない。
「もうひとつ質問させてください。どうして【飛翔】を使わずにわざわざ走ってここに来たんですか?」
「特に意味はないよ。なんか走りたかったから走った!」
―――なんか走りたかったから走った⋯⋯?
「⋯⋯あの、今度から走るときは言ってほしい、です。私はノエル先輩ほど体力ないので⋯⋯」
ノエル先輩はきょとんとすると「なんで?」と訊いた。
「もしかしてユリユリ、魔法使いなら体力なくてもいいと思ってる?」
「そういうわけじゃないですけど⋯⋯」
「なら、わかるでしょ? もし所持品を全部奪われてて魔力がゼロだけど逃げないと殺されるってなったら、走って逃げるしかないよね?」
「っ、それ、は⋯⋯」
「ユリユリが死にたいなって思うんなら別にそのまま抵抗せずに殺されればいいと思うけど、ユリユリ、死にたくないでしょ? なら、いざって時のために鍛えるべきだよ」
ノエル先輩の言っていることは―――正しい。
私は自分に甘いから、心のどこかできっもなんとかなると思っている。
でも、もしまたマナちゃんみたいな人に狙われたら⋯⋯無事に済むなんて、不可能に近い。
「鍛えるのは辛いし苦しいかもだけど、でも、絶対に自分のためになるよ。それに―――生きたくても殺されそうになることだって、あるんだよ」
そう言ったノエル先輩は、とても、とても苦しそうに見えた。
「ノエル先輩⋯⋯?」
「はいこの話、終わり! じゃー早速作戦を言うね」
「⋯⋯さっきは作戦『会議』って言ってましたよね?」
「会議だよ? あたしの考えた作戦に対して客観的な意見をもらう会議」
―――思ってた会議と違う⋯⋯。
まあ別に私に何か考えがあるわけでもない。
ノエル先輩の案をそのまま採用することになるだろう。
「どんな作戦なんですか?」
「ふふっ。これはねぇ~、もう完っ璧な作戦だよ。その名も―――全部ぶっ壊し作戦!」
「却下で!!」
「即答っ!? なんで??」
―――なんで、って⋯⋯。
グレース先生がノエル先輩を頼んだと言った理由がよくわかった。
ノエル先輩は特待生になるほどの実力はあるけど、いろいろな面で問題児なのだ。
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