悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

文字の大きさ
119 / 158
第二部

113.文通

しおりを挟む



―――そろそろかな。

 エトワールの特待生として学校生活をおくっている私だが、本来の目的は一級魔術師としての任務のための入学。
 エヴァに頼みっきりだが殿下たちの護衛も任されているため、定期的に情報を送ることになっている。
 場合によっては秘匿しなければならない案件も存在するため、アンリィリル王国には一級魔術師専用の運び屋がいる。

―――きた。

 羽が風を切る音がした。
 窓を開けて、私は彼女を迎える。

「いつもありがとう、ポポロ」
「ポポッポッ!」

 金色の羽に包まれた小鳥・ポポロ。
 彼女は一級魔術師に情報伝達を行う使役鳥だ。

「今日はお手紙いっぱいね。重かったでしょう? ごめんね」
「ポロロッポロッポポッ」

 大丈夫だと言うかのように元気に飛ぶポポロ。
 再度ありがとうと言って、私はポポロの足にくくりつけられた手紙をとる。

―――リュカ様からは報告書の提出、ライゼ様からは意見書か。ミア様からのもある⋯⋯緊急性はなさそうだから後回しっと。

 優先順位を考えなければ大変なことになる。
 一級魔術師になってから強く実感したことだ。

―――あ、あったあった。

 お仕事関係の以外の唯一のお手紙には、綺麗な文字で『リアナへ』と書かれていた。
 何度も見てきた文字だから、誰の手紙かはわかる。
 これは〈天蓋の魔術師〉のウィリアム様の文字だ。
 ウィリアム様は同じ一級魔術師の先輩で、個人的に文通を交わしている人だ。
 常に大人の余裕みたいな雰囲気があって、困っていたらすぐに助けてくれる、最高の先輩である。

―――あれ? なんか入ってる。なんだろ。

 妙に便箋が厚く膨らんでいたので開けてみると、そこにはいくつかのティーパックが入っていた。
 それも、『休憩も大事だよ』というメッセージ付きである。

―――なんて素晴らしい上司⋯⋯!!

 他の人ならば『頑張ってね』と言うところを、あえて背中を押さず応援するメッセージ!
 ティーパックと一緒に添えることでもらった側としても一息つこうという気になれる。
 ウィリアム様はそこまで見越して書いたのだろうか。

「ポロッポポッポッポッ」
「あぁ、ごめんねポポロ。お返事を書くから、ちょっと待っててくれる?」
「ポロッポー!」
「ふふっ、ありがと」

 棚の奥にしまってあるガラスペンとインクを取り出し、ウィリアム様宛の手紙を書く。

―――何を書こっかなぁ~。

 やはりまずはティーパックのお礼から。
 そのあとはいつも通り近況報告だろう。
 ウィリアム様との文通は、もうかれこれ3年は続いている。

『〈天蓋の魔術師〉ウィリアム・アスターと申します』

 知的で品性があり一級魔術師の中で私が最も尊敬する人、それがウィリアム様である。

『ユリアーナ、か。良い名前だね。リアナって呼んでもいいかい? リアムとリアナ。似た者同士、仲良くしてくれると嬉しいな』

 ウィリアム様に話しかけてもらえたから、他の一級魔術師の先輩と仲良くなれたようなものだ。
 あの時はとても緊張していて、うまく話せなかったのをよく覚えている。

―――よし、できた。

 丁寧に便箋に入れ、封をして、リュカ様に提出する用の報告書とともにポポロの足にくくりつける。

「それじゃあお願い、ポポロ」
「ポロッポー!」

 空高く飛んでいくポポロを見届ける。
 すると―――

「窓は開けないほうがいいと言ったはずですよ」
「! エヴァ⋯⋯!」

 屋根に腰掛けていたエヴァが、するりと私の部屋の中に入る。

「⋯⋯もしかして、ずっと待ってた?」
「大した時間ではないのでお気になさらず」

 エヴァはそう言っているが実際はどうなのだろう。
 待たせていたとしたら申し訳ないな。

「〈天蓋の魔術師〉と文通をしているというのは事実だったのですね」
「別に隠しているわけではないのだけれど⋯⋯」
「少なくとも表立って言うことではないですね。ユリアーナ様はシュヴァリエの次期当主と婚約されていますし」

 いくら同じ一級魔術師とは言え、ウィリアム様は男性。
 私とウィリアム様の間に恋愛感情は存在しないが、婚約者持ちの女性が異性と文通するのは、あまり褒められたことではない。

「根も葉もない噂でも、広まってしまえば大きな力となります。あまり知られないように」
「はぁい」

 素直にエヴァの忠告を聞いたほうがよさそうだ。

「―――それで、本題は?」

 エヴァが私の部屋に来るのは何か用事がある時だけと決まっている。

「先日依頼された件で、お話があります」
「⋯⋯」

 数日前、私はユリ経由でエヴァに“あること”を依頼した。

「急な提案で申し訳ないのですが、明日の夜、面会できそうです。迎えに来ますので、ご準備を」
「わかったわ」

 エヴァは軽く頷くと、どこかへ行った。

『エヴァ様はご主人様が思っている以上に多忙ですよ』

 前にユリがそんなことを言っていたっけ。
 確かに『ノイア・ノアール』での仕事に加えて殿下たちの護衛と、今回の件と⋯⋯

―――ってあれ? 忙しくしてる原因、私じゃね?

 いや、でもちゃんと対価は払ってる。
 引き受けたのはエヴァだ。
 私は悪いことなんかしてない。
 ⋯⋯してない、よね?



――――――――――――
補足/
 いっぱい出てきた人物について紹介します。全員一級魔術師で、(性格や生活面を除けば)皆、素晴らしい人たちです。
・リュカ⋯クソ硬結界を作れる。真面目で実直。
・ライゼ⋯魔導書を使える。酒を飲むとすぐ酔う。
・ミア⋯魔法科学者。いつか過労死するかも。
・ウィリアム⋯旅人気質。天候系の魔法が得意。
 一級魔術師はあと5人います。上の4人よりも分野によっては問題児です。本編に出るのはもう少しあとになるかと思われます。気長にお待ちください。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...