道ならぬ恋を

天海みつき

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過去

10’ 全ての「始まり」と、二度目の「始まり」

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 いかに国王軍が形骸化してたとしても。いかにクーデター軍が奮起していたとしても。一国を相手取った闘いは、そう簡単なものではない。私欲にかられた権力者、金にしがみ付く商人、己が第一の飢えた民。掲げられた正義は、力を持ち得なかった。

 それまでの反乱の中では最もうまくいったクーデターではあったが、やはり時がたつにつれて、オールター達は劣勢に立たされていった。終わりの見えない闘いと、敗色濃厚な反乱に、嫌気がさして仲間も減っていった。さしもの幹部たちも、もはやこれまでか、と苦渋の決断を迫られていたその時の事だった。

 ある日、オールターが自室に戻ると、一本の書簡が机の上に置かれていたのだ。綺麗好きなオールターは、責任感も相まって書類を机の上に放置する事が無い。怪訝に思ってそれを手にしたオールターは、すぐに目を見開く事となった。

 「グラン!これを見ろ!」

 意気消沈して、微かに丸まった背中を見送る事しか出来なかったグラン。それでも何かないかと、一人会議場に残って思考を巡らせていた。その時に、部屋に戻ったはずのオールターが飛び込んできて、驚いたように顔を上げた。

 「おいおい一体何が起きたんだ?これ以上のバッドニュースは勘弁だぜ?」
 「逆だ!信憑性を脇に置けば、これ以上のグッドニュースはない!」

 目を輝かせて飛び込んできたオールターの手に握られていた書簡を押し付けられ、グランは痛みを主張する頭を宥めてザっと目を通し始めた。すぐにその顔が驚愕に染まり、流し読みが精読となった。何度も読み返した後、グランは呻いて机に突っ伏した。

 「うそぉ。どっから出てきたんこんな物」
 「知らぬ間に誰かが俺の部屋に置いていったらしい。俺もさっき気が付いた」

 興奮気味のオールター。二人の視線が注がれる先にある、書簡に書かれていたもの。それは、獅子王側の詳細な内部情報だったのだ。

 初めまして、という挨拶から始まるソレは、彼らの活動に一縷の望みをかけている事、信じてもらえるかは分からないけれど僅かにでも信じてくれるのであればどうか活用して欲しい。そう書かれていた。そこには直近の王側の作戦も綴られていた。オールター達からすれば喉から手が出る程に欲しい情報だった。

 「で、ここで問題だ。これの信ぴょう性はどう思う?」
 「……少なくとも、これを書いた奴は頭がよさそうだっていう事くらいだな」

 真剣な顔で尋ねてくるオールターに対し、ぐったりと机に頬を付けたままのグランが呻く。書簡には、直近の作戦が綴られていた。それらの大半は、クーデター軍に対する焼き討ち作戦。奇襲だ。こちらから仕掛けるという前提が無ければ、単純に逃げるだけで良いという事でデメリットはない。焼き討ち先を地図上に表示すれば、はっきり言って罠を張れそうな場所も見えてくる。警戒がしやすくなってこれまた旨い。

 この情報で信憑性を確かめてくれという、言葉なき要求を突き付けてきているのだ。それを聞いたオールターも思わず唸り声を漏らす。

 「これが信用にたるものであったら、一気に状況が変わる。これだけの情報を齎せるスパイは切り札になり得るからな」
 「とにかく、最大の警戒をしつつこの事を作戦に入れて策を立てよう」

 こうして、ごく一部のメンバーにのみ書簡の存在が知らされ、作戦が立案された。結果から言えば、書簡は真実を綴っていた。瞬く間にクーデター軍は勢いを盛り返し、活気付いた。顔も、名も知らぬスパイがオールター達を危機から救ったのだ。極秘扱いながら最大限の感謝をささげ、オールター達は進軍を続けた。

 そして、その先にて、オールターは運命の出会いを果たす。


――――――――――

 「さて。そんな出来事から快進撃を経て今に至るんだが。幾つも謎があるんだよなぁ。今まではそれどころじゃなかったが……いい加減、ケリ付けさせてもらうぜぇ?」

 翌日。王城に戻されてから初めてオールターが戻らなかった夜を過ごし、静かに窓の外の空を眺めていた時だった。

 勢いよく扉を蹴り破って姿を現したのは、グラン。ニヒルに笑ってツカツカとツェーダンに歩み寄り、真正面から見下ろしてくる。ソファに座り込んだまま彼を見上げたツェーダンは、憎悪と覚悟の入り混じった瞳をしていた。

 過去の清算が、始まろうとしていた。


**********

ここまで来てようやく仕込みがほぼ完了です……。お付き合い下さり、ありがとうございます。

次回よりグランさんたちが動き出します。物語が進み、一体何が起きたのか、ツェーダンが何を考えているのかが明らかに……(なるはずです。たぶん)

そしてそして、別の場所では別の思惑が蠢いて――。
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