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第二部
117.トリプルデート
しおりを挟む―――うそでしょ、エリィ姉さん。
カラフルな街並み。
にぎやかな人々。
休日ということも相まって、市場には活気がある。
―――まさか考案して次の日に実行されるとは⋯⋯エリィ姉さんすごすぎ。
「こっちだよ、ユリィ。早くおいで」
「っ、うん。今行く!」
今日はアルトゥール様たちとトリプルデート(?)をするため、王都の市場に来ている。
昨日のお茶会でエリィ姉さんが、恋愛相談をしたレティシア様のことを考えて、トリプルデートを考案したのだ。
『ノーブル殿下は恋心に疎いから、レティシア様とふたりきりだとそういう話題にならないと思うの。だから周りの雰囲気でなんとかなるんじゃないかな~と思って』
実際その読みは正しいだろう。
ノーブル様はどちらかと言うと奥手な方だ。
ブライト様みたいにあからさまに好意をさらけ出すのではなく、ほんのりと感じさせるようなことがちょっとあるかな~ぐらいだ。
それに、レティシア様がノーブル様のことを好きだというのは周知の事実だが、ノーブル様の気持ちは分かっていない。
レティシア様のことはどう思っているのだろうか。
ただの婚約者か、それとも⋯⋯。
まぁ、私は他人の恋愛には(身内を除いて)さほど興味がないので、特別深く考えることなんてないけれど。
「急なお誘いでしたが、お互い予定が空いていてよかったです。ノーブル様」
「そうだな。こうやってレティシアと出かけるのは久しぶりだから嬉しいよ」
レティシア様とノーブル様の仲は良い。
恋愛結婚できる可能性は十分にある。
まだ結婚するまでに時間はあるから、焦らずとも時期に距離は縮まるだろう。
「それで、今日は服飾店に行きたいんだっけ。エリアーナ」
「はい。先日頼んだものの進捗具合を確認したくて。ブライト様に教えてもらった素敵なお店だったので、ぜひレティシア様やユリィにも知ってほしいんです」
「気に入ってくれたみたいでよかっ⋯⋯」
「とっても楽しみだなー。早く教えて、エリィ姉さん」
「えっ、あっ⋯⋯うん、わかった」
背後から「どういうつもりだこの野郎」とでも言うかのような視線を感じるが、もちろん無視してエリィ姉さんと先へ進む。
どーせ結婚は避けられないんだから、婚約期間ぐらい一緒にいさせてよね。
「ユリィ、ユリィ」
「ん? なーに、エリィ姉さん」
「今日はレティシア様とノーブル様の仲を深めるためのものでもあるのよ? ユリィはアルトゥール様とイチャイチャしたほうが雰囲気的にいいんじゃない?」
「あっ、たしかに」
今日はレティシア様のために準備された日だ。
「そういうことですので、私のエリアーナから離れてくださいユリアーナ」
ぐいっ、とブライト様が私とエリィ姉さんの距離を離す。
「ちょっ⋯⋯何するんですかブライト様!」
「姉妹仲が良いのはいいことですが、あなたはもう少しアルトゥールの婚約者だということを頭に入れておくべきです」
「? 知ってますけど?」
「自覚が足りないと言っているのです。いつもエリィ姉さん、エリィ姉さんと⋯⋯⋯⋯私はまだ愛称で呼べてないというのに」
―――最後のは別じゃね?
とにかく、とブライト様は続けた。
「あなたはもっとアルを大切にすべきです」
アル、というのはアルトゥール様の愛称だろう。
たまにアルトゥール様の両親がそう呼んでいるのを聞いたことがある。
「ブライト。ユリアーナ様はただエリアーナ様が好きなだけで、そういうつもりじゃ⋯⋯」
「あなたはもっと素直になったほうがいいですよ、アル。気持ちはちゃんと言葉で伝えないと相手には届きません。いろいろと鈍い人には特に、ね」
ブライト様は私のほうを見ながらそう言う。
まさか、いろいろと鈍い人って私のこと!?
心外なんだけど!
「ブライト様。せっかく楽しいお出かけなのに、喧嘩なんてしたらつまらないですよ」
「エリアーナ⋯⋯ですが⋯⋯」
「ブライト様の気持ちは分かっています。ちゃんとユリィには伝えますから、先にお店に入っていてください。アルトゥール様も、お願いできますか? ⋯⋯うまくノーブル様を誘導してください」
「! 分かりました。⋯⋯行きましょう、ブライト。エリアーナ様もそう言ってますし」
「⋯⋯そうですね」
アルトゥール様と一緒に先にお店に入るブライト様。
その奥にはノーブル様とレティシア様が見える。
コミュ力のあるブライト様とアルトゥール様が一緒なら、レティシア様たちは大丈夫だろう。
「ねぇユリィ。ユリィはアルトゥール様のこと、嫌いなの?」
「え? ううん。好きだよ、人として。尊敬してる」
自分のできることを考え、努力する姿はとってもかっこいい。
しかもそれを当然のことと思っている。
アルトゥール様は領民から慕われる領主になるに違いない。
「そのこと、アルトゥール様には伝えて⋯⋯ない、よね?」
「うん」
返答に困るだろうし、私だったら「ありがとうございます」で会話が終了するに違いない。
「そうだよねぇ⋯⋯」
「?」
「あのね、ユリィ」
「うん」
「私、ユリィとアルトゥール様はお互いに言葉が足りないと思うの」
「⋯⋯はぁ」
言葉が足りない、かぁ。
別に言葉足らずで喧嘩するとか、そういうことはないから、あんまりよくわからない。
「アルトゥール様、多分勘違いしてるよ?」
「勘違い?」
「うん。ユリィがアルトゥール様を嫌ってるんじゃないか、って」
「え、なんで?」
なぜ、そうなる。
私がいつアルトゥール様のことを嫌いと言った?
「なんでって⋯⋯ユリィがいつも私といるからじゃない?」
「!!?」
まさか、まさか私って⋯⋯
―――婚約者よりも姉が好きなシスコンだと思われてる!?
いや、たしかに私はエリィ姉さんのことが好きだし、シスコンと言われても仕方ないぐらい大好きかもしれないよ?
でも、アルトゥール様とエリィ姉さんに向ける好意って、全然別物だよ?
エリィ姉さんへの好意は姉妹愛、アルトゥール様への好意は敬愛だ。
そもそもの種類が違う。
「アルトゥール様は優しいし、私たちが仲良しなのも知ってるから何も言わないけど、本当はユリィともっと一緒に過ごしたいと思ってるはずだよ」
「⋯⋯⋯⋯そう、かな」
「そうだよ。一度、ちゃんと話してみたら? いい機会だと思うよ」
「⋯⋯わかった」
私はアルトゥール様を嫌ってなんかないって、尊敬してますって、伝えよう。
気持ちは言葉にしないと、相手には伝わらないのだから。
――――――――――――
裏話/
昨日、ユリアーナとレティシアとのお茶会を終えたエリアーナは、まずブライトに相談に行きました。
「トリプルデートをしたいんですけど、私一人の力じゃできないんです。力を貸してくれませんか、ブライト様?」
「もちろんです」
(↑本当はふたりきりがいいけれどノーブルたちのためなら仕方ないし、可愛い婚約者《エリアーナ》の頼みは断れないブライト)
予定が空いていることを確認したあと、次にアルトゥールを巻き込みました。
「そういうことでしたら、喜んで私も協力します」
「ありがとうございますアルトゥール様」
「この機会にぜひユリアーナと仲良くなって(彼女が私とエリアーナを邪魔できないようにして)ください」
最後にノーブルをなんとかしました。
「アルとユリアーナをもっと仲良しにするため(←という建前にした)に協力してくれませんか、ノーブル」
「雰囲気を良くするためにレティシア様とイチャイチャしてくださいね!」
「あ、えっと⋯⋯お願いできますか、ノーブル?」
「友人の頼みだしな。あいつ、鈍感だし(自分も同類だとは思っていない)」
こんな感じで今回のトリプルデートが始まりました。ざっくりまとめると
・レティシアとノーブル、ユリアーナとアルトゥールの仲を深めるためのトリプルデート。ユリアーナとアルトゥールは後から付け足された第二の目的。
・第二の目的まで知ってるのはエリアーナとブライト、レティシアのみ。
・ブライト個人の願いとしてエリアーナとイチャイチャしたいと思っている。
まあつまり、今回のトリプルデートにはいろんな目的があるってことです。楽しんでいただけたら幸いです。
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