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第二部
147.生徒会
しおりを挟む正当な理由であれば校則を変えることも、授業を中断させることも、休校させることもできる、特権を持った生徒―――それが、エトワール魔法学校の生徒会役員である。
―――まさか、このタイミングで早く呼び出されることになるとは。
エトワールに入学してすぐの頃、ツェツィーリア派のリーシュ様とのお茶会で
『「いずれご挨拶に参ります」と、ツェツィーリア様から言伝を頂いております』
と言われていたから、いつかは呼び出されるだろうと思っていた。
そのことを忘れていたわけではないが、あのお茶会に行った日から、もう3カ月は経っている。
ちょっと遅くないだろうか?
だが生徒会は忙しいと聞くし……。
―――いや、でも、生徒会権限で今日みたいに授業中に呼び出すことも可能だったのでは?
わざわざ何故、このタイミングで呼び出されたかが大事だ。
なにか、特別な理由があるに違いない。
十中八九、異学年交流魔法戦の〈竜〉召喚事件は関わっている。
だとしたら、なんだ?
ツェツィーリア様は何を思って私を呼んだ?
「ここよ」
生徒会書記だというオリビア様に案内され、私は生徒会室に入った。
「失礼します」
まず感じたのは、甘やかな花のいい匂いだった。
春が過ぎ、夏の訪れを感じるような、爽やかな匂いだった。
―――あの人が……。
ほんのり黄みがかったパールホワイトの髪に、さくらんぼのようなやわらかい赤い瞳。
佇まいからして高貴な身分のお方であることが伝わる。
「お初お目にかかります、ツェツィーリア王女殿下。リンドール公爵家が次女、ユリアーナ・リンドールと申します」
深々と頭を下げ、私はツェツィーリア様のことを観察した。
微笑を浮かべているのは私に警戒されないためだろうか。
優しそうな表情をしているけれど、フリジア王国の王女という肩書を持つからか、それとも生徒会長という役職についているからか、何があってもぶれることのない芯の強さを感じる。
フリジア王国は獣人の国。
現在国を統治しているのは狐の獣人だったはず。
となると、ツェツィーリア様は狐の獣人かな?
今は人間の姿をしているから分からないけれど、多分、きっとそう。
「会えて嬉しいわ。〈氷上の魔術師〉様。貴女のことは各方面から聞いています。―――最年少で一級魔術師に就任した魔法の天才。一級魔術師試験にて発動させた攻撃特化の【息吹の結晶】に、エトワールの特待生試験で試験官を慄かせた【厳冬顕現】……。とても優秀なのだと伺っております」
「お褒めに預かり光栄です」
【息吹の結晶】はかなり多くの人に広まってしまっているから分かるけど、なんで特待生試験で【厳冬顕現】を使ったことを知っているんだ?
あの時、試験会場には試験官と私以外の特待生試験の受験者しかいなかったはずだが……生徒会権限で情報を得たのだろうか?
「ツェツィーリア様」
ツェツィーリア様の隣に立っていた男子生徒が、小さな声でツェツィーリア様に何かを言う。
すると「あっ」とツェツィーリア様が声をあげた。
「すみません。わたくしとしたことが……。まだ挨拶をしていませんでしたね。エトワール魔法学校の生徒会会長、ツェツィーリア・レーヴ・フリジアと申します」
―――綺麗な人だなぁ……。
主要人物たちと幼少期から関わっていなければ、今頃ツェツィーリア様の美貌に見惚れて思考が停止していたかもしれない。
「わたくし以外の生徒会役員も紹介させてください。……ロベルト」
「はい」
ロベルトと呼ばれた人はキリッとしていて誠実そうな印象を受けた。
ラセットブラウンの髪にくすんだ赤紫色の瞳の青年だった。
「生徒会副会長のロベルト・エトワールだ。先日は妹が大変世話になった。心からの感謝を申し上げる」
―――エトワール……妹……あぁっ!!
「ルコラ様のお兄さん、ですか?」
「あぁ」
言われてみると、ルコラ様に似ているなと思った。
茶系の色素に、真面目で実直な表情が、特に。
『あいつはエトワールの血をよく引いてるよ。真面目で誠実、紳士で素直。子供の頃の俺にそっくりだ』
ライゼ様の幼少期に似ているかはさておき、たしかに情報通りの人物だ。
エトワールの血、というのは努力家なところ、ってことかな?
「〈竜〉が現れた時、妹は転移先で治療を受けなければ、死んでいたところだった。君は、恩人だ」
「いえ、そんな。私が直接治したわけではありません。すごいのは、ルコラ様を治療した方です」
「……謙虚なのだな、君は」
「そうでしょうか? ありがとうございます」
謙虚ではないと思うよ、私。
本当のことを言っただけだもん。
ウィリアム様だったら、きっと、ルコラ様を治癒してから転移させたに違いない。
私には治癒をするための魔力がなかった。
観客を転移させるだけで、精一杯だった。
「いい子だねぇ、氷姫ちゃんは」
「っ、えっと……オリビア、様?」
「正解」
オリビア様は私を後ろから抱き締めて、ニコニコしていた。
なんか、ノエル先輩に似てる……。
「改めまして、私はオリビア・スカルラットよ。噂には聞いていたけど、氷姫ちゃんってめっちゃ可愛いね。天使だわ~」
―――天使って……。
私なんて、天使と言われるほどの容姿じゃない。
本物の天使は弟のフィリウスのほうだ。
あのぷにぷにの肌にちっちゃなおてて……癒しの宝庫だ。
「あ、あの、オリビア様」
「様付け禁止。オリビア先輩って呼んで」
「えっと、じゃあ、オリビア先輩」
「ん、なあに?」
「氷姫ちゃんって呼ぶの、やめてください」
「おっとそっちか」
―――何を言うのだと思ってたんだ、オリビア先輩?
抱き締めるのやめてください、とは言わない。
エリィ姉さんやノエル先輩にいっぱいぎゅっとされた私は抱擁に強いのだ。
……抱擁に強いって、なんだろう。
「私、氷姫って呼ばれるの、あんまり好きじゃないんです」
「え、そうなの? 知らなかったとは言え、ごめんね。ユリアーナって、呼べばいいかな?」
「はい。それなら構いません」
「ほんと? わかった。ありがとう」
オリビア様は私から手を離し、ツェツィーリア様の近くへと移動した。
「次は僕かな」
そう言ったのは、空色の髪を後ろに軽く束ねた、モスグレイの瞳の青年だった。
「生徒会会計のトーマス・スチュワートです。よろしくね、ユリアーナさん」
「よろしくお願いします、トーマス様」
「オリビアみたいに呼んでよ。トーマス先輩って」
「では、トーマス先輩、と」
そう言うと、トーマス先輩はにこりと笑って、隣の生徒に目を向けた。
―――背、高いな……。
トーマス先輩が170後半ぐらいなのに対し、その人は推定190近い。
高身長である。
―――それと、どっかで見たことあるような……。
誰かに似ている気がする。
私が会ったことのある、誰かと。
漆黒の髪に黒曜石の瞳のその青年は、カルムのようなぶっきらぼうな雰囲気を醸し出していた。
「……ネロ・アルドワーズ。よろしく」
最低限のことしかしゃべんないのか、この人?
というか、ネロって……アルドワーズって……。
『―――ネロってやつがきたら、すぐに逃げて』
『そ。あたしの弟。アルドワーズの最高傑作』
『あたし、世界で一番あいつが嫌い。あいつだけは、見たくも話したくもない』
『あたしはアルドワーズ家っていう〈黒竜の末裔〉の中でも特に血を濃く受け継ぐ一族から生まれた』
この人、ノエル先輩がずっと言っていたネロ先輩……!?
――――――――――――
補足/
生徒会の持つ権限について。
・エトワールの校則の作成、変更が可能
・(正当な理由であれば)授業を中断させることが可能
・(正当な理由であれば)休校させることが可能
作中で出たこの3つが主な生徒会の権限となっています。
具体的には今回みたいに特定の生徒を呼び出して話を聞くこともできますし、授業に全く参加しなくても、試験の際、しっかりと点数を取ってさえいれば、進級することが可能です。基本的に一般生徒でも特待生でも、生徒会から呼び出しを受けた場合、特別な理由がない限り拒否できません。
生徒会メンバーの選出は教員が行います。身分、性別問わずに優秀な者だけが生徒会に選ばれます。ツェツィーリアは隣国のフリジア王国の王女ですが、教員を脅して生徒会会長になったわけではありません。去年の成績で総合一位だったのと、彼女には人を引き付けるカリスマ性があったため、選ばれました。
補足2/
生徒会メンバーについてまとめます。
【会長】ツェツィーリア・レ―ヴ・フリジア
・フリジア王国の第一王女
・ユリアーナのことはよく噂で耳にしていたので、ずっと会ってみたかった
【副会長】ロベルト・エトワール
・ルコラの兄で、エトワール家の次期当主
・ユリアーナのことはルコラから聞いていて、これまでの感謝を伝えたかった
【書記】オリビア・スカルラット
・ツェツィーリアの友人
・ユリアーナのことを「天使」と称し、人形の如く抱き締めた
【会計】トーマス・スチュワート
・実は生徒会の中で一番の色ありキャラクター。
・立ち回りの上手さからツェツィーリア直々に生徒会に勧誘された生徒でもある
【庶務】ネロ・アルドワーズ
・ノエルの弟。〈黒竜の末裔〉でアルドワーズの最高傑作
・あのノエルに「会ったらすぐに逃げろ」と言われる人物だが、その実力は如何に……?
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