拝啓、貴方様へ

木野 章

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拝啓、お姉ちゃんへ

いち

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葬儀場にしくしくと泣き声が響く
あの女子生徒は、嘗ての桃菜の友達だろうか

すんすんと鼻をすする音が聞こえる
あの顔は、桃菜の彼氏さんだったっけな

虚脱した顔で、機械的に親戚に挨拶をする父と母
きっと二人の耳には、月並みの労りの言葉なんて聞こえていないだろう




私はただ、目の前の

額縁の中の妹を、見つめていた





もう温もりを感じることの無い桃菜の部屋

一昨日もいつも通り使っていたであろう化粧品が机に散らばっている

高校生になっても未だに抱きしめないと寝られないと言っていた兎のぬいぐるみが、ベットに寝かされている

いつも通りの桃菜の部屋


でもここに、もう部屋の主が帰ってくることは無い




「…桃花とうかごめんね。あの子のお部屋、お菓子とか腐りそうなものがあったら持ってきてくれるかしら」

桃花「…うん、分かったよ」

「…ごめんね」

桃花「謝んないでよ、あったら冷蔵庫閉まっとくし、お母さんはもう寝てて」

「…ありがとう、桃花。貴方も寝るのよ」

桃花「分かってる」




桃菜はいつもお菓子を部屋に持ってきては食べて

食べカスを零してはお母さんに叱られてたっけな



桃花「…桃菜、アンタ…どうして………」


いつも明るくて、友達も沢山いて、彼氏もいて

みんなの人気者だった桃菜

何で、桃菜は死を選んだの



桃花「…?このノート、桃菜のやつじゃないわね…また借りたままにして…」


落書き塗れのピンク色表紙のノートしか入っていないファイルラックに

桃菜が絶対に買わないような、シンプルな水色のキャンパスノートが入っていた


桃花「誰のだろう、届けなきゃよね…」


表紙を見ても名前が書いてない
名前くらい書いときなさいよ…なんて思いつつ、仕方ないから中身を拝見する

ペラペラと捲って、筆跡を見てみようとするが

中身を見た途端、思考が停止した





桃花「…………………もも、な?」
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